カルライについて
※ヒョウガキ視点
「そろそろ帰ったらどうだ?」
私が言うと、燃えるような色をした髪の男はいやだと言って机に懐いた。
女の目を奪ってやまない整った顔が、木製の机に頬擦りする。
「ここ、居心地良いしさぁ。今日は泊めてくれよ。ね?」
何が『ね?』だ、気色の悪い。
思いながら溜息を吐いて、やれやれと首を振りつつ本を開く。
丁度開いた頁に眼球の構造写真があって、眺めなれたそれを軽く視線で撫でた。
「そんな事をしたら、お前の所の姫君達は荒れるんじゃないのか?」
私の囁きに、細められていた目が見開かれた。
髪の色を映したように紅に染まった目が、こちらを見る。
「……もしかして、今日も来たのか?」
「いいや? 一昨日だが」
答えて、それから本を傍らに置く。
「凄かったぞ? 打撲に裂傷、ああ爪痕もあったか」
思い出すのは、同じ顔をした二人の少年だった。
月に数回、どちらかがどちらかに引き摺られるようにして、この館へとやって来る。
「どれだけ聞いても喧嘩したとしか言わないがな」
そんな言葉、嘘でしかない事など私にだって分かる。
その傷を負わせているのが誰なのかも。
なのにあの子供たちは、互いに母親を庇うのだ。
「お前からどうにか言えないのか、アレは」
「……言わなかったと思う?」
ぼそりと呟いて、赤髪の男は額を机に擦り付ける。
「言ったらさ、二人して赤ん坊の首絞めやがったんだぜ?」
「……何て言ったんだ」
「俺が二人とも預かるって」
「それは、お前……」
「ちゃんと、二人にも会うって言ったんだ。けどさ、二人とも俺が子供に盗られるとか思ったみたいで」
普通、それって旦那の発想だよなぁ? と呟きつつ、男は身を起こした。
机に両手を付いて立ち上がる。
「帰ろうかな」
呟きつつ、男は窓の外を見る。
顔にありありと帰りたくないと書いてあって、心底不思議になる。
「……何でお前はあの二人と一緒に居るんだ」
こうなる前に、別れる機会は数回あった筈だ。
私達が作ったそれを、むざむざ踏み潰して無視したのはこいつなのだ。
子供まで作って、その所為で更に離れることが出来なくなって、まるで泥沼じゃないか。
私の問いに男は答える。
「だって、あの子ら俺嫌いじゃないし」
無垢にすら思える、愚かな男の顔がこちらを向いた。
頭痛すら憶えるその馬鹿さ加減に、私はまた溜息を零して、水掻きの張った手で犬を追い払う仕草をしてやった。
「ならさっさと去れ。邪魔だ」
「うっわ、ヒョウガ酷い」
勝手なことを言いながら、男は笑って扉を開け、帰宅する為に歩き出す。
己が決して嫌う事の無い、女達と子供の待つ館へと帰っていく。
何て馬鹿な男だ、それでも父親かと、あの<炎王>の顔を見る度に私は思うのだ。
end




