第4話『令嬢』
前に進み出てきたのは、茶色の髪を結い上げた大人しそうな女性。深緑のドレスと、品のある黒い真珠のネックレスを身に付けた彼女は静かに、しかし確固たる意思を滲ませて王太子であるローガンに伺いを立てた。
「貴様は?」
『はい、私はグリューン伯爵家の娘、シルビア・グリューンと申します。』
「グリューン……?ウィスティレにムチで打たれたという令嬢ではないか!よし、発言を許す!」
『ありがとうございます、では……』
出てきたのはウィスティレが笑いながらムチで打ったとされる女性、シルビア・グリューンだった。ローガンは証人、しかも被害者の登場に歓喜する。これならばウィスティレも言い逃れが出来ないだろう!そう思い、シルビアに発言の許可を出した。
『宣言いたします。私、シルビア・グリューンは聖女ウィスティレ様に救われた事はあれど、ムチで打たれた事などございません……!』
「!?貴様、何を……」
『ムチで打たれたというのは、これがムチに見えたのでしょう。』
シルビアはそう言うと、ジャラリと音を立てて黒い真珠のネックレスを外し、掲げた。灯りを反射し、魅惑的に輝く大粒の黒真珠は明らかに高価な物だと分かる。
『私は、グリューン“前”伯爵の前妻の娘です。ですが伯爵家に婿入りした父は愛人を作り、母が亡くなってすぐに後妻と、私より年上の“義妹”を家に連れ込んだのです。
正式な跡取りであるはずの私は倉庫に押し込められ……食事には、義母が毒を混ぜる始末でした。使用人の一部が安全な食べ物を差し入れてくれなければ、とっくに死んでいたでしょう。』
突然明かされた由緒正しい伯爵家の闇。だが、貴族内では有名な話だ。正式な跡取り娘を軽んじ、娘が成人するまでの代理である事を忘れ、愚かにもお家乗っ取りを企んだ婿であるグリューン前伯爵。
現在、グリューン“代理”伯爵はその座を降ろされ、先代の伯爵、つまりシルビアの母方の祖父が引退を撤回し、孫娘シルビアが成人するまで、再び伯爵になる事となった。
『母方の祖父母との連絡も遮断され、死に怯えながら暮らす日々……私は使用人の1人に助けてもらい、何とかあの屋敷から逃げ出せました。そして屋敷から近い小神殿に駆け込んだ時、偶然小神殿にいらしていたウィスティレ様と出会ったのです。
神官の方に保護された私に、居合わせたウィスティレ様は笑顔でこのネックレスを下さいました。こんな見事な品を受け取れませんと申し上げましたら、私が恐れなく受け取れるように、「飽きた、いらないからあげる」と仰って……。』
ウィスティレはネックレスをシルビアへ放り投げた。その際、シルビアが受け取り損ねて顔に当たってしまったのだ。つまり、“細長い紐状の物がうねってシルビアの顔に当たった”のである。
なお、このネックレスは聖女の加護つき。あの手この手でシルビアの行動を妨害しようとする元家族達に、全てを跳ね返して様々な不幸をもたらした。その後、裁判までもつれ込んだグリューン家のお家騒動は、元家族達の一方的な没落で終わりを迎えたのだった。
「で、では侍女に木屑を飲ませたりした件は……」
『その件についての報告は自分が。』




