えぴそど63 大かまと強化
俺は【すきる】から〈小かま〉を選択する。
メイエリオ達と狩りに行っていた際に、新たに男気が発生したり鎌を使ったりと、なんやかんや現在は320ポイントになっている。
何かを感じたのか、拳王は距離を取りこちらの様子を見ている。
俺はオートエイムを無視し、自分と拳王の間に〈小かま〉を放つ。
一瞬空間が揺らぐと瞬時に鎌がその姿を現した。
「おお、速いな。だがそんな所に出してどうするんだ?」
「これは警告だ。これを喰らえば恐らくお前を殺してしまう。そして、この技は何回でも使える。これで退いてくれないか。」
「やなこった。」
そう言うと拳王は再び一瞬で距離を詰め、俺に攻撃を加える。俺はこけない様に最初から膝を曲げしゃがんだ形で鉄棒を突きつけた。
「くそっ!本当に死ぬかもしれないんだぞ!これをお前に使わせるな。」
「試してみろよ!当たらねぇからよ!」
「腕がふっとんでも恨むなよ!」
俺は半分ヤケになり〈小かま〉を拳王の腕に向けセットし〈けってい♡〉を押した。
拳王揺らぎを確認すると身体を傾け〈小かま〉を避ける。その間に次の鎌を用意し放つと鉄甲の装飾部分に当たり粉々になった。
「おい、これを傷付けるとかいい度胸してるな。四代目拳王トラ様のガントレットの一つだぞ。」
「知るかぁ!そんなに大切なもんだったら家に置いとけよ!!」
「まぁ、その攻撃の威力はこれで分かった。確かに当たれば俺は死ぬだろうな。」
「だったら!」
「当たらねぇって言ってんだろ。……仕方ねぇ俺もとっておきを見せてやるよ。」
そう言うと、再び距離を取った拳王の額が縦に割れ、そこから大きな目が現れる。頭部からは青色をした鹿の角の様な物が生えてきた。
〈身体強化(麒麟)〉
「喜べ。未だ誰も見た事が無い俺だけのスキルだ。」
拳王が両腕の鉄甲を上下に重ねると、空にとても巨大な魔法陣が展開された。
額に目って邪王○殺黒○波ぶっぱなすのかと思ったが、どうやら違う様だ。
とにかく落ち着け俺。
あのでかさの魔法陣がから何が繰り出されるのか、強肉弱食で耐えられるのか。
いや、強肉弱食の特徴に気付いたのであれば、それに見合った使い方をしてくるに違いない。
例えばでっかい隕石とかが出てきてその爆風と岩の破片を俺に飛んでくるように仕向ければ俺は傷つき、下手したら死ぬ。
その時、魔法陣から巨大な拳が現れた。
「おい、準備はいいか?こっちは放つだけの状態だ。頼むから死んでくれるなよ。なに、すぐ死ななきゃ問題はねーし。」
「くっ…。」
最悪だ。
隕石では無かったにしろ、ほぼ同一視できる攻撃だ。
「行くぞ。」
〈星巡 頑固一徹〉
拳がもの凄い勢いで俺を目掛けて落ちてくる。
凄まじい爆音が鳴り響き、地面がえぐられ爆風と粉塵により広範囲が真っ白になっていった。
「コースケー!!!!」
遠くからメイエリオの叫び声が聞こえた。
声を感じるという事は俺はまだ生きてるって事だ。そう、何もしないまま攻撃を受けた訳じゃない。
「ん…………なんだ!?」
徐々に収まりつつある粉塵の隙間から拳王が見たものは、緩やかな曲線を描いたとても巨大な剣先。
それは雲よりも遥かに高く、始まりが見えない程高くから地面に刺さり、拳王の放った巨大な拳をかき消していた。
スキル〈大かま〉
100ポイントは痛いが、刺さる幅を調整すればこの平原一帯を巨大な渓谷にする事も可能な程の破壊力。
側面の強度も申し分ない。
拳王のとっておきを難なく食い止めていた事から、広域を護る盾としても使用ができる。
ちなみに〈大かま〉を使う時は〈小かま〉とは違い、選択するとまるでGPSの様に頭上からの景色が確認できる様になる。
あとは落下地点と規模を選ぶだけだが、何気にこの選択画面、戻るボタンがある。つまり頭上からの情報を確認するのにも使えるのだ!
まぁ、いまいちどういう時に使ったらいいかは分からないけど。
そしてもう一つ、〈身体強化(死神)〉だ。
最初に使った時は全く効果が分からなかったが、この一週間でどう使うのかを理解した。
自分では分かりにくいが、今の俺は恐らく全身が真っ黒な状態だ。
〈身体強化(死神)〉を発動すると、背後にボロボロのローブを纏った骸骨が現れる。
俺が地球で想像した死神の姿だ。
それを取り込む事により身体強化が発動される。あらゆる感覚が鋭くなり、肉体的な強化も望めた。
ではなぜ、最初から取り込まれないのかと言うと、そのからくりも分かっている。
なんと、この強化は仲間にかける事ができる。
この骸骨を任意の人物に憑依させ〈身体強化(死神)〉を付与する事ができたのだ。
ちなみにメイエリオやユージリン達も経験済みだ。
時間は10分程ではあるが、なんとも頼りになるスキルだった。
そうこうしている内に〈大かま〉は天空へと消えていき、俺の姿が拳王からはっきりと見える様になる。
「その姿は強化か。それにその技…。俺のとっておきをよくも…。」
「まだやるなら付き合うぞ。」
俺は手を前に出し、人差し指をクイクイと上げ挑発する。
拳王は鉄甲の壊れた部分を見つめ
一つ小さな溜息をついた




