終話 白魔女と黒騎士の結婚
長い冬が開けて、春が来た。
そして、リラがオリアーヌたちに課された約束の期限も。
『次のワルプルギスの夜までに結婚相手を見つけられなければ、煌国の大龍と結婚する』。
最初の頃はどうしても大龍であるシェンユゥの元へ嫁入りするのが嫌で、どうにかして旦那を捕まえようと必死になっていたのが懐かしい。
この約束がなければ、アインハードとの出会いもなかっただろう。
そう考えると、このめちゃくちゃな約束は、リラたちの出会いの立役者とも言えるかもしれない。
そして、今回のワルプルギスの夜は、定例の場所に集う代わりに、酒の魔女ノーディカの酒場で祝宴を開くことになった。
何を祝うかというと、それはもちろん、リラとアインハードの結婚だ。
日の暮れた頃、あかりの灯る酒場は賑わっていた。
今日ばかりはいつもは酒場に集まる人々とは違う、着飾った女性たちが集っている。
美しいドレスで着飾った魔女や、まだ幼い少女まで、様々な魔女たちがここには来ていた。
酒の魔女ノーディカが振る舞う極上の酒を味わい、世間話に花を咲かせている。
その中で、アインハードは妙な居心地の悪さを感じていた。
なにせ、魔女しかいない魔境もとい女の園に放り込まれているのである。
リラの要望で、いつもの黒い騎士団服に身を包んだ彼は、壁際でリラの支度が終わるのを待っていたのだが、魔女たちは興味津々で彼のことを放っておかない。
「騎士さん、お歳はいくつなの?」
先程も同じ質問を他の魔女にされたばかりだと、アインハードもしぶしぶ答える。
「二十二歳だが・・・・・・」
途端、周囲で悲鳴が上がる。
「聞いた!?二十二だって、若いよ!赤ちゃんじゃないの!」
「きゃあっ、若い男子なんていいわねぇ!その上こんなに綺麗な顔なんだから絵になるわよぉ」
こんな調子で、赤子扱いやら美術品扱いやらを受けている。
それ以外にもリラとの馴れ初めだとか、騎士団に他にいい男はいないのだとか、もう質問攻めでアインハードはすっかり疲弊してしまっていた。
そろそろ奥に引っ込んでしまいたいと疲れ果てたその時だった。
「お待たせしました、騎士様」
コツコツ、と彼女にしては珍しいヒールの音を響かせながらリラが現れた。
途端に周囲の視線がリラに集まる。
リラの白と紫の髪に良く似合う、純白のドレス。
首元のネックレスには、金色の宝石・・・・・・アインハードの瞳と同じ色のものだ。
「・・・・・・綺麗だ」
アインハードは疲れも忘れてリラに見蕩れている。
リラは普段から可愛らしいが、こうして美しく着飾るとまるで一国の姫君のように見える。
アインハードの率直な感想に、リラも微笑み返した。
「ありがとうございます。オリアーヌがお化粧してくれたんですよ」
リラの後ろでは、オリアーヌがどうだとでも言わんばかりの満足気な顔をしていた。
「私たちの可愛い末っ子のめでたい日なんだからね、頑張らないわけにはいかないでしょう」
その言葉に周囲の魔女たちも頷き、賞賛している。
「さあさ、あんたたち。そんな所にいないで、もっとど真ん中にいてちょうだいよ!」
酒を配っていたノーディカから、そう促された。
「ほら騎士様」
「あ、ああ・・・・・・」
すっかりリラの虜になってしまっているアインハードを、リラはぐいぐい引っ張って店の中央まで連れていく。
「にしてもあんたたち、前に会った時よりもずいぶん仲良くなったねぇ」
「ふふっ、色々ありましたから」
リラがそうクスリと笑うと。
「色々・・・・・・?」
オリアーヌから刺すような鋭い視線が飛んできた。
恐ろしく低い声でそう言われて、アインハードは引きつった笑顔を浮かべることしか出来ない。
実は魔術師団と揉め事がありまして、なんて口が裂けても言える雰囲気ではなかった。
一部の魔女たちからは、最年少のリラを可愛がるあまり、本当にリラに相応しい相手であるか品定めするような目で見られていて緊張感でどうにかなりそうだった。
「まっ、二人の馴れ初めと新婚生活については根掘り葉掘り後で聞かせてもらおうかな」
ノーディカまで恐ろしいことを言い始める。
これは相当問い詰められるとアインハードが覚悟したその時。
「まあお前たち。お喋りはそのぐらいにて、そろそろ二人を離してやれ」
魔女たちの間をかき分けてそう言ったのは、小さな幼女の姿をした大魔女ペルスネージュだ。
なにやら大きな花束を抱えていて、その小さな体には運ぶのが大変ではないかと思うが、彼女は小さい見た目をしていてもその中身は何百年も生きている魔女だ。
心配するだけこちらが恥をかくような存在だと言える。
「ペルスネージュ!来てくれたんですね」
「当たり前じゃ。ようやく旦那の顔を拝めるんだ、来ないわけがないだろうに。それと、リラにはこれを」
ペルスネージュは持っていた花束をリラに渡す。
「まあっ、この花は煌国の・・・・・・!」
その途端、リラが感激の声を上げていた。
美しい白の花々が、リラの姿によく似合っている。
この花は煌国にしか咲かない花で、貴重な薬の材料にもなるものだ。
現在は手に入りにくいのだが、こんなに大きな花束にして持ってきてくれたということは、思い当たる差出人は一人しかいないだろう。
「ああ。奴からの・・・・・・シェンユゥからの贈り物じゃ。大切に飾ってくれと言っていたぞ」
「嬉しいです!煮込んで溶かして薬にしますね!」
シェンユゥの言葉をまるで聞いていないようだった。
綺麗な白い花々は愛でられることなく薬に生まれ変わってしまうことになるなんて、シェンユゥも思わないだろう。
東方の大龍からの贈り物を溶かしてしまおうとするところも、治癒の魔女であるリラらしいといえば、らしい反応だった。
「ではそろそろ、祝宴を始めて貰うとするかの」
ペルスネージュはそう言いながら、リラたちから離れていく。
店の中央に立つ二人を見守るように、魔女たちは周りを囲んでいる。
祝宴を始める合図は、誓いの言葉からだ。
アインハードはリラの前に恭しくひざまづく。
「我が愛しの魔女に、この愛を誓おう」
リラの手を取り、その白い柔肌に口づけを。
「ふつつか者ですが、これからもよろしくお願いしますね。私の騎士様」
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かつて誰かが噂した。
華やかな帝都の外れにある、『リーンズワール』という名を持つ小さな森の入り口。
そこに、治癒の白魔女が住んでいるという。
恋をしないと死んでしまう呪いを背負っていた白魔女は、黒騎士に出会い、契約を交わし、愛を誓った。
曰くその魔女は、薬の代金としてとんでもないものを請求するのだとか。
曰くその魔女が、代金として手に入れたものはかけがえのないものものだったとか。
呪いは消え失せ、白魔女と黒騎士は今日もこの森の前で、幸せに暮らしているのだとか。




