12
「前にも言ったけど、僕らと君らの世界は裏と表。お互いに影響し合っている。」
月白は神に円を二つ書いて真ん中に線を引いた。
「そして世界はこの二つだけじゃない。それは私たちの想像が及ばないほど無数に広がっている。」
月代は空いているところに円をたくさん書いた。
「それが全部影響を及ぼしているって事?」
岩国君が聞いた。
「そう。ただ縁の強さによって及ぼされる影響も変わってくる。そして…」
「そして?」
「縁によって関われるかどうかも変わってくる。」
月白は線が接していない円に×を付けた。
「湊君、君の友人が入り込んだ先は、私とは接点が無いんだ。だから私が直接干渉できない。」
月白は言った。
「ちょっと待って、じゃあどうやって直哉がその世界に入り込んだって分かったの?」
岩国君が聞いた。
「それはさっきも言っただろう。あらゆる世界はお互い影響を及ぼしあっている。どこかに異変があると、それが全ての世界に駆け巡るんだ。君たちの世界でも何か異常が起きているんじゃないか?」
「…そう言えば…株価が大暴落とか…あぁ…地盤沈下があったとか言ってた!」
「そう。私たちの世界でもこの時期に降るべき雨が降らない。このままだと今年の収穫に大打撃を与えてしまう。」
月白は深刻そうに腕組みした。
「あんたたちのせいだからねっ! さっさと解決してよね!」
藤の霞は相変わらず優雅に扇子をふりながら文句を垂れ流した。
「あんたたちのせいって言われても私たちに何が出来るって言うのよ。」
薫子は霞にくってかかった。
「まぁまぁ、とりあえずこれを見て欲しい。」
月白は大きな鏡を持って来た。
「これは我が宗家に代々伝わるアマノミタマノウツシカガミだ。」
「アマノミタマノウツシカガミ?」
「そう。我が宗家の者は、災いがある時、この鏡にその元凶を映してもらう。そうやって解決策を探ってきたんだ。」
「へえ…でも何も映ってないけど。」
薫子と湊は鏡をじっと眺めた。そこには何も映っておらず、恐ろしいほど美しい黒曜石のよように暗く澄んだ輝きを放っていた。
「バカねぇ、祝詞を挙げないと映る訳無いじゃない。こんなの誰でも見れたらそこらじゅうパニックになっちゃうんだから。」
藤の霞が呆れ顔で言った。
「もう! あんたの言い方っ!」
薫子はまた霞に食って掛かった。
「まぁまぁ、これから映すから!」
月白が女たちをいさめた。そして祝詞を上げ始めた。結婚式の時の物とはまた違う、不思議な響き。月白が祝詞を唱えると鏡はぐにゃっと歪み、ゆっくりと何かを映しだした。
「あっ! 直哉だ!」
湊が叫んだ。
「やはり君の友達だったか…。」
月白が溜息をついた。
「だれか一緒にいる…」
そこに映っていたのは明るい輝くような髪をなびかせ、真っ白は肌に美しい灰色の目をした少女、ソヨだった。何を話しているのかは分からなかったが、二人は深刻そうに何か話をしていた。
「これはどこなの? 見た所、昔の日本みたいだけど…この娘は…ハーフみたい。」
薫子は言った。
「直哉はタイムスリップしたってこと?」
湊が月白に聞いた。
「あながち間違っちゃいないが…ここは君たちの世界線とはまた少しだけずれているようだ。何かのはずみに世界線がずれてしまったんだろう…。」
月白は鏡に手をかざし、何かを感じ取っているようだ。
「…それって…直哉のせい?」
湊は言った。
「…その可能性が高い。」
湊と薫子は顔を見合わせた。
「この世界は君たちの世界にとても近い。だから影響が強いのだと思う。当然君たちの世界に影響があると、私たちの世界も困ったことになる。だが、私たちはこの世界とは直接の縁が無い。縁が無いと向こうには渡れない。しかるに…」
「その原因であるだろう直哉と直接関係のある俺たちが何とかしなければならないってことか…。」
湊が言った。
「その通り!」
月代は人差し指を突き刺して言った。




