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第二十三話 白魔女は恋を知る

「えっと、この材料はこっちに混ぜて・・・・・・これは煮込んで・・・・・・」


明くる日のこと、キッチンで鍋とにらめっこしては、あれこれと忙しなくしていた


あれから数日が経って、リラはまた白魔女と

しての日常を送っている。

騎士団長であるリーヴェスの勧めもあり騎士団本部から帰れたのはすぐだったが、やはりリラが心配なのか彼も時々仕事を抜け出して様子を見に来てくれていた。

魔術師団内では、ハインツは謹慎処分の後に降格となったらしい。

解雇ではなく降格なのは、今後同じようなことをしないために監視するためなのだとか。

曲がりなりにも魔術師なので、野放しにするより首輪をつけておいた方が良いとヴェルナーは語っていた。

ともかく、これでしばらくはリラに危険なことが起きることはないだろうと安心できる。

今日は一段と寒い日で、客も少ないので、のびのびした午後になった。


「しかし寒いですねぇ・・・・・・この調子なら雪が降りそうです


窓の外を見て、誰に話しかけるでもなく呟いた。

キッチンに籠って鍋を煮込んでいると暖かいが、外に出れば寒さで震える。

夕方頃には雪が降り始めそうだ。

それまでにアインハードが帰って来られればいいのだが。


「これが終わったら、空いた時間にお菓子作りでもしましょうか」


ビアンカとのお茶会の約束があるので、その時に出すお菓子の試作品を色々作りたい。

あれから、ビアンカからはものすごく心配されて、号泣されてしまった。

心配をかけてしまって心苦しい一方で、ビアンカが涙を流してまでリラの身を案じてくれたのは嬉しかった。

お詫びに今度一緒にお茶をしようと約束もできたし、楽しみだ。

今度はもっとビアンカの好きな小説の話も聞きたい。

それに、恋の話だけでなく裁縫もだ。

無事に小物作りは終えられたから、次は何を一緒に作ろうか、うきうきと考える。


と、その時、窓にコツンと何かが当たる音がした。

リラにはその小石でも投げられたかのような音に聞き覚えがあった。


「はいはい、なんですか」


そろそろ完成する頃合だったのでちょうど良いと、一旦、魔法で付けていた鍋の火を消して、窓を開ける。

びゅうっと冷たい風が吹き込んできた。

外にいたのはパタパタと羽ばたいている白い伝書鳩だ。

以前ペルスネージュがリラに寄越したような鳩とは違い、リボンでかわいく飾られているその鳩は、リラの師匠がいつも遣わせる子だった。


「あら、こんなところまであなたも大変ね」


手紙を受け取り、ついでに乾燥させた小さな木の実や果物を持ってきて食べさせる。

食べ終えた鳩は満足そうにして、また遠くへ飛んで行った。


「どれどれ、今度は何の用なのやら・・・・・・」


手紙を開いてみると、書きたいことがたくさんあったようで便箋にびっしり文字が埋まっていた。


『親愛なる弟子であり娘へ。元気してるかな〜!?師匠は毎日楽しいよぉ〜!』


「・・・・・・」


一行目からこのテンションだ。

続きを読むまでもなく、師匠が楽しい日々を過ごしていることは十分すぎるぐらい伝わってきた。

師匠たちは現在東方の地を旅しているようで、これまで巡ってきた日々の思い出がたくさん綴られていた。

それ以外にも、どこの国の男子は美男が多いだとか、夫アンゼルムとの恋愛模様だとか聞いてもないことまで書かれている。

ともかく、ここ最近連絡を取れていなかったが、二人は相変わらず充実した旅行生活のようで何よりだ。


『追伸。愛弟子も愛する人と巡り会えたみたいで、師匠はすっごく安心しました』


まったくどこで耳にしたのか。

すっかりリラとアインハードのことは見透かされているようだった。

そして、リラの本心も。


ふと、なんとなく鏡に向かって呪いの刻印を確認してみる。


「いつの間にか、もうすっかり綺麗になってますね・・・・・・」


太腿にあった呪いの刻印は、初めからそんなものなかったかのように跡も残さず消え失せていた。

これのせいで一悶着あり、忌々しいと思うこともあったが、消える時はあっさり消えるなんて。

次代の白魔女もこれに奔走する羽目になるのかと思うと、なんだか苦笑してしまった。


それから、はっと気づいてリラの顔が固まる。


(次代の白魔女って、それは・・・・・・)


リラとアインハードの子、ということになりはしないか。

師匠とアンゼルムのように人間の娘を弟子として迎え入れるのならまだ許容範囲だが、それでも擬似的な親子のようになってしまう。

というより、そもそも魔女になりたがる人間なんてあまりに少ないので、弟子を探すだけでも一苦労だろう。

そうなると選択肢としては・・・・・・。


(私は何を考えているんです・・・・・・!?)


呪いが消え去った途端、さぁ次は跡継ぎ問題をなんてとんでもない。

考えるにしても行き過ぎだ、まだそんな時期ではない。


(あれ、でも私・・・・・・契約結婚なのに、なんでそんなこと考えるんです)


リラとアインハードは、契約結婚だ。

リラの方から薬代の代わりにと持ちかけた契約で、お互いの利益のためのものだ。

アインハードの方はリラのことを愛していると言ってくれたが、それに対してリラは自分に応えられることは何も無いと返してしまった。

今思い返せばなんて余計なことをしてくれたんだと自分で自分が恨めしい。

あの時素直に受け止めていればよかったのに、なんて後悔する。


ようやくリラは、恋心について理解したのだ。


これが恋心というものだというのは、なんとなく身をもって分かった。

アインハードが隣にいると幸せで、彼の色んな表情をもっと見たいと思って、名前を呼んでもらえると嬉しくて。

甘い砂糖菓子のようでありながら、少し刺激が強い。

そんな感情を今では知ってしまったのだ。


(騎士様のことが好きだって、ちゃんと伝えたい)


きっと彼は、リラが何も言わずともこれからも変わらず愛し続けてくれるのだろう。

だったら尚のこと、リラは彼に想いを伝えなければならない。


「こういうのが『好き』だって、師匠は全然教えてくれなかったじゃないですか・・・・・・」


今度返事を送る時には、精一杯文句を連ねてやる。

師匠夫婦のおかげで恋愛に関する認識が世間からズレてしまっていたという文句を。

それから、魔術師団との事件も伝えなければならないし、ビアンカという大切な友達ができたということも。

書きたいことはまだまだたくさんある。


でも、それだけじゃなくて、アインハードのこともちゃんと紹介したい。

この人が、私の最愛の騎士様ですよ、と。


二人がどんな反応をするか楽しみだ。

特に、アンゼルム。

彼はリラのことをずっと子供扱いしていたから、あの小さかったリラが結婚したという事実をしっかり受け止めてもらわねば。


「騎士様、早く帰ってこないかな」


なんて呟いていると、リラの気持ちに応えるかのように玄関の扉が開く音が聞こえてきた。

あわててキッチンを飛び出して向かうと、ちょうどアインハードが帰ってきたところだった。


「リラさん!ただいま」


外は寒かったので、アインハードの頬が赤くなっていた。


「おかえりなさい、騎士様」


「なんだかいい匂いがするな。今日は何を作ったんだ?」


「師匠直伝のスープですよ。毎年、冬の寒い日にはこれを飲むんです」


「そうか、それは良いな!」


アインハードは黒い外套を脱いで、二人でリビングに移動する。


「リラさんは、今日は何をしていたんだ?」


「今日はですね、午前中にお客様がいらっしゃって薬を買っていただいたのと、新しい薬の制作、それから薬草の管理と、そうそう!師匠からお手紙が来たのですよ。相変わらず楽しくやっているみたいでよかったです」


前半はほとんどいつもと変わりないことをしていたのに、アインハードは楽しそうに頷いて聞いてくれた。

一つ一つ、些細なことでも反応してくれて、そんな彼の様子を見ているリラも楽しくなってくる。

アインハードが今日何をしていたのかも聞きたいし、まだまだ話したいことはある。


「騎士様」


「どうした?」


リラはアインハードの襟元をひっぱり、そっと頬に軽く唇で触れた。

アインハードは自分が何をされたのか分からないというように、一瞬ぽかんとしてしまった。


「好きですよ」


そう言えば、彼は、かぁっと頬を染め上げて驚いた表情になった。

前にも似たようなことは彼にしたが、その時とは少し違って、なんだかこちらも恥ずかしい。

ようやく本心が伝えられたと安堵する一方で、恥ずかしがるアインハードがかわいいとにまにました笑顔になってしまう。


「まったく、リラさんは本当に・・・・・・」


アインハードは困ったように恥じらっていたが、何か思いついたかのように、おもむろにリラへ顔を近づけてきた。

腰に手を回されて、逃げることができなくなる。


「───────俺は、大好きだぞ」


その言葉と共に、リラの唇にアインハードの唇が触れる。

二人の吐息が混じりあって、少ししたらそのぬくもりが離れていく。


キス、された。


リラは数秒後にようやくそれを理解した。

驚きとともに、不思議に幸せな気持ちが広がっていく。

やっぱり私は、この人のことが好きなんだ。

そう実感した。


溶けた月の金色が、リラを射抜く。

その熱に感化されたように、リラも彼に腕を回し、アインハードからの再びの口づけを受け入れた。


ひとときの甘い時間を、遮るものはなにも無い───────。



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