第十八話 アルヴェイン孤児院
大通りの賑わいを抜け、少し歩いた先。
人通りが落ち着き、静かな空気が広がる一角に、その建物はあった。
「ここだ」
ガルドが足を止める。
「アルヴェイン孤児院。うちの商会で面倒見てるところだ」
大きすぎず、小さすぎず。
質素だが手入れは行き届いている。
中からは子供たちの声が聞こえてきた。
「ガルドさんだ!」
扉を開けた瞬間、何人かの子供たちが駆け寄ってくる。
「おう、元気そうだな」
ガルドが軽く手を上げると、子供たちは嬉しそうに笑った。
「今日はお土産ある?」
「あるぞ、後でな」
そんなやり取りの横で、コウは中の様子を見渡す。
簡素だが清潔で、生活に困っている様子はない。
子供たちの表情も明るい。
「ここ、十五になったら出るのよ」
セリナが小声で言う。
「準備ができた子からね。冒険者になる子も多いわ」
「そうなんですね」
ロイドが頷く。
「親が冒険者だった子も少なくありませんから」
その時——
「なあ、あんたら冒険者だろ?」
声が飛んできた。
振り向くと、一人の少年がこちらを見ていた。
「俺、もうすぐここ出るんだ」
胸を張る。
「名前はディン。スキルは加速と、衝撃強化」
言い切る口調。
「パーティ、空いてるなら入れてくれよ」
まっすぐな視線。
コウは一歩だけ視線を向ける。
《スキル鑑定》。
——加速 Lv1。
——衝撃強化 Lv1。
(悪くないな)
瞬発力と火力。
前に出るタイプだ。
(有望ではある)
だが——
「悪い」
コウは短く答えた。
「いまはパーティ募集してないんだ」
一拍置く。
「でも、将来有望だな」
ディンは一瞬だけ目を細めた。
すぐに口元を上げる。
「そっか」
肩をすくめる。
「まあいいや。どうせすぐ追いつくしな」
軽く笑って、他の子供たちの方へ戻っていった。
セリナが小さく息を吐く。
「元気ね」
「悪い奴ではなさそうだな」
ロイドが苦笑する。
コウは特に何も言わず、視線を外した。
その時だった。
少し離れた位置に立つ少女が目に入る。
騒ぎの中心にはいない。
だが、完全に離れているわけでもない。
周囲を見ながら、静かに立っている。
子供たちが走り回る中、ぶつかりそうになれば自然に半歩だけ引く。
視線が先に動き、体がそれに続く。
(動きがいいな)
ガルドがその少女に声をかける。
「サラ」
名前を呼ぶ。
少女がこちらを見る。
「……なに?」
短い返事。
「こいつらは今回の護衛を頼んだ冒険者だ」
ガルドがコウたちを示す。
サラは軽く視線を向ける。
じっと見て、すぐに外した。
「……へえ」
それだけ言う。
「サラも、もうすぐここを出る予定でな」
ガルドが続ける。
「ちょうど十五になったところだ」
「……うん」
小さく頷く。
「どうするかは決めてるのか?」
ロイドが聞く。
少しだけ間があった。
「……冒険者になる」
迷いがないわけではない声。
「別に、なりたいわけじゃないけど」
視線が少しだけ揺れる。
「……他に、やりたいこともないし」
そこで一度言葉を切る。
「でも、このまま何も知らないのは嫌だから」
それだけ言って、口を閉じた。
コウはその様子を見て、短く息を吐く。
「スキルは?」
「……気配感知」
《スキル鑑定》。
——気配感知 Lv1。
(さっきの動きはそれか)
納得する。
「いいスキルだな」
サラがわずかにこちらを見る。
「……そう?」
「斥候としても使えるし、扱いに慣れれば幅も広がる」
少しだけ間を置く。
「いい冒険者になれると思う」
サラは一瞬だけ黙った。
「……別に」
そっけない返事。
だが、否定はしなかった。
やがて、帰る時間になる。
ガルドが軽く手を上げる。
「じゃあな」
子供たちが一斉に手を振る。
「また来てねー!」
「おう、またな」
そのまま外に出る。
少し歩いたところで、ガルドが口を開いた。
「さっきのサラだが」
振り返る。
「もし外で見かけることがあったら——」
一拍置く。
「無理にとは言わんが、先輩として気にかけてやってくれると助かる」
「わかりました」
ロイドが頷く。
セリナも軽く手を上げた。
「覚えてたらね」
コウは特に何も言わず、歩みを進める。
アルディアの街並みが、再び視界に広がった。
新しい場所。
新しい生活。
それだけで、今は十分だった。




