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 これからの説明は俺が話そう。

 使徒は俺や友、主治医のように饒舌ではないため、代わりとして、俺が話さなければならないのだ。

 別に使徒を貶めるようなそんな意味はこもっていないので悪しからず。

 では、ご清聴願おうか。

 俺たちの目の前にいるのが、なにかわかるか?

 そう、使徒だ。

 本人もそういっている通り、神の使徒である。

 ここは一旦、この使徒の正式名称を紹介しなければ、進まない。いつまでも『使徒』とか『この使徒』では、あまりにも混乱してしまう。

 個体名、■■■。

 使徒いわく、人間の言葉では発音は絶対に無理らしい。

 ので、俺は勝手につけることにした。

 もちろん、できるだけ名前に似せるために、講義を受けた。

 使徒からの授業を受けられただけでも、俺たちは相当稀有な人間へと成り上がったと言えるだろう。

 使徒は自分の名前にこもった意味を、人間の言葉で噛み砕いで、一時間もの時間を使って説明してくれた。

 それにしても、一時間も──正確には、使徒が来る以前にも、俺たちはこの店内にいたので、二時間だ。それほどの時間の間俺たちは帰らずにただだべっていたということだ。俺たちにとっては稀有な体験でも、店員にとってはただの帰らない客と大して変わらないのだ。かと言って、飲み物の注文はしているので、ここ店に留まる権利はあるのだろうが……。

まあ、そんなことはどう頑張っても『それにしても』の域を出ないことなので、俺としては考えるだけ無駄なことなのだ。

 ここで、

 『そう言えば、俺の死んだ母親の口癖にこういうものがあった。

──自分のやってることを信じなさい。自分のやっていることを誇りなさい。それができるなら、お前は自分がやったことが決して無駄なことではなかったと、確信を持てるようになる。

 その言葉に、俺は何度となく救われてきた。俺の中でその言葉は心に勇気を灯す、松明のようなものだったのだ。

 何故こんなことを今話しているのか、回想してしまっているのか、それは俺にはわからない。作者の考えは、登場人物には決して理解できないものなのだから。俺は作者が作り出した、数多くの駒のうちの一つなのだから。』

 なんて、モノローグを語ってしまいそうになるのが、俺の数多い悪癖のうちの一つである。

 そろそろ使徒の名前を公開しなければ、この物語がただの冗長なだけのものとなってしまう。もともとそんなものだっただろうって? まあまあ、そんな厳しい判断をするなんて……心がないではないか。もっと暖かい心を持とう。

 暖かい心。温かい心。どっちが正しいのだろうか?

 俺としてはどっちかが正しいと思っている時点で、感覚が麻痺していると言わざるを得ないが、たしか、どちらかは正解だった。

 あとは各自で調べておくように。

 なんて、教師っぽいことを言ってみた。割と楽しい。

 教師っぽいこととは言っても、俺は教師がこんな無責任なことをするとはまったくもって思えないんだけどな。

──君は良くも悪くも、良い先生を引くことが多かったみたいだね。運がいいものだね。

 などと、友に言われたのを思い出した。都合のいい記憶力である。

 そんなこんなで、またモノローグが長くなってしまう前に、名前を公開しよう。

 使徒の名前の日本語解釈は──、

 悪魔、だった。

「その言葉はわかりやすい。少々誤解がある理論のようだが、わたしを解釈するにはそれ以上に相応しい言葉はないだろう」

 当の本人も認めてしまっている。

 ので、俺は『使徒』を『悪魔さん』と、そう呼ぼう。もちろん、心の中では『悪魔』だけどな。

 ここからは少し、悪魔の言葉も交えて、説明して行こう。

「悪魔……か。お前の『眼』について話もそこから入るとわかりやすい。──わたしをお前たちの言う日本語で表現できるレベルに落として説明すれば……神の使徒、担当は生者。ということになる」

 俺には言っていることが理解できなかった。いや、理解はできたのだろう。がしかし、その意味を俺自身が、かぶりを振って理解することを拒絶しただけなのだ。

「それはどういうことなんだい?」

 俺の口の代わりかと思うくらい俺の心を代弁してくれる友に、サムズアップをする。

 意味がわからない、と言った感じで肩をすくめられてしまった。

「では、天使とはなんだ?」

 まったく意味がわからない。こんな質問に質問で返すような言葉で何を気づけと言うのだろう。こんなもの友でも──、

「あっ、そういうことか」

 さすが、知能という、天賦の才を与えられた友である。なんと聡明なことか。

 心の中であいつを褒めそやし、先ほどの無礼を詫びる俺であった。

 なんと心が薄汚れているのだろう。

 まあ、俺の個人的な感情はこの際、宇宙の彼方──宇宙の彼方に関して言えば、遠いくらい印象しかない──にでも放っておこう。

「どういうことなんですか?」

 俺は敬語を使い、悪魔に訊いた。間違っても、友には敬語は使わない。見下しているからではなく、親友だからだ。本当だ。嘘じゃない、信じてくれ。

「ああ、お前、説明せよ」

 そう言って、悪魔は説明を友に回した。

 これでようやく俺の役目は終了である。悪魔が説明しないのであれば、俺が補足する必要なくなるのだ。

 お粗末さまでした。

読んで頂きありがとうございました。

評価等よろしくお願いします。

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