第十五話 夜襲
外へ飛び出した瞬間、空気が一変していた。
悲鳴。怒号。
金属がぶつかり合う音。
盗賊たちがキャラバンを囲み、すでに戦闘は始まっている。
「コウ!」
ロイドの声が飛ぶ。
「右を頼む!」
「はい!」
コウは即座に駆け出す。
走りながら、《魔力探知》を発動した。
(……反応)
だが——違和感。
反応は数ヶ所しかない。
視線で追う。
魔法スキルを発動している者。
あとは魔石武器を持つものだろうか。
それ以外は——何も感知できていない。
(……そうか)
人は魔力を持たない。
《魔力探知》の意外な弱点を理解した。
(いままで人を対象として意識したことはなかったから気づかなかった...)
《魔力探知》は諦め、近くにいた盗賊三人に意識を向けた。
《スキル鑑定》。
——Lv1が二人。
——Lv2が一人。
(数は少し多いが、この程度のLvなら……なんとかなりそうだ)
全員を見ようとすれば時間がかかる。
戦況を把握する。
敵は八人だろう。
(リーダーを落とせば——)
視線を巡らせる。
「おい!囲め!」
指示を飛ばす男。
(あいつだな。《スキル鑑定》...)
《回復魔法》Lv3:回復魔法を使用できる。
(……Lv3ヒーラーだったのか、これはやっかいだな。あいつがいる限り、削っても意味がない)
ロイドとセリナの位置を確認する。
(二人にも伝えたいが...そうすると《スキル鑑定》のことも話さなければいけない)
このタイミングで余計な混乱を招く可能性もある。
コウは視線を戻す。
(リーダーの動きには注視だけしておこう)
そう考えていた時、少し遠くからロイドの声が聞こえた。
「すまない!少し時間がかかりそうだ!」
視線を向けると一人の敵と対峙していた。
押しているように見える。
だが——当たらない。
相手にも余裕があるように見えた。
(回避系のスキル...?一応観点してみるか。《スキル鑑定》)
《身体強化》Lv4
《剣術》Lv4
《気配遮断》Lv4
(Lv4で戦闘系スキルが3つ!?なんでこんなやつがこんなところに……)
その瞬間。
目が合った。
こちらを——見ている。
ロイドよりも明らかに格上である。
セリナも含めて3人で戦っても勝てるかどうか、、。
(これはさすがにみんなに伝えないとやばいな...)
そう思って改めて状況を確認する。
だが、ロイドは崩れていなく、相手も特に攻める様子がない。
(様子見している...?なぜかはわからないが、そうであればこちらとしては都合が良い)
コウは判断する。
(ここは任せて、他を先に倒そう)
◇
戦場を駆ける。
セリナが軽やかに敵を捌いている。
「ここ!」
セリナが《瞬歩》を使って一人を倒した。
その瞬間。
別の敵が弓を構えているのが見えた。
狙いは——セリナか。
(危ない——!)
コウはすかさず雷撃を放つ。
敵に直撃し、崩れ落ちた。
その瞬間——
頭に文字が浮かんだ。
――――
《弓術》を奪いますか?
――――
(……っ)
時間が止まった。
(あまり考えないようにしていたが、このスキル奪取はやはり人からも……)
これまで奪ってきたのは、魔物だけだった。
今回、相手は襲ってきた盗賊とはいえ、人である。
人を殺したことへの罪悪感はないし、そんなことを考える余裕だってない。
だが、ここで人からスキルを奪うことも良しとしてしまえば、今後スキル目的で人を殺す選択肢が出てきてしまうということだ。
胸の奥がざわつく。
力を得ること。
それと同時に、人としての何かを越えてしまう気がする。
(……)
「狙われてたのね、ありがとう」
セリナの言葉で現実に引き戻された。
(今は——)
コウは次の敵に目を向ける。
(考えてる暇はない)
頭の中の表示を、意識的に流し、次の敵に目を向けた。
(やはり、核となるリーダーを倒さないとだめか...)
リーダーの周りには壁のように3人の部下がいた。
セリナが《瞬歩》で一人を斬りつける。
深く入った。
確実に戦闘不能——そう思える一撃。
だが次の瞬間。
傷口が、塞がった。
(……!?)
一瞬、見間違いかと思う。
血が止まり、肉が繋がり、倒れかけた男がそのまま踏みとどまる。
リーダーの方へ視線を向ける。
手が、わずかに光っていた。
《スキル鑑定》で確認していた《回復魔法》だ。
だが、セリナは気付いていない。
すでに隣の敵に意識が向いていた。
このままでは——
(削っても意味がない)
コウは踏み込む。
「セリナさん!」
短く叫ぶ。
「敵のリーダー、ヒーラーです!」
セリナの動きが一瞬止まったがすぐに理解したようだ。
「……なるほどね。盗賊のくせにやっかいなスキル持ってるけど...」
セリナが目を細め、視線をリーダーへ向ける。
「そうとわかれば、最優先はあいつね」
二人は同時に動いた。
だが——
リーダーの前には回復したものを含めて三人。
壁のように立ちはだかっている。
「通さねぇよ!」
斬りかかる。受ける。反撃。
一人、斬り伏せる。
そのまま止めを刺そうとすると他の敵が邪魔してくる。
そして——
敵の回復魔法の光。
倒れた敵が、立ち上がる。
(……面倒だ)
致命傷を与えなければ意味がない。
だが、その隙を作らせない動き。
(ヒールを前提とした動きだ。連携がうまい……!)
セリナが舌打ちする。
「時間かかるわね」
「このままだと押し切れずジリ貧かと...」
その時だった。
横から男が飛び込んでくる。
「おおらっ!」
ガルドだった。
一人の敵を叩き伏せ、そのまま乱入する。
不意打ち。
敵の動きが一瞬止まる。
(今だ——!)
セリナが消える。
《瞬歩》。
一気に距離を詰めた。
リーダーの懐へ。
だが——
リーダーも反応する。
致命傷を避ける動き。
しかし、この一連の流れに部下たちは完全に固まっていた。
(間に合ってない)
コウは手をかざす。
「雷撃!」
敵リーダーへ雷が走る。
セリナの攻撃の対処で精いっぱいだったリーダーは反応できず直撃した。
リーダーの身体が弾かれる。
そのまま崩れ落ちた。
その瞬間——
頭にまた、文字が浮かんだ。
――――
《回復魔法》を奪いますか?
――――
(……)
先ほどの《弓術》とは違う。
レアスキルとしての価値。
回復が気軽にできることの重要性。
(持っていれば——)
どこかで確実に役に立つ。
(人から奪うのは...)
一瞬の葛藤。
とはいえ、捨てるにはあまりにも惜しい。
(……いったん保管して、使用するかどうかはあとで考えよう。上書きして消すこともできる)
戦闘が終わったわけではない。
コウは迷いを押し込み、そのまま奪うことを選んだ。
だが、胸の奥のもやもやはまだ晴れなかった。




