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すみません! 人違いでした!  作者: 緑谷めい


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18/18

18 愛しい者



 最終話です。




************




 ――2年後――


 

 今朝、俺とオリーヴの間に第一子が誕生した。俺によく似た男児だ。

「オリーヴ、ありがとう」

「ルイゾン様……」

 初めての出産を終えたばかりのオリーヴは、青白い顔をしてグッタリと寝台に横たわっている。

「オリーヴ。大丈夫か?」

 子供が産まれたことは、もちろん嬉しいのだが、何よりも俺はオリーヴの身体が心配だった。

 出産は命懸けの大仕事だ。今もお産で命を落とす女性は少なくはない。


 オリーヴは酷く憔悴しているように見える。医者は「初産にしては時間もかかっておりませんし、奥様の御身体に特に問題はございません」と言うが、本当に大丈夫なのか? 

 俺は不安で堪らず、寝台の横に張り付いて、ずっとオリーヴの手を握っていた。

 するとオリーヴが、

「ルイゾン様。私は大丈夫ですから、赤ちゃんを抱いてあげて下さいませ」

 と、言う。

「え? ああ、そうだな」

 恐る恐る赤子を抱く俺。


 うっわぁぁぁ~!? ナニコレ? ナニコレ? ナニコレ~?!

 軽い軽い軽い怖い怖い怖い――軽過ぎて小さ過ぎて壊れそうだ!?


「こんなに小っちゃくて、ちゃんと生きていけるのか!?」

 思わず、医者にそんな質問をしてしまった。我ながらバカっぽいな、俺!

「勿論でございます。それに、御子様は決して小さくはございません。新生児の標準より、少し大きくていらっしゃいますよ」

 医者は、にこやかにそう言った。


「えーっ!? こんなに小さいのに!?」

 俺は自分の腕の中の赤子をもう一度、マジマジと見た。

 やっぱり、スゴクちっさいぞ!!


「ルイゾン様ったら。驚き過ぎですわよ。ふふふ」

 オリーヴに笑われた。でも、笑う元気があるんだな。良かった。



 その後、オリーヴは順調に回復し、赤子もちゃんと生きている。

 俺の心配は杞憂だったようだ。心底、ホッとした。






 産後一週間が経ち、オリーヴが床上げをすると、彼女の両親と妹夫婦が出産祝いの品を携えて我が家を訪れた。

 伯爵も夫人も初孫を抱いて感激の面持ちだ。

 コラリー嬢――いや、違うな。半年前に婿を取って人妻になったのだから、もう ”嬢” ではない。コラリー ”夫人” も甥っ子を抱いて「可愛い、可愛い」と、はしゃぐ。ちなみに彼女の夫は、あのモーリスである。俺の悪い予感が当たり、腹黒眼鏡モーリスがベルモン伯爵家に婿入りしたのだ。


 伯爵夫妻とコラリー夫人は、赤子を奪い合うように代わる代わる抱いては、

「目がルイゾン様にそっくりだわ」

「口元はオリーヴ似ね」

「お、アクビをしたぞ。可愛いな」

 などと、盛り上がっている。

 そうしているうちに、ついにはモーリスまでが、

「抱っこしてみたい」

 と、言い出したではないか。


「いや、お前はダメだ」

 俺がそう言うと、

「ルイゾン! 何だよ! 何でダメなんだよ!?」

 と、モーリスが俺を睨む。相変わらず目付きの悪いヤツだな。

「だって、お前、落としそうだし。昔から不器用だからな」

「いやいやいや。何だよ、ソレ!? いくら何でも赤子を落とす訳ないだろ?!」

「信用ならん!」

「ヒドい!!」

 俺とモーリスのやり取りを聞きながら、オリーヴとコラリー夫人が可笑しそうにコロコロと笑う。伯爵夫妻は呆れ顔だ。


 モーリスが余りにもしつこく頼むので、優しい俺は可愛い我が子を少しだけ抱かせてやることにした。

「いいか。気を付けろよ。落としたら殺すぞ!」

 俺の言葉にモーリスが眉を顰める。

「分かってるよ。けど『殺す』とか、出産祝いに来た人間に言っちゃダメな台詞だからな!」

「他の人に言う訳ないだろ。お前だけだ」

「そんなオンリーワン、欲しくない!」


 俺は不本意ながら赤子をモーリスに渡す。

「そ~っと。そ~っとだぞ。気を付けろよ!」

「分かってるって!」

「もっと脇を締めろ!!」

「何の訓練だよ!?」


 俺とオリーヴの子はスゴイな。

 モーリスが、腕の中の赤子に蕩けそうな笑みを向けているのだ。あの腹黒眼鏡に、あんな顔をさせるとは――さすが俺とオリーヴの愛の証! 天使! 妖精かも知れん!!






 その後、俺は頭が禿げ上がりそうになるほど悩みながら赤子の名を考えた。


「オリーヴ! 赤子の名を決めたぞー!!」

「ルイゾン様。大声を出さないで下さいませ。今、寝たところですのよ」

「あー、スマン、スマン」


 俺はスヤスヤと眠る我が子の顔を覗き込む。

 俺の考えた名前、気に入ってくれるかな?

「早く一緒に遊ぼうな。な、” ルイージ ”」


 愛称はもちろん「ルイルイ」である。
















 終わり


 最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

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