32.修羅場
前回(31話)の終盤の台詞を書き換えました。
更新されてすぐに読んでくださってる方は混乱されたかと思います。
本当に申し訳ありません。今後このような事は無いように心がけますので、どうかご容赦ください。
「――ルシアスから離れなさいよ!この呪い持ちの悪女!!」
ルシアスとの食事の帰り。
横から飛び込んできた怒号に、エルは動きを止めた。
――呪い持ち。
学院でエルを噂するときに使われている俗称である。
エル自身その俗称に関しては認知をしているものの、いつも通り影でコソコソと使われる分には気にしないつもりだった。 聞こえなければないのと同じだからだ。
しかし、こうして面と向かって言われてしまっては、やはり傷つくし多少は頭にくるもので、エルはつい相手を睨んでしまう。
そして次の瞬間、その視界に入ってきたのは、教室で何度か見かけたことのある女子であった。
――肩まで伸びた茶髪をポニーテールに結った、頬にそばかすのある少女。
以前、何度かルシアスが口説いてる所を目にしたことがある。
特に剣術の授業で一緒のことが多いらしい。
目を合わせるとどこかに行ってしまうのでほんの少ししか見たことがないのだが、 少女の方も満更ではない表情だったのを覚えている。
どうやらルシアスに誑し込まれて、その気になってしまったらしい......。
今日出かける事は教室で約束をしたし、周りで聞いていた生徒が噂にしていても不思議じゃない。
嫉妬に駆られて、ここまでその噂の真偽を確かめに来たのだろう。
とはいえ、こんな往来で他人を俗称で呼び、あまつさえ悪女などと呼ばれては流石のエルも黙ってはいられなかった。
「――まず、貴女だれ? 顔は知ってるけど、私達話すのは初めてよね?」
エルがそう尋ねると、相手の女子はほんの少し怯えた様子で返事をする。
「れ、レイラ・オルトクスよ!」
「レイラね、それで? なんで私がルシアスから離れないといけないの? それに、悪女呼ばわりされる理由がわからないのだけど?」
なんて、レイラに向かって冷静に怒りの感情を露わにするエル。
――昨年のパーティーの日、アメリアとの一件で、感情の制御を誤ってはいけないと学んだ。
もし感情のまま言葉や力を揮ってしまえば、きっと憧れとは程遠い自分になってしまう、と。 怒りを持つことは大事なんだろうけど、それを剥き出しのままぶつけてしまうのは、憧れに、信条に反する。
冷静に、自分を見失わず相手に怒りをぶつける。
セリシアをいじめから助けた時は、それを実践できたと思う。
であれば、今回も......。
「あ、貴女がルシアスと居ると迷惑なの! 周りからルシアスまで悪いふうに言われるわ。 ルシアスは優しいから、貴女みたいな呪い持ちのことも気にかけるんでしょうけど、それ全部憐れみなのよ? なのに調子乗ってデートなんかしちゃって! ルシアスに呪いが移ったらどうするの?!」
と、声を荒げながら質問に答えたレイラ。
それにエルが反論しようと息を呑んだ瞬間、それまで横で見ていたルシアスが口を開いた。
「――いや、憐れみなんかじゃないけど? そもそも、今日のデートは僕から誘ったものだし、少なくとも僕は君よりエルの方が好きだよ。 もし僕がくだらない噂で他の女の子から嫌われても、エルだけは嫌わないでくれるだろうしね。 それに、呪いが移るなんて噂は真っ赤な嘘だから。 万に一つでも呪いが移ったのならエルと同じになれるから、むしろ嬉しいくらいさ!」
なんて、声高らかに宣言するルシアス。
しかし、エルもレイラもついでにコゼットも、呆けた顔で固まってしまう。
「あれ? 僕なんか変なこと言った?」
ほんの数秒の沈黙。 それに耐えかねたルシアスはそう言って三人の顔をキョロキョロと見回した。
すると、エルが「くふっ」とほんの少しだけ笑みをこぼす。
そして、更に漏れ出そうになった笑いを飲み込んで、
「......ううん、よく恥ずかしげもなくそんなこと言えるなって、少し驚いてるの。 でもありがと。 そんなふうに言ってくれるのは、すごく嬉しい」
と、ルシアスに感謝を伝えた。
しかし、ルシアスの言葉でさえもレイラには納得がいかなかったらしい。
「そんなの......。 そんなの!嘘よ!! ルシアスは私の方が好きでしょ?! だって私の事、可愛いって言ってくれたもの! そんな魔術も使えない呪い持ちなんかより、私の方が絶対ッ――!」
そう怒鳴りながら、レイラは手の平をエルへと向けた。
何か嫌な予感がして、エルは身構える。
その剣幕は尋常ではなく、嫉妬と怒りのあまり突き出した腕が震えていたのだ。
「――土塊!!!」
案の定、詠唱が聞こえて鋭く形成された土塊が、複数個レイラの顔の横に作られる。
直後、それら土塊がエルの腹を目掛けて飛んできた。
――今、この手に剣はない......。
で、あれば専念すべきは回避だろう。
それにしても、こんな街中で魔術を人に向けるなんてどうかしてる。
と考えつつ、エルは息を深く吐き出し目を閉じると、魔力の流れに集中した。
アメリアとの戦いから、エルは深く集中すれば明確に魔力を感じることが出来るようになってきていた。
とはいえ、その範囲は剣の間合い程度なのに加えて、全神経を魔力の流れを感じ取るのに使うせいで他の行動に弊害が出てしまう。
だが、逆に言えば間合いに入った魔術ならば、明確にその流れを感じ取る事が出来るので、純粋な魔術師相手であれば防御や回避がしやすくなったのだ。
数は六つ。エルはゆっくりと目を開いて全てを捉えると、自ら飛んでくる土塊に突っ込んだ。
すると、土塊はまるで自ら避けるように、エルの横を通り過ぎ、背後の地面に命中した。
そして、エルはそのままレイラの懐へ潜り込むと、右の拳を勢いよく振り抜いて、顔に当たる直前で寸止めをする。
そよ風がレイラの前髪を揺らし、悲鳴すら上げられずに息を呑んで尻餅をつく。
「――私、魔術は使えないけど、何も出来ない訳じゃないよ。 剣術の授業とか見てなかった?」
エルは、呆然と地面に座り込んだレイラを見下ろして、そう言い放つ。
「エル様! 平気ですか?!」
と、エルの心配をして駆け寄るコゼット。
エルはそれに笑顔を見せて安心させる。
ルシアスはそんな二人の横を抜けてレイラに近づくと、目線を合わせるためにしゃがみ込んだ。
「レイラ、確かに僕は君を可愛いとは言った。 だけどね、僕が君を恋愛感情で好きになることはないよ。 言い方はアレだけど、動物とかに向ける可愛いって感情があるでしょ? 僕がほとんどの女性に向けてるのはそれに近い感情なんだ。でも、勘違いさせてしまった責任が、僕にはあると思う......。 そういう事でエル、ここは僕に免じて彼女を許してあげて欲しい。 今後はこんなことがないように女の子を口説くのは辞めるからさ」
そう言われたエルは、軽く溜息を吐くと「別に、そこまでしなくていいよ」とレイラを許した。
ルシアスはその返事にニコリと笑うと、何が起こったのか未だに理解できてない様子のレイラの手を取って立ち上がらせる。
「そういう事だから、今回の件はここまで! また学校でね?」
なんて言われたレイラは、不思議そうにエルをチラリと見て目が合うと「ひっ」と声にならない悲鳴を上げて逃げ出すように走り去ってしまった。
そうして、その背中を見送って一件落着と言った様子で振り返ったルシアスは、
「――それじゃあエル、帰ろうか?」
と言って、再び馬車の扉を開けて先に乗り込むと、エルにも手を差し伸べる。
エルはそんなルシアスの手を仕方なく取って馬車に乗り込む。
こうして、エル達はようやく帰路へと着いた。
◇◆◇◆◇
それから、数十分後。
エルを屋敷に送り届けた帰り道......。
ルシアスは一人になった馬車の中。
――女の子を口説くのは、本当に辞めよう。
今日のことで更にエルのことが好きになった。
おかげで、他の女の子にあんまり興味が持てそうにない。
それに、もうエルに迷惑をかけたくないしね......。
なんて、馬車の窓から外を眺めながら、心の中でつぶやくルシアスなのであった。
どうも、雪柳です。
梅雨に入って蒸し暑くなってきましたね。
皆さん体調にはお気をつけてお過ごしください。
さて、今回は二つ謝罪をさせていただきたく......。
まず一つ、前書きにも書きましたとおり、前回31話の最後の台詞を書き換えました。
前回から引き続き、更新されてすぐに読んでくださった方は混乱されたかと思います。
本当に申し訳ありません。
書き換えた部分はラストの台詞のみなので、そこまで認識に齟齬は出ないかと思いますが、今後は出来るだけこの様なことがないように、執筆出来ればと考えています。
そしてもう一つ。
また、しばらく更新が止まります......。
理由としては、書き溜めが完全に底をつきまして、31話と32話が満足のいくクオリティでの投稿が出来てないからです。 もしかしたら、読んでいて違和感があったりツッコミどころがあったかもしれないですね。深く考えて調整、修整するほどの時間がなく、自分のスケジュール管理の甘さを実感しています。
本当にすみません。
なので、纏った時間を確保して一章の終わりまでちゃんと書きたいと思っています。
再開については、正直分からないです。
「7月の上旬に再開できたらいいなー」なんて考えてますが、最悪8月まで音沙汰なし、なんてこともあるかもしれません。
でも、この作品は必ず終わりまで書きます。
取り敢えず、一章に満足のいく区切りをつけさせてください。
自己満足の我儘で、ここまで続けて読んでくださってる方を待たせてしまうのは心苦しいですけど、気長に待っててくださると嬉しいです。
ここには沢山の良い作品がありますし、更新が再開したらふらっとまた読みに来てください。
それでは、また近いうちに必ず。
長々と失礼しました。




