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第5話『奇跡』


 出てきたのは聖女付きの侍女……ではなく、王族に仕える医者である侍医。白髪交じりの男性は、メガネをクイっと上げるとローガンに淡々と告げる。



『正確には“木の皮”です。聖女様の侍女の故郷に生えている固有種の木……この木の皮はあまりにも苦く、毒があるとまで言われていました。しかしその皮を乾燥させて煎じると、様々な病によく効く事が判明したのですよ。


現に、王妃殿下が長年患っていらした病にも劇的に効きました。治療方法が無いとまで言われた病に、です。


この木の皮の効能を発見出来たのは、故郷で流行り病と飢饉が起きた侍女が聖女様の言葉を受け、故郷へ伝えた結果によるもの。大勢の人間が飢えと病から救われたのです。』



 流行り病の対策チームの1人として侍女の故郷へ行っていた医者の中には、侍医の弟子もいた。聖女の言葉を信じて治療にあたっていた弟子から“木の皮”について伝えられた侍医は、急いでそれを取り寄せて研究。薬としてとんでもない効能を秘めている事に気付いたのだ。


 現在、その木の皮を取りすぎたりして枯らさないよう、保全、保護しながら新薬が作られている。



『それに殿下は先程、聖女様が“怪我人を露骨に差別し、治療を渋った”と仰いましたな。』


「……そうだ、差別せず皆平等に治療する。

それが聖女としての当たり前の心構えだろう。」


『馬車に轢かれ、今にも死にそうな平民の子を放置して、先にかすり傷の貴族令嬢を治すべきだった、と言う事ですか?』



 侍医の冷たい声がローガンへ突き刺さる。今から少し前、王都で貴族の馬車が絡む事故があった。突然蜂に刺されてパニックになった馬が暴れ、店に突っ込んでしまった。怪我人は多数出たが、奇跡的に死者は出ていない。その事故の報告を受けた際、ローガンは「聖女が治癒を拒んだ者がいた。」と聞いたのだ。



「は?そんな事は言っていないだろう!」


『かすり傷ならばすぐに治ります。

それに、本来治療は我々医者の仕事です。


ですが内臓が破裂し、全身の骨が砕けた……そんな状態の患者の治療は、現代の医学では不可能。

……聖女様の奇跡以外では。』



 つまり、ウィスティレはかすり傷を負った令嬢を治癒せず、大怪我を負って今にも死にそうな子どもを助けたのだ。それはそうだ、わざわざニキビやささくれ、かすり傷などを奇跡で治していてはキリがない。ウィスティレのそれは、聖女として当然の判断だ。


 ローガンの元に届いていた告発、それら全ては早とちりでしかなかったと証明されていく。ウィスティレに向かう貴族達の視線が熱くなるにつれ、王太子のローガンへ向けられる視線は更に冷えていった。大人しかった女が突然飾り立て、騒ぎ始めたのでその顔を潰してやろうとしただけなのに。どうしてこうなったのか。


 ウィスティレは変わらず、笑顔のままだ。ローガンを蔑むでもなく、罵倒するでもなく。まるで自分は部外者で、ローガンが主役の喜劇を観客として見ているような。なんと憎たらしい事か!絶対に引きずり降ろしてやらねば!!!!



「……だが、これはどう説明する!?

街を襲った邪竜を排除するどころか、下僕として操っている事を!!!!」



 聖女だろうが何だろうが、この女は自分より下でなければ気が済まない!!!!









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