第2話「旅立つ者達」
スベルニア王国の外に通じる門の前、舗装され道の横にある青々と草花が咲き誇る茂の一角で私と、お姫様が感動のパーティーを組んで、二人で茂みと一体化する事。
なんと、三日目。
「今さらなんですが……私なんかとパーティー組んでよかったのですか? 自慢じゃないですが、はっきり言うと、私は門の前を警備している兵士一人に負ける自信があります」
「私も負ける自信ありますよ」
本当に、今さらなのだが、大丈夫なんだろうか? こんな貧弱パーティーで……やはり駄目じゃないのか? こんなパーティーで魔王を討伐出来るのだろうか……かなり不安になって来た……。
「だったら尚更、私をパーティーに入れてよかったんですか?」
「勿論です。私は一人でも魔王を倒しに行くつもりだったのでラウルさんとパーティーを組んだ事に後悔はないですよ。それに一度組んだ人をパーティーから外すと失格になってしまいます!」
「じゃ、せめてあと一人りは強い人と組みたいですね」
「そうですね。でもそのまえにスベルニア王国の外にでないとですね」
魔王討伐ゲームにはいくつかのルールが存在する。私が知っているルールは。
魔王討伐ゲームの参加資格年齢は五十歳まで。
魔王を討伐した国の勇者が覇権を握る。
誰も魔王を討伐出来なかったら覇権は魔王が握る。
勇者パーティーは三人まで。
一度パーティーを組んだ者を外すとそのパーティーは全員死ぬ。
パーティー内のリーダーつまり勇者が死んだ場合はその勇者とパーティーを組んだ者も死ぬ。
開幕から魔王討伐まで自国への帰還は禁止。
ルールを侵した者は死ぬ。
私が知っているルールはこの位だ……魔王討伐ゲーム……三十年前に突如現れた『神の降臨』によって創り上げられたゲーム そのルールに縛られ人は争う事を止めた……いや、違うな。止めさせられたの方が正しいのかも知れない……。
「困りましたね? 三日も警備の兵士さん達の様子をお伺いしましたが隙はないですね……明日までにスベルニア王国を出ないと失格になってしまいますし……どうしましょう?」
お姫様を見る限り、全然困ってる様子には見えなのだが……。これは私を信頼しての態度なのか?確かに明日までにスベルニア王国の外に出ないとルールにある開幕から魔王討伐するまで自国に帰還が禁止と言う項目に引っ掛かる事になる……失格イコール死を意味する……追い詰められた状況にあるのは確かだが、けしてこの三日間を無駄に過ごした私でもない! 寝る間も泣きながら惜しみ、トイレも我慢し……大好きな茂みと一体化してようやく見付けた警備の隙 そう、隙はあった。深夜になると門の警備が一人になる……だが、この時点では私達に意味はない! 何故なら弱いからだ! 勝てる見込みがない戦いは避けるのが賢明な判断だ! だが、この兵士には深夜の三時を過ぎた頃に必ずと言ってもいい程にトイレに行く癖? があった……しかも大だ! まぁ、必ずと言っても三日連続なだけで四日目には行かないかも知れないが……そこは考えない事にしよう。最初は何かの罠だと思い警戒していたが、勇気を振り絞り尾行したので間違ってはいない! つまり深夜の三時を少し過ぎた頃から十五分の間は門の前の兵士はゼロ……しかしだ、問題があった……当然の事ながら門は閉まっていた、閉まっているだけならいい、開ければいいだけだからな。そう、問題は門に鍵が付いている事。念の為に、お姫様に鍵を持ってないか聞いたが あっさりと「ないです」と言われた……ピッキング? 都合よくそんなスキルは持っていれば苦労はしない……待てよ? 無いのなら借りればいいのか! この方法なら行けそうだな。時間もないし迷っている暇もないか。私は早速自分の脱出案をお姫様に伝えた。
そして、すっかりと夜もふけ、辺りは静寂と闇が支配していた、闇夜を掻き消す月明かりを頼りに私達は門の前の兵士が動くのを待っていた。動いたらそれが私の脱出作戦開始の合図になる。動かなければ……どうせ失格になるので捨て身で兵士に向かって行くと言う……作戦? になっている。そんな緊張感を漂わせている中で虫達の騒ぎ声だけが煩く響いている。緊張しながら兵士を眺める事 五分 遂に兵士が動きだし、脱出作戦は開始された。作戦は簡単だ、兵士はトイレに向かうだろうが、私があらかじめ仕掛けて置いた工事中の立て札を見て諦めるだろう、しかし大がしたい兵士は我慢出来なくて仕方なく野糞をするだろう! 最初は辺りを警戒するだろうが行為が始まってしまえばもうそれに集中する事になる。
フッハハハ。
そこに背後から私達が二人掛かりでそこら辺に落ちていた大きめな石……いや、鈍器で殴る。当然兵士は気絶する、そこで兵士から鍵を借りる。簡単にして完璧な作戦なのである。
「ラウルさんの予想通り、兵士さんが茂みにやって来ましたよ。これで殴るんですよ?」
お姫様は今にも飛び出して行きそうな様子で両手に大きめな石を握りながら、真剣な表情で小さな声で囁いていた。
「まだです、まだ早いです。あ、それと石を置いて下さい。落とされると気付かれる可能性があるので」
私は、今にも飛び出して行きそうな お姫様を牽制しながら小さな声で囁いた。当然の事ながら反対されそうだと思ったので、お姫様にトイレの事は説明していない。
兵士はキョロキョロと様子を見てから鎧を脱ぎ、うんこ座りの体制をとり スボンを脱ぎ見たくもないお尻をさらけ出し始めた。
「えっ!? ラぅ…………」
私は、すかさずに手をお姫様の口に宛てて塞いだ……お姫様の顔は少し赤くなり恥ずかしそうな表情をして暴れている。私はお姫様の耳元で「静かに、気付かれます」と囁き。しばらくして、お姫様が顔を縦に振るのを確認してから手を離した。
「こ……今度から一言 声を掛けて欲しいです……」
頬を赤めながら下を向きながら恥ずかしそうに話す お姫様が何時もより少し可愛いかった。
それは突然やってきた。
私とお姫様は即座に鼻を摘んだ! その動きは阿吽の呼吸と言っても恥ずかしくないほどに同調していたと思う。
「ラウルさん、毒ガス」で……」
そして、この言葉を最後に、お姫様はそのまま私にもたれ掛かり意識を失っていた……卵が腐った、硫黄の臭いに近いと言える……これは、誤算だった! 今にも私も倒れそうだ 鼻を摘んで尚この破壊力……何食ったらこんな臭い出せるんだ……怯んでは駄目だ お姫様が殺られた以上、私だけでも計画を遂行しなくては……それに此処に長く居るのは危険だ……。私は背後から、ゆっくりと……いや、小走りで兵士に近付き持っていた鈍器で殺意を込めて頭を殴った。あっさりと兵士はその場に倒れてくれた……兵士が気絶したのを確認した私は鈍器をその場捨てて即座に左手で鼻を摘まみながら右手で兵士の身体をまさぐり鍵を捜しだし、お姫様を抱えその場から逃げ出した……脱兎の如く。
……その勢いのまま、門の鍵を開けて私達はスベルニア王国の外にでる事に成功したのだ……誤算もあったが作戦は、ほぼ成功だろう。スベルニア王国の外に出られたのだから。
そう、私達の旅は此処から始まるのだから……