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ウテンについて

※セイクウ視点







 彼女は良い人というやつだ。


「君の愛情表現は変わってるよ」


 ため息すら吐いて、僕は肩をすくめて見せた。

 そうか? と首を傾げて、髪を左右で金と黒に染め分けた彼女はカップに口を付ける。


「そうさ。そうでなかったら、なんで」


 言葉を紡ぎながら、僕は口元まで運んでいたカップをゆっくりと下ろす。


「なんでこの中には薬物が入ってるんだい」


「お前はやっぱり気付くな。安心しろセイクウ、毒じゃあない」


 自慢げに言って、彼女は微笑んだ。

 この笑みが曲者なんだ、といつもながらに思う。

 悪いことをしている自覚が無いんだから。


「ただ、新しい薬を作ったから実験体になってもらおうと思ってだな」


「だからね、せめて入れる前に言って欲しいって、僕もヒョウガキもカルライも言ってるだろう?」


「言ったら断るじゃないか」


「……この薬、何なんだい」


「小さくなる薬」


「そりゃあ断るよ」


 至極簡単に、今日の夕飯のメニューを答えるように言い放つ彼女に、頭痛がしてくる。

 しかし、頭を抱えるわけにはいかない。

 頭痛に効くからと何か薬を飲まされかねないからだ。


「大丈夫、植物には成功している」


「……いろいろと間が抜けてるよ。実験段階の」


 植物からすぐに成人男性へ移行するなんて、聞いたことも無い。


「まったく、チノにはこんなことしてないだろうね?」


 少し不安になって言うと、立ち上がった彼女の手刀が額を打った。痛い。


「なんて失礼なことを言うんだ。私は立派なお母さんだぞ」


「……結婚もしてないのに、子供を預かるなんて」


「いいじゃないか。チノは可愛い」


「そうだけどね……包帯はとってあげようよ」


「そのうちな。今は、嫌がる」


 少し悲しそうに微笑んで、彼女は囁く。


「自分の額と頬を隠してるんだ」


「そう……」


 子供の自己防衛なのだろう。

 僕は、小さなチノを思い出した。

 あの子に起きた悲劇に近い奇跡も。


「……さて、セイクウ」


 彼女が言う。

 僕は顔を上げて、誰もが異端だと叫んだ小さな子供を引き取った女性を見上げた。

 彼女は良い人というやつだ。


「ちゃんと紅茶は飲んで行けよ?」


「飲まないから」




 これさえなければ。





end

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