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8話:二人目・切り狂いの殺人鬼

「イヒヒヒヒヒ!!」


 狂気的な笑い方をしながら、警備員が日本刀を振り下ろす。


 刃は俺の脳天を捉え、このままなら俺は頭から股まで一刀両断されるだろう。スピードやタイミングからしても、普通では避けるのは難しい。



「くそっ!?」


 だが俺の体は普通ではない。筋力は勿論、反射神経や動体視力も強化しているサイボーグだ。左腕にかすめながらもギリギリで避け、慌てて警備員からバックステップで距離をとる。

 その際石田の手を掴み、一緒に離れさせた。



「ヒヒ、何だよ、避けちまったのかよ。折角綺麗に真っ二つに出来そうだったのによぉ」


 先ほどまでの柔和な笑みは欠片をなくし、心底残念そうに、心底恨めしそうに警備員は俺を睨む。しかし表情は常に口角を上げて笑い、不気味だ。そして七三に分けた髪をグシャグシャとかいて、わざと髪をぼさぼさにした。


 その姿は日本刀を持っている事も相まって、狂っているという形容詞が最もしっくりくる姿だった。



「こ、考輝さん、怪我は!?」


「だ、大丈夫だ……それより、何なんだこいつは……」


 石田がこちらを心配して声をかけるが、俺はそれどころではなかった。急な警備員の豹変と、生まれて初めて明確に殺されかけるという状況に、頭が混乱していた。


 対して石田は冷静なのか、一歩前に出ると、警備員を指さした。


「こいつは佐藤亮介! 切るという事が大好きで、どの欲求よりも『切りたい』という欲が強い異常な殺人鬼です! それからギアホルダーで、日本刀がギアです。能力は切った瞬間血を奪って柄に溜め、自在に操る事です。操れる半径はだいたい5m。ただ自分の手で切りたいと考えているので、攻撃で能力はあまり使いませんが、注意はしてください!」


 石田が警備員――佐藤の情報を息をつく暇もなく話していく。流石に自分の情報をこんなにも知っている事に驚いたのか、佐藤の目が見開く。それでもまだ狂気的な笑みを浮かべているが。



「……殺人鬼の佐藤って、もしかして将来俺の部下になるとかいう奴か?」


 未だに頭が正常に機能しているとは言えないが、石田の言った事から情報を整理する。記憶が確かならば、佐藤の名前は一度話に上がっていた。


「その通りです……すみません、漫画だと常に狂っている姿だったので気づくのが遅れてしまいました。この人見て悪寒のようなものは感じていたのですが、もっと早く気づくべきでした……。まさかこんな所にこんな狂人が紛れているなんて夢にも思っていなくて……」


 俺が気づくが遅かった事を非難していると思ったのか、石田が苦虫を噛み締めたような顔で謝罪する。実際の所はそのような事を考えている余裕はなかったので、謝る必要はなかったのだが。





「それから、こいつは痛み――」


「イヒ、イヒヒヒヒ、ヒヒヒヒヒヒ……」


 ずっと黙っていた佐藤が急に俯いて笑い始めた。体はユラユラと揺れ、こちらを見てすらいないのだが、妙に危険な雰囲気を感じる。何か付け加えようとしていた石田も雰囲気に呑まれたのか、口を閉ざした。

 咄嗟に前に出ていた石田を引っ張り、俺の後ろに隠す。



「イヒヒヒヒヒヒヒ!! 何だ、お前! 俺のファン? 何でそんな詳しいのさ。そもそも俺の存在どころか、殺人の事も世間は知らないはずなのに、何で知っているのさ?」


 佐藤は額に手を当てて心底楽しそうに笑うと、じっと石田を見つめる。その目は驚く程淀んでいて、怪しげに眼光をギラギラさせていた。

そんな目で見られて石田はビクリと震えるが、直ぐに佐藤を睨み返す。


「あ、貴方に教える筋合いはありません! それよりも貴方みたいな人が、何でこんな所で警備員をやっているのですか!」


 それどころか、殺人鬼を前に反論をした。正直その対応も異常だと感じてしまう。



 そんな石田の姿に佐藤は爆笑すると、日本刀を肩に担ぐ。


「イヒヒ! 俺の質問の答えないのに、自分の質問に答えろとか、ムシがよすぎない? まぁでも答えてあげちゃうちゃうぜ。俺年下に優しいし、お喋り好きだしよ。ヒヒ、実際の所この状態で人と喋るのが久しぶりで、テンション上がっているんだよね。ヒヒヒ」


 石田の質問に気前よく答えてくれるようだが、傍から見ていると、会話が成立している事が不思議でしょうがない。それ程までに佐藤の雰囲気は異常だった。





「嬢ちゃんの言う通り、俺は人や物を切りたくてしょうがない。なんなら目に付くもの全て切りたい。だけど、この国で勝手に人や物を切ったら犯罪になっちまうのよ。知っていたか? 一応切ったものは細切れにして跡形も無くしてはいるんだけどよ、それでも隠すのには限界がくる。それで俺は逆に国に協力して、俺の行動をある程度黙認してもらう事にしたのよ」


 佐藤は楽しそうに自分の話をしていく。

 その間に俺は石田の前に立ちながら、腕を組む。佐藤の異常性にまだ呑まれている感はあるが、徐々に頭は冷静さを取り戻していた。



「で、今はこの博物館、もとい研究所の警備をしている訳だ。それと警備ついでに殺しても隠蔽するのが楽そうな奴が目の前に来たら、こうやって研究所の方に連れ込んで切っている訳だ。ここなら外部からの電波はシャットアウトしているし、俺を咎める奴もいねぇしよ」


「研究所か……裏がある可能性があるとは思ったが、まさかいきなりこんな当たりに出くわすとは……」


 佐藤の話から、この博物館がただの施設ではない事が確定した。おまけに外の立花と連絡がつかない理由も分かった。

 国と協力していると言っていたので、この施設は国が表に出せないような研究をしていたのだろう。おそらく、漫画でのテロ行為は博物館ではなく、この研究所を狙ったものだったと考えられる。


 いろいろと気になる事もあるが、あまりにも非日常な状態に思わず溜息を吐いてしまう。



「……じゃあ、もう一つ聞かせてください。大和君と、菫ちゃん。貴方の事を随分信頼しているみたいですけど、それでも切る気ですか?」


 石田の質問に佐藤がピクリと反応した。

 それを見て俺は腕を組み、気づかれないように右手をジャケットの懐に入れる。



「……お前未来分かるのか? それとも人の心が読めるのか? その二人は今必死に切るのを我慢して、もう少し切れる体積増えた時に切るつもりでいるんだけどよぉ……なんでピンポイントでその名前出せるのよ?」


 佐藤が首を傾げ、不思議そうに石田を見る。別に大げさではあるものも普通の表情なのだが、急に狂気的な笑みがなくなった事に背筋に悪寒が走る。

 俺は急いで懐にある目的の物を手探りで探す。



「べ、別にそんなんじゃーー」


「ま、どうでもいいか。切るし」


 石田の言葉を遮ってそれだけ呟くと、佐藤は刀を構えてこちらに向かって走り出す。


 狂気的な笑いと共に。





「イッヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!」



 それと同時に俺は懐から鉄鉱石を掴みながら右手を出し、前に突き出す。突き出しながらギアを発動すると、右手首のブレスレットが赤い光を放ちながら形を変えて右手の先を覆い、紅いグローブに変わる。

 グローブを着けた手の人差し指を突き出し銃の形を作る。すると掴んでいた鉄鉱石が指先に移動し、指先の空中で静止した。


 それを見て佐藤は一層笑みを深めると、より早くこちらに接近してくる。


 俺はそんな佐藤に構わず、鉄鉱石を撃つ。

 鉄鉱石は銃弾のようなスピードで真っ直ぐに標的である佐藤に向かう。


 しかし佐藤は高速で迫る鉄鉱石を確実に見切っているのか、寸分の狂いもなく刀を鉄鉱石に振り下ろした。





「!?」


 佐藤が刀を振り下ろした瞬間、鉄鉱石が右に逸れて刀を避ける。

 軌道が変わるとは思っていなかったのか、佐藤は驚いたように目を見開く。


 ギアであるグローブを着けた右手で掴んだものを高速で打ち出し、5秒の間自在に動かせるというのがこのギアの能力だが、普通の人間では扱うのは難しいかもしれない。強化された動体視力と思考スピードがあってギリギリ使えるものだ。通常なら打ち出すだけで精一杯のはずだ。



 日本刀を避けた鉄鉱石が佐藤に迫る。狙いは日本刀を持っている左手だ。




「甘々だぜ」


 日本刀の柄から赤いものが飛び出し、佐藤を守るように壁を作る。壁は佐藤の右上半身を覆える程の大きさだった。


 操作が間に合わなかったため鉄鉱石は赤い壁に当たり、金属音と共に鉄鉱石がはじき返される。だがまだ操作可能な時間のため、今度は覆えていない左半身を標的に鉄鉱石が動き出す。


 それに対して佐藤は足を止めると、赤い壁が今度は佐藤の全身を隠せるくらいの大きさになり、鉄鉱石は再びはじかれてしまう。もう一度動かそうとするが、5秒の時間が過ぎてしまったので、力なく鉄鉱石は地に落ちる。



 おそらく、赤いものは石田が説明していた血なのだろう。切った相手の血を奪い、操る能力。しかも硬度まで自在なのか、あの血の壁は最低でも鉄以上の固さがありそうだ。


 しかし、一瞬だけ佐藤の足を止める事は出来た。その一瞬で追加の鉄鉱石を取り出す。


 そして赤い壁はただの血に戻ったのか、重力を受けて地面に落ち始める。



 そんな血の壁から佐藤が全身を血まみれにしながらも、満面の笑顔で飛び出す。



 俺は佐藤が飛び出すとほぼ同時に、残りの全ての鉄鉱石を打ち出した。たった三つしかないが、自在に操れるなら出来る事は多い。

 一つは先ほどと同じく左手を狙い、あとの二つは頭と足を狙う。これだけ広範囲ならば、血の壁で一気には覆えないはずだ。



 佐藤も先ほどと同じように血の壁を出すが、今度は右手を覆うくらいの大きさしかない。右手に向かっていた鉄鉱石だけ進路を変えて腹を狙う。


 そのまま佐藤は特に何をするでもなく、高速の鉄の塊が直撃した。





 しかし、佐藤は足を止めない。


 下手をすれば致命傷になりかねない一撃をくらいながらも、佐藤はこちらに向かってくる。まるで痛みなど感じないように。



「ヒヒひ日ヒヒ比非灯ヒhiひヒ被火ヒひヒヒ!!!」


 もはや人間の出せるとは思ないような声で佐藤は笑った。



 そのまま佐藤は俺の目の前まで、奴の日本刀が届く距離まで近づかれた。

 そして刀を大きく振り上げ、ドロドロと濁った瞳がこちらを覗く。


 間違いなくこのままでは切られる。





 そこで俺は逆に前に出る。


 佐藤の懐まで入り、拳を構えた。

 余裕だからなのか、佐藤はわざと懐に入れたようだ。刀は極端に大振りのうえ、俺が目の前に来ても笑みを崩さない。


 そんな笑みを無視して、佐藤の無防備の腹に拳を叩き込む。


 確かに高速の鉄鉱石が直撃しても全くダメージがないのだ。人に殴られるぐらい問題ないのだろう。余裕なのだろう。





「ヒっ!?」


 しかし俺の拳が腹に直撃すると、佐藤は顔を痛みで歪ませた。


 何か柔らかい物が潰れる感触を味わいながらも、俺は拳をふりぬく。

 佐藤は吐血して吹き飛ばされた。地面をバウンドしながら、十メートル近く転がっていく。


 初めての命を懸けたやり取りが一応終わったことに、ゆっくりと息を吐いた。





「す、すごい力ですね……」


 背中に隠れていた石田がおずおずと前に出る。

 先ほどまで殺人鬼と言い合っていた時よりもどこかしおらしく、大人しい。


「体を改造しているからな。単純な破壊力なら、鉄鉱石を当てる何倍もある。……ただ殴り合いの喧嘩は慣れていないから、あまり接近戦はしたくなかったのだが」


 いくら自分の体のスペックが相手よりも高いとはいえ、日本刀を持っている相手に拳で挑みたくない。そして俺は喧嘩慣れしているわけではないので、上手く立ち回れる自信はなかった。


 そのため鉄鉱石をギアの力で打ち出して遠距離で戦っていたのだが――。



「まさか眉間に鉄の塊が直撃してもなお、笑顔で向かって来るとは思わなかったぞ……」


「……佐藤は相手を切ろうとしている時、テンションが上がり過ぎて痛みを感じないらしいです。それによって人間の体の限界を超えたパフォーマンスができるのだとか。……すみません、この事を説明しようとして、途中で遮られてしまいました……」


 石田は俯きながら呟いた。

 それにしても痛みを感じないとは驚きだ。アドレナリンが出ているのだろうが、流石に内蔵が潰れるという、物理的な損失には耐えきれなかったようだ。



 それから石田は顔を上げるとピクリとも動かない佐藤に向かって歩いていく。


「とりあえず、ギアを取り上げましょう。ギアが無ければ、佐藤も危険な狂人から、ある程度危険な狂人になります」


 確かに武器は取り上げた方がいい。しばらく佐藤は立つどころか動く事もままならない程の重傷だろうが、動けない間に対処はした方がいいだろう。








 もう佐藤は動けない。


 そう考えていた俺は完全に油断していた。





「ヒヒヒ」





 佐藤は立ち上がった。

 しかもまずい事に石田がある程度近づいた後で、すでに佐藤の日本刀が届く範囲に入ってしまっている。


 対して石田は咄嗟の事で固まってしまっていた。佐藤が刀を振り上げても茫然と立ち尽くしたままだ。


 ギアで助けようにも鉄鉱石は全て打ち尽くしたし、他に打てるものもない。

 鉄鉱石は全て床に転がり、一番近くの物も二人の足元だ。



 俺は二人に向かって走りだした。





「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!」


 ギリギリで佐藤が刀を振り下ろす前に石田の元に着き、そのまま横に突き飛ばす。



「腕……貰ったぜ? ヒヒヒ!」


 結果として、俺の右腕が肩から切り落とされた。


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