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「月白が言ってたのって、この辺りだよな…。」
湊と薫子は正寿駅付近の再開発土地にやって来た。広大な敷地には柵が張り巡らされている。いつの間にか雨が降り始め、空はあっという間にどんよりと曇った。
「岩国君…やっぱりさぁ…ここは頼れる大人に行ってもらった方がいいんじゃないのぉ~?」
どこか入り込める所はないか辺りを探している湊に薫子はそっと囁いた。
「ルコはほんとにバカだな~。こんな話、大人が信じてくれるはずないだろ?」
―悪かったね…
薫子がふてくされていると、湊は自分の傘を薫子に手渡し、柵を登った。
「ほら! 傘かして! おまえもこっち来い!」
「え? 私もこれよじ登るの?」
見ると薫子の背丈よりも高い柵だ。
「大丈夫! いくらオマエの体重でもさすがにこれを壊すのは無理だって。」
湊は柵を揺すって頑丈さをアピールした。
―ムカつく…
薫子はムッとしながらも柵をよじ登って向こう側へ渡った。中には行ってみると、遥か向こうに小さな森のようなものが見えた。あれが敷地の中心なのだとしたらどれだけ広い土地なのか、改めて実感させられた。
二人が森のような繁みの中に入ると、小さな祠があった。
「あそこか…。」
湊は祠へ近づこうとした。
「私が行くとサァ、やっぱり足手まといになって逆に迷惑かけちゃうと思うのよね~。だからここは岩国君に行ってもらって、何かあったらここで待機している私が誰か呼びに行くってのは?」
「グダグダ言わない!」
湊は往生際の悪い薫子の腕を掴んで祠の中へ入った。
「うぃ~酔っぱらっちまったわい。これからお楽しみが待ってるってのによ。」
修行僧に化けた罪人は村人からさんざん接待を受けた後、小舟に乗ってソヨのいる小島に戻ってきた。
「帰ったぞ~!」
罪人は大きな音を立てて戸を開き、社の中へ入ってきた。社の中は奥の灯りが一つ灯っているだけで薄暗かった。
「なんか暗くないか?」
―ハハン。ソヨのやつ、恥ずかしいのか? 可愛い奴め。
罪人はニヤりと笑った。
「おい、酒の支度は!」
罪人が叫ぶとソヨの羽織を頭からまとった直哉がやってきて、罪人に奥へ来るよう手招きをした。奥に灯りがある為、逆行で直哉の顔は罪人にはあまり見えない。罪人はまさかソヨが入替っているとは疑いもしなかった。
御膳にはソヨの作った美味しそうな酒の肴が並んでいた。罪人はそれを見ると満足そうに微笑んだ。
―こいつ、料理も出来るのか。天は俺に味方し始めたみたいだ。
罪人はお膳の前にドシリと座り、盃を差し出した。直哉はそれに酒をたっぷりついだ。罪人はそれを一気に飲み干した。
「美味い酒だな~! ソヨ、おまえも飲め!」
そう言って罪人はソヨに盃を手渡した。直哉はそれをこっそり水の入った盃と変えて一気に飲んだ。
「おぉ、いい飲みっぷりだ!」
罪人は大いに喜んだ。気をよくした罪人に直哉はさらに大きな盃を渡し、並々と酒をついだ。罪人が酒を飲み干すや否や直哉はさらに盃に酒を注ぎこんだ。何度かそれを繰り返しているうちに、罪人は完全に酔っぱらって寝てしまった。
―今だ!
直哉は用意しておいた縄で罪人を縛り上げようとした。その時!
ピカッ!!!
物凄い閃光と共に何かが天から降ってきた。
「な、なんだぁ?」
そのショックで罪人は目を覚ました。光が直哉を照らし、罪人と目が合った。
「おまえは誰だ!?」
―まずい!
直哉は一瞬怯んだ。
「直哉!」
知っている声がした。振り向くと親友の岩国湊と知らない女の子が立っていた。
「なんで湊が?」
直哉は驚いた。
「俺たち直哉を助けに来たんだよ!」
湊は言った。
「なんだおまえらは…。どうやら殺されたいみたいだな。」
罪人は懐から小刀を出した。そしてそれを振りかざしながら湊と薫子に襲い掛かった。
「危ない!」
直哉は罪人に体当たりした。罪人がよろけた拍子に小刀を落とした。罪人が拾い上げようとしたが、湊はすかさずそれを蹴って手の届かない場所へやった。直哉は隠していた角材を罪人の背中に叩き降ろした。罪人は悲鳴をあげて床に倒れた。
二人が罪人と格闘している間、薫子は直哉からの指示に従い、外の納屋に隠れているソヨの確保に向かった。
―ここかな?
薫子は社の裏の物置の戸を開けた。中に人の気配は無かった。
「あの…私…玖珂君から頼まれて来た者です。ソヨさん、どこですか?」
―ここじゃないのかな?
薫子が他を探そうとした時、奥でガサっと音がした。
「あなたがソヨさん?」
薫子が聞くと、ソヨはコクンと頷いた。
「直哉は? 直哉は大丈夫なの?」
ソヨは薫子にしがみついて聞いた。
「今、私の友達の岩国君と一緒にあの悪党と戦ってる。私たちは今のうちに舟の確保に行こう!」
薫子はそう言って、ソヨとこの小島の岸に止めてあるであろう舟を探しに行った。




