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陰り逝く日々  作者: 和之
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個展の帰り5

 佐恵子のためにおこなった苛酷な体験談を、狭山はしみじみと聴いてくれた。

「佐恵子さんがどうしても親に認められてから入籍したいと言い張ったのか」

「まあ、そうだが。でも彼女が無理押しする人じゃないことは狭山も知ってるじゃないか」

「まあなあ。基本的には愛が有れば何も要らないと云う人だけど。しかし完全に冷めて仕舞えば話は別だが、まだそうじゃあないんだなぁ」

「あくまでも彼女の希望だったが、押し切らないところがかえっていじらしくて、そうしてやりたいと思ったから三ヶ月ほど船に乗った」

 いっぱしの男に成り切り、生まれる子供の為にも。

「それでいっぱしの船乗りに成り切ったのか」

「此の航海でなんとか個展を開けそうな、まとまった金も工面出来て、後は一押しの作品作りに旅に出た」

 男としての見栄えも良くなり、これで作品が脚光を浴びれば言う事はなかった。が正幸が色々とちょっかい出して、個展どころじゃなくなったんだ。あいつにすれば俺達の説得のつもりだったが、結果は向こうの親にすれば自分の売り込みになって仕舞った。

「彼女の為にしたお前の苦労が、その篠原の為に空回りになってしまったのか」

 北村は返事に困って馬鹿笑いをした。その笑いに狭山は怒りのけ口をのがした男の無念さを感じた。

「休学までして乗り切ったのに結果は、正幸は一流商社に内定が決まり俺は留年が決まる。これって何処か間違ってると思わないか」

 胸のつかえを押し潰して自分自身に言い聞かる北村が解り過ぎて、狭山はどうしょうもない男だと苦笑いした。

「親としては間違いじゃないが、決めるのは佐恵子さんだが。それで彼女は心機一転して住む場所も変えて仕事も見つけて、新たな一歩をスタートさせたが半年も持たなかった理由はなんなのだ」

「そこで正幸がこれでお互いの進路が順調に進みだし俺は商社マンとして第一線に出ればもうお前との登山は一生無理かもしれんと最後の記念登山に誘われて穂高に行った」

「友人としての最後の想い出か。最後は山男同士の清い友情で全てを水に流して人生の再出発に当たって山登りを企画したんだなあ、佐恵子さんにすればさっぱりした男に見えただろうなあ」

 俺もさっぱりしていたが彼奴は違った。


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