表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dark moon  作者: chocolatier
変わりゆく世界
48/48

何か踏んだらしい。裸足の足が痛い。でも、そんな物は止まる理由にならない。

もうどれ位走ったんだろう。


マンションから出て数分か。

それとも数時間か。

感覚がまるで分らない。

自分が何処にいるかも分らない。


それでも、紗音は足を動かし続けた。


――ラルム、何処にいるの?


心の中で何度となく問いかけながら。

愛する人の面影を探しながら。

道も分からず闇雲に走って。走って。走って。


とっくに息は上がっている。からからの喉は無理やりに呼吸をする度血が混じる。視界も霞む。


でも、止まれない。

止まってはいけない。

だって――


衝撃と共に肩に鈍い痛みが走った。


「っ!」

「っ痛てぇな!」


ぶつかった相手の怒声に身が竦む。

男はその一瞬の隙を見逃してはくれず。

乱雑に腕を掴まれて路地裏に引きずり込まれる。


「ほら、嬢ちゃんワビしろよ?」


薄汚れたビルの外壁に叩きつけられた背中。

値踏みするような視線。

下賤な声。


ぞわり。

名を貰う前。ラルムと出逢う前。あの最低な日々の記憶に胃の腑が絞られたようにキモチワルイ。


「っち、もったい付けてんじゃねぇよ!」


乾いた音。熱い。

ぶたれたんだ。

他人事みたいに路地に倒れこむ。


ブラウスに伸びてくる手。

知らない手。

ラルムじゃない。


「や、だぁ!!

ラルム!!ラルム!!!」


火の付いた赤子みたいに泣き叫んでも誰も来ない。

上から抑え込む男に、二度三度立て続けに殴られた。

甲高い音でブラウスの袖が破れる。


――可愛いね。


何時だったか、ラルムがそう言ってくれた、お気に入りのブラウス。


ラルム。ラルムラルムラルムラルム……!


繰り返し呼ばう。

返る声は無い。


脳裏にちらつく玄関のチャイム。二人の男の影。


嫌だ。

追い付かれて仕舞う。


――現実に。


その時、紗音の指先に何か触れた。

摘まんで見上げる。酒瓶の欠片らしき色ガラス。


握りしめる。とんがって、いたい。

でも、いいや。


自分の胸元に鼻先を埋める男の喉首に、紗音は躊躇いなくそれを突き刺した。


ぐちゅ。

生肉の嫌な手ごたえ。

吹き出す赤色。

降り注ぐぬるい温度。


絶命した男の重い身体を押しのけて、紗音は立った。


また、走らないと。


ラルムを、探すために。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ