えぴそど12 対人戦
コンビニで袋はどうしますか?って聞かれてよく裏返る私です。
声に向かい振り向くと、青髪の若い男がこちらをニヤつきながら見ている。
容姿は良く、いわゆるイケメンだ。その周りも全員こちらをニヤつきながら見ている。陽キャに絡まれた状態の完成だ。
ふと、メイエリオの方を見ると、職員と二階に上がっていく所だった。これくらいの事で彼女に面倒をかける訳にはいかない。大人として華麗に対処してみせる。
「聞こえてんのかおっさん。おめーだよ、その腰布のおっさん。」
ぐぬぬ。煽り方が幼稚とは言え、何気に堪えるな”おっさん”というパワーワード。怒りを抑えつつも、鑑定眼で全員のレベルを見ていく。
青髪の男がレベル31で、後は17~26といった感じだ。これあかん。一番強い奴に絡まれるとか、途中で助けてもらえる世界線は無くなった。
だが、漏れなく俺よりレベルの低い奴は居ない。恐れる事は何も無いのだ。ここは強気に堂々と毅然とした態度であしらってやろう。
「な⤴…なにか…文句でもあるのかよ!」
んもぅはっずい!やだーもぅ!こんな肝心な見せ場でなんで裏返るのマイボイスゥゥゥゥ!ほら見ろ!みんなゲラゲラ笑ってるじゃないの!俺の顔が真っ赤に紅潮したのが自分でも分かる。脇汗もすごい。くそ、こいつら絶対許さんぞ。
最初に声をかけてきた青髪が、笑いながら立ち上がり近寄ってくる。手には何か布を持っているようだ。や、ヤル気かこの野郎!
「ははははは!そんな怖い顔すんなよ!ほんと笑わせてくれるなぁ。俺の名前はタルガージだ。冒険者ランクはA。それよりこれこれ。」
タルガージと名乗った青髪は、手に持った布をヒラヒラと左右に振る。服に見える。で、それで俺をどうするつもりだ。
「だからそんな怖い顔すんなって。これやるよおっさん。そのままじゃ夜さみぃだろ?サイズもまぁ、俺よりちっせーし着れるだろ。」
自分を恥じた。
そしてあらゆる言葉を使い己を責めた。なんと自分は愚かで器の小さい人間なんだ。年齢を重ねる事でここまで人を信用できなくなっているとは。いつの間にか日本式の礼儀礼節に囚われてしまっていたのだ。
フランクに冗談を混じえながらも他者を気遣い、この上とも手を差し伸べてくれようとしていたのではないか。あぁ、本当に俺は馬鹿だ。決めた。これからは先入観に縛られるのは止めにしよう。
彼等に謝罪し、仲良くなろう。
「す、すまない。初めての場所で緊張してしまって。俺は康介だ。助かるよ、ありが────」
お礼を言いつつ差し出された服を掴んだ瞬間、急に引っ張られた。勢いのまま前に倒れ込みそうになったところへ足も掛けられ、俺はそのまま青髪の隣のテーブルに突っ込んでしまう。
どっと沸き起こる笑い声。
ホールを挟み反対側のテーブルからも笑われている。指笛や拍手の様なものも起きており、明らかに青髪を讃えている。
「おいおいー。おっさんーちゃんと持たないからー。はーっはははは!」
前言撤回
これからは自分の先入観を信じて生きていく
テーブルに突っ込んだ拍子に腰に巻いていた布がはだけ、すっぽんぽんに返り咲いてしまった。
なお一層大きくなる笑い声。
今更裸を見られたところでもう何も感じない。そう俺は今、怒りの頂点を超えているのだ。やられたらやりか…これはやめておこう。
さて、キレたはいいがどうしたもんか。
カマを使えば簡単に勝てそうだが、それでは殺してしまうかもしれない。
人殺しは嫌だとか、そんな綺麗事を言うつもりではなく、捕まってしまう可能性がある。夢の文化的生活が一転、獄中生活に転落するかもしれない。下手したら極刑もありえる。
ここは、そうだな。とりあえず殴ろう。
俺は股間に重力と風を感じながらも、青髪に向かい特攻する。分かってはいたがあっさりと避けられ、また足も掛けられる。
違うテーブルに突っ込みそうな所を、野次馬の男2人が俺の両腕を掴み中央ホールに放り投げる。
おいおい、強肉弱食さんよ!これも立派な攻撃だろ!足掛けはキックだし、今のは投げ技じゃないのかよ!と文句を考えていた時、ふと冷や汗が流れてきた。
もしかしてこのスキル
人には効力が発揮されないのか
まずい、非常にまずい。
ここまで来て一方的にタコ殴りで終わるのは非常にまずい。命こそ取られないにしても、この街で笑い者にされる未来しか見えない。
メイエリオが一緒に歩いてくれなくなったらどうしてくれる!
青髪は依然ニヤニヤ顔でこちらを見ている。
ここはスキルに頼っている場合では無い、自らの自尊心を保つ為にも立ち向かわなければならない。俺は立ち上がり、ボクシングのファイティングポーズを取った。
【男気を50獲得しました】
ここでか!?まぁ、今はそんな事はどうでもいい。
両手を構えた事にすら起こる笑い声も無視し、今は目の前に集中してやるしかない。そのままゆっくりと前に進み、青髪との距離を詰める。
青髪は近くに座っていた剣士の剣を掴み、鞘がついたまま肩に担ぐ。俺は手の届く距離まで詰め、思いっきり殴りかかる。
今度は足を掛けられない様に注意しているし、俺の方が初手が早い。いける。さぁ燃え上がれ俺のゴッドフィ…
瞬きをした刹那
なぜか剣の鞘が目の前にあった




