無差別な慈悲
保証協会付融資。
それは確か銀行側への信用度がまだ低い中小零細企業が、それでもなお融資をしてもらうために保証協会を経由して銀行側に融資を持ち掛ける、という形態だったはずだ。
「……融資の一形態、くらいの認識ですね」
思い浮かんだとはいえあんまり自信はなかったので、それくらいの言葉で濁してしまう。
男はそれでも結構というように一つ頷くと、言葉をつづけた。
「私の友人はその中でも制度融資……地方団体からの斡旋により民間金融機関につなげる。そんな融資を申し込んだんですねえ」
「制度融資ですか。起業するときや、起業したばかりの企業がよく使われるものでしたよね?」
地方自治体に申し込み、銀行、信用保証協会、民間金融機関を経由して融資を行う制度。
「ええ。起業したばかりの零細企業など、銀行からの信頼度などそれこそ皆無ですからねえ。その点腹を切るのは実質的には保証協会の保険先の準備基金ですから、銀行も保証協会も懐の痛まないこの融資は甘めの審査で通れるんですねえ」
制度融資とは性質的にそれ自体が保証協会付融資とならざるを得ない。
融資を受けた企業から民間金融機関への返済が滞った場合、保証協会が弁償する仕組みとなっている。だからこそ、信頼度の低い企業にでも民間金融機関は融資を行うのだ。ほぼ確実に金が回収出来る上、実績ができるからだ。
保証協会も保険に加入しているため、例え弁償する事態になったとしても保険をかけていた準備基金から金は引っ張ってこれる。
この準備基金というものは日本政策金融公庫の一部である。それはつまり、融資を受けた人間が完済できない場合、税金からその分が補われるというわけだ。
極端な話を言えば、この制度融資というのは国民の懐から融資を行う制度ともいえる。
「ただ、当然貸付金額の限界、というのものはあるわけでしてねえ、私に金の無心が来たんですよ」
「……いくらほどですか?」
「五百万ほどでしたかねえ」
その即答に私の口はあんぐりと開いた。
十万――それでも十分大金だが――とでもいうような軽さでとんでもない金額がその口からポンと出たのだ。
その私の様子に男は苦笑しながら。
「私は当時信用保証協会に努めていましてねえ。少し金融をかじったことがあるというだけでも、そこそこは金の手に入る時代でしたよ」
今の時代を生きるものとしてはぴんと来ないものだが、バブルというのはやはりそういう時代なのだろう。
今のような不景気にあえぎ声を出している時代ではなく、不動産の値段は一瞬のうちに吊り上がり、泡のようにふわふわとただ値段ばかりが上昇していく時代。
その時の流れに乗ることが出来れば少しの努力で大金を手にできる時代だったのだろう。
結局は弾けるという言葉の通りに、破壊と混乱のみを残していったのだが。
「制度融資というのは各自治体によって微妙に制度が違うわけですが、私の友人が申し込んだ自治体は結構な自己資本が必要なところでしてね」
「それで、欲しい額まで足りない分を、貸してほしいと……?」
私が言葉を継ぐと、ゆっくりと男は頷いた。
「当時の私はよく言えば禁欲的で、悪く言えば無趣味でした。女遊びにも興味がありませんでしたし、預金だけが積み重なっていたのでね、貸そうと思えば貸せました。額の大きさに面食らいはしましたが」
「でしょうね。いきなり五百万などと言われたら動揺しない方が無理でしょう」
「全くです。起業するから、必ず返すから。などと言われましてねえ。相当迷いましたよ」
そこでいったん言葉を切り、コーヒーを喉へと流し込んだ。
私の手の中にある缶を握りしめてみれば、いつの間にかそれから温度は奪われていた。
「それども、実際は」
「ええ。貸しました」
ふうと、ため息をつき、コーヒーがどれだけ入っているのか中身を確認するように缶を回しながら男は言う。
「流石にその額は口約束では怖いので、借用書を書いてもらいましたがね」
「それは流石に仕方がないというか、当然なのでは?」
「ええ。友人もそういっていましたよ。私にお礼を繰り返し言いながらね」
思い返すように、霊峰を見つめながら男は語る。
「納税証明書はきちんと用意できていたようで、あっさり銀行は通りました。そして保証協会ですが……」
そこで意味深に言葉を切る。
その時私は不意に目の前の男が当時は信用保証協会に勤めていた、と言っていたことを思い出した。
私の目が見開かれたのを見て取ってか、男は悲し気な笑みを浮かべながら言葉をつづけた。
「ええ……私が友人の審査の担当になったのですよ」




