天涯の桃源郷・弐
ぽたりぽたりと盤古の身体から血が流れ落ちているが、本人は口許に笑みを浮かべていた。
「────これで・・・ようやく、解放される」
「とう、さん・・・」
がらんと薙の杖が落ち、その場に座り込む。
「息子よ・・・お前の役目は終わった。────己の未来を決めよ。他の神々と一緒に『天涯の桃源郷』へ行くか・・・「地球」に、人界に残るかを・・・」
涙を流しながら、父親の言葉を聞いた薙は首を傾げる。
「・・・『天涯の桃源郷』はこことは次元の異なる場所に存在する世界の名だ。・・・全宇宙に存在する世界において、この地球に住む神々だけが、俺のせいで行けずにいた・・・。俺が〝死なない限り〟同胞はここから解放されない」
そうさせてしまったのは己の罪。その罪のために、息子である薙に残酷で過酷な運命を与えた盤古。
「神は・・・自分で死ぬことは出来ない。同胞であり、己より力が上の神にしか殺せぬ・・・お前は役目を果たしたから自由だ・・・」
ゴホリと咳き込みながら、盤古は薙を立ち上がらせる。
「さあ・・・選ぶのだ、息子よ。地球に残るか『天涯の桃源郷』に行くかを・・・」
「もし・・・行くのを選んだら?」
その問いに盤古は視線だけ、薙に向ける。
「滅ぶのか・・・」
「すぐに滅びはしない。長い年月をかけて・・・滅んでいく。神がいない世界は滅ぶ運命・・・」
神が存在しているからこそ、世界は存在していられる。
神が存在しなくなれば滅ぶ────それは必然だ。
「俺がひとりで地球に残るとどうなる?」
「その時は滅びないさ・・・〝お前が〟いるのだから」
ひとりでも神が残れば「地球」は滅びない。神がいないから滅ぶのだ。
「お前が・・・人界に残るのならば、贈り物を与えよう。お前にとって・・・一番、望むものを・・・」
父親の言葉に薙の脳裏には嶺の姿が浮かぶ。
「一番、望むものは・・・手に入らない・・・」
「ならば・・・行くか?」
その言葉に薙は「行かない」と答える。
「嶺はもういないけど、俺にとってのいるべき場所は、嶺と過ごしたあの場所だから・・・俺は、地球に残るよ」
「そうか・・・ならば、神としての能力を封じて人界に送ろう。だが・・・いつかは『天涯の桃源郷』に行かねばならない」
わかった、と父親の言葉に頷く薙。
「黄鳳・・・太陽星君よ、納得いくまで人界で過ごすがいい・・・」
そう言って、血で濡れた手を薙の頬にそっと触れると、薙は気を失い、その場に倒れる。そして、言葉を紡いでいく。
「黄鳳よ・・・俺も黄華も、お前のことを愛していたよ────・・・」
────と。




