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私が先程よりも少しトーンが下がったことに気がついたのか、二人の雰囲気も少し真剣なものへと変わる。
「その、、こんな楽しいお茶会をいつまでも続けていたいのですが、お二人には聞きたいことがあり招待させてもらいました」
じっと二人がこちらを見つめている。
「私の婚約者ユーリと……ジュリッサ様のことについてです」
そう口にした瞬間、先程のピリピリした雰囲気が一気に穏やかになり、なんだその事か、と2人は顔を見合わせてほっとしている。
私が理解ができずに思わず何故なのかと聞いてしまった。
「はあ、本当に一瞬心臓が止まるかと思いました。実はこのお茶会の招待状は罠で、本当は私達を利用してお父様の悪事を暴こうとしていたのかと思ってしまいまして」
え? と予想外の返答に聞き返す。
「あ、いえ、別に私の父やアンネリアのお父様が悪事に手を染めているわけではないのですよ? 真っ当に働いています。でも私達の家って近年急激に伸び始めたじゃないですか。それで結構疑う人も多いんです」
アンネリア様が続ける。
「最終的には絶対何か怪しいものを使っているだろうと決めつけて私達を拘束して聞き出そうとする者までいる始末……。今回のフェリシア様からのお誘いもまさかそうなんじゃないかって一瞬構えたんです。杞憂で終わって本当に良かった……」
どうやらその拘束されたときのことがトラウマになっているらしく、確かにふたりとも顔色が悪くなっていた。
「なんだが、、怖い思いをさせてしまってすみません。決してそういうつもりではなかったのですが……」
わかっていますよーと笑顔で二人は答える。そんな事が、、あったんだ。世間のことは微塵も知らないためこういう時に本当に勉強しておかなければいけないと思う。
「で、何でしたっけ。リベルタード公爵子息様とジュリッサ様のことですね。…………ああ、」
シーラ様が少し考え込み、思い立ったように顔を上げる。
「そういえば、何やら噂を流しておりましたね。自分達の仲がどーたらこーたら。しょうもなさすぎて忘れていましたわ」
なんとまあはっきりと言うものだからびっくりする。
ジュリッサ様は社交界では老若男女問わずかなり人気の高い方だ。誰もが口を揃えてあの方は素晴らしいというと思っていたのに、予想外だった。
「私、詳しく知っていますわ。私の友人がジュリッサ様親衛隊の一員なんですけど、確か……ジュリッサ様がお可哀想とか言っていた気がしますね。婚約が出来ないとか、ずっと健気に頑張ってきたのに、とか」
「ああ、それなら私も耳にしたことがありますわ。なんでもジュリッサ様とリベルタード公爵子息様の仲を引き裂いた令嬢がいるらしいと。その令嬢は我が物顔でリベルタード公爵邸を歩き回り、もともと恋人のような存在だったジュリッサ様にきつく当たるのだとか。この令嬢って、もしかしなくてもフェリシア様ですよね?」
「ええ、おそらくそうだと思います。実は私、数ヶ月前に直接ジュリッサ様から言われたことがあって、それがユーリとの婚約発表を同時に同じような内容が世間に噂として広がっていると聞いて……」
この噂は実際にどうなっているのか、世間に疎い私は分からないため二人を呼んだと言うことも伝えると、二人は同時に考え出し、シーラ様が先に顔を上げた。
「でも、そもそもこれっておかしいですよね。だってリベルタード公爵子息様とフェリシア様の仲は引き裂けないほどお熱いのは一目瞭然。それに誰が見たってあれは確実にリベルタード公爵子息様の方がフェリシア様に惚れているように見えましたし……」
アンネリアの言葉に思わずかあっと顔が赤くなる。周りからはそう見えていたのだと思うと酷く恥ずかしいのと同時にどこかにくすぐったい気持ちになる。
「いえ、シーラ。ジュリッサ様親衛隊を舐めてはいけません。先ずそもそもに彼女、彼らにはジュリッサ様に対してほぼ前が見えていないと言っても過言ではない色眼鏡がかかっているのです。何をしても彼女が一番、彼女が言うことは全て正しい、と。時々本気でなにかに取り憑かれているのではと心配になりますわ」
「要するにフェリシア様はリベルタード公爵子息様とジュリッサ様との関係を知りたいんですよね?」
そう問われ、少し違うと首を横にふる。
「ユーリとジュリッサ様の仲を疑っているわけではありません。それに色々とありましてユーリは今、ジュリッサ様と確実に縁をきっているはずです」
「縁をきられたと分かっていながらあの噂を流せるジュリッサ様の度胸……」
ぽそりとシーラ様が何か呟いたが聞き取れず、アンネリア様に小さな声でこらっと怒られている。
「私自身まだ社交界でもろくな地位がありません。人脈だって恐ろしく狭いですし、頭のキレだってそれほど良くはありませんので……。けれど、ユーリと結婚するためにはこの噂をどうにかしてしないと、と考えて、、」
そうはいったものの具体的な作戦などなく、段々と自信をなくし語尾が小さくなる。でもそんな私に対して二人は真剣に聞いてくれているようだ。
「…………なるほど、分かりました!! では私達はその勘違いデマ情報をもみ消してリベルタード公爵子息様とフェリシア様のラブラブ話を広めればいいのですね?」
「シーラ、いちばん大事なところを忘れているわ。私達が最も優先して世に広めなければいけないことはフェリシア様の素晴らしさでしょう」
そうだった!! と2人で確認しあっている。
なんだか若干話がズレてきている気もしなくはないが、、
「あの、、他のはたぶん必要ないので噂を消すことを手伝って貰えれば、と思ってるのですが、、」
「フェリシア様! 噂は揉み消しても根本的な問題を解決しないとまた増えていくんですよ。なので、お任せ下さい!!」
そう満面の笑みで答えた二人を私はただ、無理はしないで、と送ることしか出来なかった。