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第十九話 白魔女とお友達

あれからまた時間が経って、相変わらず愛を囁いてくる騎士と共にまた穏やかな生活を続けている。


いつの間にか冬はもうすぐそこで、すっかり寒くなってしまった。

もうそろそろ雪が降りはじめるだろう。

この頃は暖かいスープと暖炉と毛布が何よりも重要なものになる。

師匠直伝のスープのレシピ集を引っ張り出す時が来たかと思いつつ、手を動かす。


「ビアンカは飲み込みが早いですね。手先も器用ですし、縫い物は元から得意だったんです?」


「それが、私よりもお母さんの方が上手で、私は中々上達しなかったんです。私が器用だなんて、これもリラさんのおかげですね」


そう言って、裁縫道具片手に朗らかに微笑むビアンカ。

彼女は町に住む少女で、以前酒の魔女ノーディカが通りすがりに助けた相手だ。

あれから時々町で顔を合わせる度に会話をするようになり、次第には友人とも呼べるような仲になった。

同世代の魔女の友達はいても、人間の友達は初めてなのでビアンカと仲良くなれて内心ではとても嬉しく感じている。

今度ノーディカがこちらへ来る時には是非とも会ってもらいたい。


それはそれとして、今日は縫い物を教えて欲しいとの事で、リラの家に集まって一生懸命縫っているのだ。

リラがよく作っているキルトの小物に感銘を受けたらしく、もっと上達して綺麗なものを完成させたいのだと。

ビアンカはリラが見る限り手先が器用な方で、裁縫は非常に向いているとも言える。

唯一欠点があるとすれば、完成を急ぐあまりに詰めが甘くなってしまうところぐらいだろうか。

それさえ直せばきっと良い物が出来上がるはずだ。


「それにしても、リラさんのお家って本当に素敵です!庭にも綺麗な花が咲いていましたし、どこもかしこもかわいくて・・・・・・!」


キラキラと目を輝かせてビアンカはそう言ってくれる。


「ありがとうございます。良ければお花をいくつか持っていきますか?もちろん、薬にはならない安全なものだけですが」


子供の頃から住み続けてきて、先代がいない今でも同じ姿を保つために努力しているリラとしては、嬉しくてちょっと照れてしまう。

初めて家に通した時も、薬品棚や本棚を興味津々に覗き込んでいたし、庭の薬草を見るだけでも一つ一つ名前を聞いたり、果ては手づくりのキルトのクッションにまで感動したりしていた。


「いいんですか!うれしいなぁ、家に帰ったらお父さんとお母さんに見せてあげなきゃ」


わあいと喜んでいる。

彼女の家に飾るのに相応しい、可愛らしい花を選んであげなくては。


「そういえば、ビアンカは恋をしたことがありますか?」


「・・・・・・えっ、急にどうしたんです?」


全く関係の無い方向の話題が飛んできて、ビアンカは思わず手を止めて、まじまじとこちらを見る。


「まだビアンカには聞いたことがないと思いまして。この年頃の乙女なら、そういう話は詳しいのではありませんか?」


アインハードの本心を聞いてから、少しでも恋愛について理解しようと頑張ってみたのだが中々上手くいっていないのだ。

だが、リラと同じ年頃かつ普通の少女であるビアンカに聞いてみれば、魔女たちに聞くよりも遥かに参考になるだろう。


「うーんそうですね・・・・・・こういうことはあまり人に話したことは無いので少し恥ずかしいですけれど、やっぱり素敵な恋には憧れますね。私はまだ、はっきりとした恋をしたことがなくて」


ビアンカは少し照れつつも話してくれる。


「私、恋愛小説が好きなんですよ。だからそういう小説みたいな運命的な恋をしてみたいなんて思ってるんです。こう、一生に一度の出会いのような、そういうロマンスの溢れる恋を」


うっとりとした表情はまさしく恋に恋する乙女のよう。

ビアンカの話にあるように。自分の師匠とその夫アンゼルムの出会いはまさしく、一生に一度の運命的な出会いというものなのだろう。

以前アインハードとの会話でも学んだように、身内の視点で見れば暑苦しい永遠の新婚夫婦に思えても、他者の視点から見れば小説のような恋なのかもしれない。


「恋愛小説、ですか・・・・・・。言われてみると、その手の本はまだあまり読んだことがありませんでしたね」


この家に本は山ほどあるが、そういったものは大抵師匠の持ち物だ。

リラも昔は興味を引かれて少し読んでみたことがあるが、世話焼きで生真面目な魔女のオリアーヌから、そんな不純なものはあと百年早いと怒られて以来読んでいなかった。

百年後には精神的には老婆であろうに、オリアーヌも頭が固いと昔は思っていたが、ペルスネージュのような数百年生きてもなお若々しい魔女もいるのであながち間違いではなかったのかもしれない。


「おすすめの小説ならたくさんありますよ!あ、でもリラさんでしたら騎士が題材の作品の方がいいかもしれませんね!」


「騎士、ですか?」


「だってリラさんの旦那さんは黒騎士ですから!リラさんってば、魔女と騎士の恋物語だなんて本当に小説みたいで憧れちゃいますよ!」


ビアンカはあれこれと語り出す。

あの小説のヒーローがアインハードによく似たかっこいい騎士で、この小説には姫君の専属護衛の騎士が素敵で。

語り出すと止まらないといった様子だ。

楽しそうなビアンカを見ているとこちらも幸せな気分になる。


「なるほど、色々あるのですね。参考になります。今度、いくつか勉強のために読んでみます」


「どれを読むか迷ったらいつでも聞いてくださいね!・・・・・・あ、でもリラさんは結婚されていますし、今更恋愛のお勉強なんてしなくてもいいんじゃないですか?」


たしかにそれを言われるとその通りだとしか返せない。

契約だとしても既婚者であるはずのリラが、恋心を学びただなんておかしな話だろう。

これまでは女子同士の恋愛話だと思って聞いてくれていたビアンカだったが、ようやく気づいてしまったらしい。


「それは、その・・・・・・なんというか、普通の人の恋愛観を知ってみたくて」


たぶん、目線がすごく泳いでいる。

誤魔化し方が下手だという自覚がありつつもそう言えば、我々夫婦に少し言いづらい事情があることを察してくれたビアンカは、それ以上言及せず話を続けてくれた。


「それもいいですね!結婚していたって恋のお話はするものですから!」


結婚といっても契約なので、本当は恋も何もしていないのだが。


「普通の恋愛観といっても、人それぞれですからね。今度、他のみんなともお喋りしませんか?私、リラさんのことをみんなにも紹介したいんです」


「私を紹介、したいんですか・・・・・・?」


「はい!リラさんはとっても素敵な魔女さんですから、みんなにもリラさんのことを知って欲しいんですよ。それに、みんな恋の話は大好きですからね」


魔女だと名乗ると距離を置かれてしまうことがほとんどだったが、ビアンカはそんな事気にしないで接してくれる。

この機会に友達が増えるなら嬉しい限りだが、ビアンカがそう思ってくれているということだけでもとても嬉しかった。


「みんな素敵な人と恋愛したいって思ってるんですよ。リラさんの旦那さんが黒騎士さんだなんて知ったら、きっとすごく驚くと思います」


ビアンカはふふっと楽しそうに笑う。

確かに、ビアンカにアインハードのことを言った時もかなり驚かれたことは記憶に新しい。


「それに、黒騎士さんが旦那さんっていうことは騎士団員の方々ともお知り合いなんですよね。今まで、この人ってかっこいいなぁとかドキドキするなぁって人、いましたか?」


「うーん、かっこいい人ですか・・・・・・」


ビアンカは小説の登場人物のような素敵な騎士たちを想像しているのだろうが、アインハード以外でリラに関わりのある男性は結構限られてくる。

まず最初に思い浮かぶのはリーヴェスだろう。

騎士団長を務めるエンデンガルト伯爵家の青年で、アインハードが仕えている主でもある。

中性的な美しい顔立ちで、常に優雅な笑みを浮かべているその姿は紅茶や書物が似合いそうだが、実際に彼が携えているのは剣だ。

もちろんお茶会も嗜むようだが、騎士団長として凛とした佇まいをしている彼はとても魅力的に見えるだろう。


が、だからと言ってリーヴェスに恋心を抱くことは天地がひっくりかえってもないことだ。

ビアンカたちはときめいたりするだろうが、リラにとって彼は信頼出来る大人であるので、尚更恋愛対象にはならない。

それに、彼はアインハードの主で仕える相手であるのだから恋心を抱くなどもってのほかだろう。

ならばビアンカに紹介できそうな他の騎士団員はいないかと思ったが、それほど関わりもないので分からない。

ビアンカたち普通の少女が好むような人の基準を考えて頭を捻ってみるが、やはり、リラにとってかっこいいと思える男性はアインハードしか思い浮かばないのであった。



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