降下
SFを書きたくなったので書きました
首筋に打ち込まれたドラッグによって強制的に意識を覚醒させられると、ライムグリーンの景色が目の前に広がった。
人工的に網膜に投射される蛍光緑のシグナルは、即座に視神経に直結され、強化バイザーの先の映像を肉眼と同じように映し出す。
唯一肉眼との異なる点は、視界のあちこちにデジタルデータを数値化したものが見えることだろう。
狭いプレハブ小屋。
そんなイメージを抱かせる長方形の箱の中で、俺は目覚めたらしい。地面に横たわっていないところから察するに、俺はまだ生きているようだ。
強引に薬で意識を叩き起こされたが、灼熱の砂漠で作戦を終えた直後の記憶と合致しない。脳髄に流し込まれたアンフェタミン系の液体のせいで頭がズキズキと痛む。
最悪の目覚めだ。
おそらく帰国する暇すら与えれず、次の戦場に投入されたのだろう。
頭は動かない。
下着よりも肌に馴染んだ強化外骨格が、頸部と頭蓋骨を固定しているせいだ。
それでも意識を左右に巡らせると、ヘッドギアと両肩についた高精度カメラが、周囲の状況を伝えてくる。
壁に霜が浮くほど寒い格納庫の中には、樽のような物体が七機縊死した死体のように吊り下げられている。
俺が搭乗しているのが八番目の機体だ。
強襲型重装複合猟兵外骨格。通称ガルム
神話の犬から取られた名前らしいが、外観は陸ガメの方がしっくり来る。
ベルデチウム合金で覆われた腕などはハイスクールガールの腰よりもよほど太い、脚部は更に堅牢だ。
これで猟犬とはだいぶ無理がある。
そんな事を考えていると、死んだように沈黙していた周りガルム達のバイザーが緑色に点滅し、やがて紫色の光が灯った。仲間たちにも、無粋な薬が打ち込まれたのだろう。
ちょうど眼窩に当たる部分に宿った幽鬼を思わせる色は、地獄からの使者のようであり、まさしくガルム部隊が担う役割を連想させるに相応しいものだ。
一番最初に叩き起こされた俺を皮切りに全てのガルムに紫の光が灯り、乗務者の覚醒が揃うと目の前に――正確には視神経を通して脳に直接――命令が表示される。
《都市近郊にある市営の講堂を占拠した過激派集団を排除せよ》
雑な命令だ。
これまでに、十数回はこなしてきた任務でもある。
違うところがあるとすれば、比較的珍しい連続任務であること。
予想するに戦地から戻ってくる最中だった我ら機械化中隊の帰還ルートでたまたま暴動が起こったので【ついでに】処理させようという魂胆なのだろう。
作戦を指揮する上層部は実に合理的なことだ。反吐が出る。
過激派集団のせいで愛する妻、まだ八歳になったばかりのマリーとの再会が遅れるのだ。
きっと同じ部隊にいる新婚のジョッシュも同じ気分だろう。
冷凍睡眠と任務の繰り返し。
国民平均年収の三倍を貰っていると言っても割に合う気はまるでしない。
愚痴を脳内で走らせていると、【冷凍庫】の下部が金属が軋む轟音と共に左右に展開した。
眼下には綺羅びやかな都市の光。
視界の端に浮いた網膜投射式のデジタル時計に視線を贈ると、時刻は19:11を示していた。
夜が訪れたばかりの街には、まだ多くの人達が行き交っているのがカメラ越しに映っている。早い時間だからこそ、迅速に鎮圧しろというお達しなのだろう。
作戦開始までの残り時間が視界に表示され、オレンジ色のカウントダウンが60秒を切ったところで、別の警告文が出る。
感情抑制のタブレットを飲めという指示だ。
クソくらえ。そんな罪悪感が蒸発する代わりに危機への反射機能が低下する錠剤など誰が飲むものか。
無理やり口に詰め込まれた薬をペッと吐き出す。
この感情抑制薬のせいで咄嗟の判断が鈍り、KIA(戦死)した仲間を何人も見てきたのだ。隊員は愛用しているが俺は飲まない。ガルムが敵対者にとっての死神ならば、人を機械にする感情抑制薬はガルム搭乗者にとっての忌まわしき鬼火だ。
残りのカウントが20秒を切り、ガルムとヘリを繋ぐアームが八機を銀色の海の上空へと導く。
輸送ヘリからの直接降下。
制空優勢から敵陣の中心部に直接殴り込みをかける高高度降下弾丸強襲攻撃(HABAA)が始まる。
仲間たちはなにも言わない。
作戦が始まり、周囲を不感地帯(RQZ)になるまで私語はない。
そもそも感情抑制剤を飲んだ仲間たちは冗談すら言わなくなってしまう。
高揚はない、恐怖もない。
薬に頼らずとも心は凪いでいる。
タイマーが残り五秒へと堕ち、ようやくカチリと音を立てる。
――状況開始――
その文字ともに、ガルム(猟犬)が放たれる。
自由落下ではない。アームについた圧縮ガスにより、目標めがけて弾丸となって射出されるのだ。
空気を穿つ轟音とともに、恐るべき速度で講堂が近づいてくる。
なにか見覚えがる気がするが――無視。
ほんの数秒で、八つの猟犬が講堂の屋上を突き破り、内部に突入する。
激音と、衝撃。
砕かれたコンクリートの粉塵が月光を浴びて舞い散り、その薄明かりの中で死の猟犬が紫の眼光を放つ。
かくして、科学技術で武装した人犬の狩りが始まった。
短編にしてしまったせいで、続きが書けないと知ってオロオロしてました。なろう使い方を忘れてます




