↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そうだ、ヤッてしまおう  作者: 猫屋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/14

①ヤッてしまえばよろしいのでは?

よろしくお願いいたします。


 類似性効果という心の動きがあるように、ひとは自分と似た特性を持つものに親近感や好意を抱きやすいという現象がある。しかし反対に補完性効果という言葉もあり、ひとは己にないものを求める場合もある。

 そんな複雑怪奇なひとの心の動きを表したような歴史をたどる国がふたつ。世界地図で文句なしの大国、広い国土と世界一の魔力、武力を兼ね備えたロード帝国。そんな世界の覇者の側にいてしまったばかりに、日夜気が抜けない国、魔法国家レーヴェールと武力国家ムキントロストン。この二国は主義や戦い方、国民性全てが正反対で大変仲が悪かった。

 魔法国家レーヴェールはその名の通り魔法至上主義、魔力至上主義というような考えの国民がほとんどで、魔力の高さや使用できる魔法の種類や強さで人生が決まるといっても過言ではない。いかに肉体的な負担なく魔法を駆使して生活するかに命をかけており、「筋肉」「汗臭い」などの言葉が大嫌いである。魔法を使うにも血のにじむような鍛錬が必要なのだが、そこは気位の高い国民性だ。「え? 全然辛くありませんが?」みたいな顔をしてシラッとしている。つまりはプライドの高い痩せ我慢の国である。

 対して武力国家ムキントロストンは暑苦しい気候のせいか、国民全体の脳内温度が高い。そしてその国の気温を上げているのは彼らの鍛え上げられた筋肉のせいではないかと、囁かれるほどのムキムキばかりである。彼の国では強い肉体がなによりも素晴らしいと考えられており、魔法を使える者もほとんどいない。魔法と筋肉で戦えば魔法有利かと思われがちだが、ムキントロストンの兵士たちは愛国心、テンションともに高く、魔法使いの魔力が切れるまでフィジカルで惑わし人海戦術で押しつぶしていくのだ。合言葉の「仕上がってるよ!」をかけ合い、戦う様は狂信者のようで見たものに恐怖を与える。まさに筋肉狂信者の国である。

 そんな国は当然のごとく仲が悪かった。「なまっ白い頭でっかち」「筋肉脳が茹で上がっている」などの悪口を互いの国の代表者がかけ合っているのだから、問題は人格の可能性もあるが……。とにかく歴史的にいがみ合っている期間がとても長かった。しかし問題が発生した。それは先に述べたロード帝国の新皇帝が他国の侵略に積極的な人物で不穏な動きを見せたのが、十年前。これではいかん、とレーヴェールとムキントロストンのそれぞれの王が長年の確執を水に流し、これからは協力して国を守ろうと手をとり合ったのだ。


「貴様の暑苦しい筋力で我が国の冬が緩和したぞ」

「いつまでも部屋の中でほざいておらんと、共に荒野で修行に明け暮れよう! その弱々しい肉体は見るに堪えん!」


 と握手からの流れるような攻撃魔法と手を引いての回し蹴りが炸裂し、王の会談はしばしの戯れになった。一触即発かと思いきや会談の間の床に並んで寝転んだ王たちは意外にもスッキリした笑顔を浮かべて言った。


「……やるではないか」

「おぬしもな!」


 とまあ、このように全くタイプの違うふたりが無二の親友になったのだった。この後十年、レーヴェールとムキントロストンの親交はどんどん深まっていた。




 魔法国家レーヴェールの公爵家に「銀氷の魔槍」と呼ばれる娘がいた。その思春期の子供が考えたような鋭い二つ名の通り、彼女は冷たく光るストレートの銀髪を長く伸ばし鋭い視線を同じ部屋にいる父親に向けた。ただでさえ人形のように整いすぎた美貌の彼女が、今は怒りを込めて睨んでいるのだ。家族専用のサロンはそれはそれは恐ろしい空気になっている。朝の読書を行っていた娘、オフィーリアは本を持ち替えてから静かに口を開いた。


「大変光栄なお話ですが、私には生涯をかけて魔法研究を行うという使命があるのです。加えてお相手の国で魅力的と謳われる女性像と私ではかけ離れており、至らない私はそのような立派な方の妻という大任は務められないことでしょう。どうかこんな魔法しか能がない女は候補からお外しになって下さいませ。お相手の方にふさわしい女性との出会いを心から祈っております。ありがとうございました」

「待て待て待て! オフィーリア! そんな『遠回しな結婚の断り方』の手本通りに断るな!」

「あなたの気持ちは大変嬉しく思いますが、私はまだ結婚というものに心が追いつきませんの。どうかこの気持ちを察していだたければ……」

「ちょっとカジュアルに断るな! というかなんだその本は!?」

「嫌です」

「きっぱりっ!?」


 オフィーリアは手元の『遠回しな結婚の断り方』という本をそっと閉じた。これは心配性な彼女の乳母の手書きの本で「お嬢様はおきれいですから、きっと結婚を申し込まれすぎて困ることでしょう!」と乳母バカを発揮したものである。実際、オフィーリアは美しいのだが、氷に例えられる通り、無愛想すぎてそれほどもてない。


「勅命だぞ。断ることなどできるはずもない」

「私は魔法による国王軍への貢献を認められ王から氷冠伯の称号を賜りました。今後もこの国の魔法の発展に尽力する所存です。結婚など……。しかも……!」


 オフィーリアは幼い頃から王族も注目するほどの魔力を保持し、更には熱心に研究した結果、新たな魔法の開発や国王軍の魔法訓練の協力、災害時の現場での救助活動などが高く評価されていた。身分の高い家の娘でありながら、結婚を急かされなかったのも彼女の高い志と叩き出した結果によるものだ。しかし今回は様子が違うようだ。なぜなら彼女の結婚は国際親善として最近もてはやされている、ムキントロストンとの国際結婚の魁になればと企画されたイベントごとなのだ。それも王主導の。

 それを聞いたオフィーリアはせめて口頭でも抵抗してやろうと、既に腰が引けている父に問い詰めるように立ち上がった。


「あの筋肉至上主義の脳まで筋肉に侵食されていて、その上体温でわずかな思考能力まで茹で上がっているというムキムキストロンの方がお相手とはっ……!!」

「ムキントロストンだ! 口を慎めっ!」

「お父様こそお黙りください」

「お、おまっ、仮にも父に向かって……っ!」


 レーヴェールは男女ともに細身の者が多く、女性はその傾向が更に強いのだ。華奢で儚く弱々しい……、外見は。これはこの国の美意識によるところで、男女共に細身で優しげ儚げな方が美しいという考えなのだ。どこぞの筋肉王国のように、男女差別なく全国民総ムキムキの価値観とは違うのだ。この国で強く美しい者の象徴として語られるオフィーリアも平均身長より高いとはいえ、体つきは華奢であった。そんな繊細なガラス細工の女神像のような彼女は、立ち上がるだけでかなり存在感がある。既に腰が引けて後ずさっている父の姿と見比べると、普段からの力関係がうかがい知れた。


「お父様」

「な、なんだっ!? 言っておくが決めたのは王だからな! 私ではないぞっ!」

「私の理想の男性はひらひらとしたクラバットの似合う、線の細い深窓のご令息です」

「し、深窓のご令息とは一体……っ」

「それが、身ひとつで戦場を駆け回り、原始的な武器もしくは素手で敵をなぎ倒す原始人と?」

「失礼なことを言うな! お相手は赫怒の戦神と称えられるグラハーン・ブラッドアクス殿だ! ムキントロストン王の甥御にあたる方だ!」

「まあ、さようでございますか。原始人閣下であらせられますか」

「このっ、減らず口がっ!」

「悔しかったら言い返して下さって結構ですよ」


 顎を上げたポーズをとったオフィーリアは│扇子《ファン》で口元を隠して、あからさまに父を馬鹿にした。望まぬ結婚を押しつけられるのだ、口でコテンパンにするくらいいいではないか。とはいえ、王が決めたことならば覆せないのはオフィーリアにも分かっている。そしてこの結婚に他の令嬢ではなく、あえて自分が選ばれた理由も察しがついていた。

 国交が盛んになったとはいえ各国の上流階級の意識改革は難しく、いまだにお互いを嫌悪し合っている派閥がある。オフィーリアはその筆頭、いわゆる│魔法使い至上主義《メイジ・スプレマシー》だ。その彼女と相手方の軍のムキムキ代表者みたいな男性が結婚する。これこそが新の和平への道だ、とでも王は考えてそうだ。 


「王は心技体魔兼ね備えた完璧な人材を生み出す希望の聖婚だとおっしゃっている」

「はぁ……。つまりはムキムキ魔法使いを産めと? 私に?」

「ま、まあ、有り体に言えばそうなのかも知れんな……」

「私はわが子とは花とレースとドレープに囲まれ、霞を食べて暮らしたいと思っていますの」

「オフィーリア、子供は霞じゃ育たんぞ」

「ではマカロンをいただきます」

「か、偏っとるな……!」


 仕方がない、頭では分かっているものの幼い頃から憧れた結婚観はすぐには諦めきれない。しかし、こうして父親を言葉で虐めてみても事態は好転しないのだ。二国間のさらなる友好を深めるイベントとして、オフィーリアとグラハーンの結婚は着々と準備が進められているだろう。


(この結婚はなにがあっても遂行される。例えば……お相手が不慮の事故で儚くなってしまわれたりなどしない限り……!?)


 嫌がる心を鉄仮面で覆い隠そうとしていたその時、オフィーリアの思考に落雷があったかのような発想が産まれた。


(……不慮の事故……)

「とにかく、式の予定は二年後だ。今後一年間はグラハーン殿下が国際親善の為に我が国にご滞在なされる。その間に仲睦まじい様子を国民にアピールせよとのことだ」

「……最近雨が多いですわね」


 結婚までの予定については王から直接説明がなされるはずだが、いきなり聞いて王を襲わないか心配した父が自己犠牲の精神でオフィーリアに言って聞かせた。今回の結婚というゴールのために、まずは一年間こちらの国、レーヴェールで存分にいちゃつけ、と。しかしオフィーリアはいきなり天候の心配などをしている。


「……なにを」

「ムキムキスタンからの道中は山岳地帯を通ることもございましょう」

「あ、あぁ……ムキントロストンな」

「地盤が緩んで地滑りなど起こさなければいいですけれど」

「そ、そうだな」

「あちらの方は、魔法で緩んだ地面を固定することなどおできにならないでしょうから」

「……オフィーリア、おかしなことを考えるなよ」

「あら、お父様のお髭よりおかしいことなどこの世にありませんわよ」

「えっ!? お、おかしい?」

「形が」


 手鏡を見ながら髭の形について悩む父に背を向けて、オフィーリアは地図の本をとり出した。パラパラとめくり、ムキントロストンの国境近く交通に不便な山の辺りに注目した。


(ここの山が邪魔でムキムキスタンからの移動時間が長くなってしまっている。トンネルや山を切り崩す提案も出ているとのことをだけど……)


 友好国になったとはいえ交通に不便な山を通りやすくしてしまうと、万が一戦争になった場合に攻めやすくなるという懸念がある。なのでこの山の街道整備は反対派も存在して進まないのだ。オフィーリアもムキントロストンの脳筋どもの行き来を楽にしてやるのは嫌なのだが、友好国として貿易も盛んになった今いつまでも拒否していても仕方がない。


(山を切り崩すよりもトンネルがいいでしょう。トンネルならば万が一の場合閉鎖が容易だから)


 地図を土木工事に関する魔法使用の専門書に持ち替えたオフィーリアは静かに読み込み始めた。


「オフィーリア、どんな髭が似合うと思う?」

(目的の場所以外は硬化魔法で固めて、トンネル内部を音波により土を緩める。そして風魔法で一直線に吹き飛ばせば、長い穴を開けることが可能かしら)

「それとも色か? ちょっと染めてみたらどうだろう?」

(その際、発生する土砂で土砂崩れなどが起きたとしても事故で済ませられるかも……。賠償金を要求されたとしても、ムキムキスタンには王位継承が多くいらっしゃるという話だし、金銭で済むならば悪くはないでしょう)


 オフィーリアは頭の中で考えをまとめた。彼女は学力はあるし、魔力も高い。そして外見は美しく冷静沈着に見える。しかし、その実態は意外と短絡的で攻撃的、そして目的のためならどんな大事件を引き起こそうと気にしない、ある意味バカの思考をしているのであった。意図的に土砂崩れを起こして意に沿わぬ婚約者を消してしまおうなどと、悪の総統のような計画を真剣に現実的に考えているのだ。そして彼女の父は新たなお髭の形が決まらない。


「お父様はどんなお髭も似合わないので、今が一番マシだと思います」

「……」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。