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秘密の物語  作者: 猫なの
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璃子と隼人2

「腹減ったから、マッグ寄っていっていいか?」

「そうだなあ、確かに腹減った」

隼人の言葉に蓮が賛成する。

「いいよ? 美月も大丈夫?」

璃子がそう聞くと、美月はキョトンとする。

「マッグって何ですか?」

「はあ!?」

れんは声を上げた。


しかし隼人と璃子は至って普通に答える。

「美月、マッグではハンバーガーとか、ナゲットとかが食べられるんだ」

「なるほど、お食事処ですね」

「私たちは一緒にナゲット食べよう?」

「美味しいのですか?」

「うん」

「楽しみです」


そんな3人の会話を、蓮は理解出来ないというように少し顔を引き攣らせて聞くのだった。



マッグに着くと、隼人と蓮はハンバーガーを食べて、璃子と美月はナゲットを食べた。

「お、美味しいのです! とっても味が濃いのですね!」

「うん、そうだねえ」


「達美にも食べさせてあげたいです」

美月は蓮に付け加える。

「あ、達美というのは私の弟なのです」

「へえ、弟がいるんだ。お持ち帰りしたらどうだ?」

「いいえ、母に見つかったら大変なことになりますから」

「なるほど」

その言葉に蓮は納得したように言った。

「厳しい家庭なんだな」

「ええ、まあ。今度またこっそり達美と来ます」



その後、隼人が家から電話があったようで席を立って、璃子もお手洗いに行った。

そうすると蓮はようやく聞けるといったように、好奇心に満ちた顔で美月に聞いた。


「――やっぱり、隼人と璃子ちゃんは付き合っているのか?」

「いいえ、付き合ってませんよ?」

「でも両想いなのか?」

「分かりません」

そう言うと、蓮は愚痴るように呟く。

「幼馴染みなのに……」

「それなら水野さんは隼人くんと仲が良いのでしょう? 

隼人くんが璃子ちゃんのことどう思っているか知っているのですか?」

美月もぜひとも蓮に聞きたかったことであった。


「うーん、話は聞いたことなかったけど、試合前、彼女か? と聞いた時の隼人の反応からして、おそらく好きだな」

蓮はどこか得意げに言う。

「なるほど、なるほどお」

美月はそれに少し興奮気味に納得するのだった。

蓮はそんな美月に慌てて言う。

「あ、あんまり俺の勘を鵜呑みにするなよ?」

「分かりました。では私も勘で言いますが、璃子ちゃんもおそらく隼人くんのことが好きだと思います」

「おお!」

「両想いですね!」

一瞬盛り上がったが、蓮はすぐに冷めた風に言った。

「…………まあ、いや、どっちも勘だけどな」

「でも、当たっていると思うのです!!」

美月はそれでも自信満々に言うので、再び蓮は慌てた。


「お、お前、やめろよ!?」

「?」

「お前なんかマジで危なっかしいよなあ! 二人に余計なこと言うんじゃないぞ?

俺が何とかしてやるから、安心しろ」

蓮はやれやれ、とどこか演技がかったように言った。

「な、なんで、水野さんは余計なことしてもいいんですか!」

「いや、俺のは余計なことではない。恋のキューピットというやつだ。

てか、水野さんとか変な呼び方するな。普通、水野くんとか、蓮くん、だろ」

「では水野くん」

「うんまあ、隼人のこと、下て呼んでるんだから、蓮でいいよ」

「分かりました、蓮くん」


「……なんか、お前と喋ると調子狂うなあ。お前絶対変だよなあ」

「へ? ど、どこがですか!? 私どこかおかしいですか?」

(私の完璧な変装に何か不備が……!?)

「ああ、絶対におかしい……」

「だから、どこがですかあ!?」

「いや、見た目じゃなくて、中身の話。まあ、見た目もちんちくりんだけど」

「ちんちくりんってまた言いましたね!?」


そんなことを言い合っていると、隼人と璃子が戻ってくる。

「――――何? またお前美月のことちんちくりんって言ったのか?」


「でも、それだけ完璧だってことだね?」

「まあ、確かにそれはそうですね、ウフフッ」

「何が!?」

璃子の言葉に美月は頷く。

しかしその会話はそれは蓮からすれば意味不明でしかないのだった。



◇◇◇



夏休みも後半に入った今日、美月は駄菓子屋に来ていた。


隼人と璃子、そして蓮も来ている。

蓮は隼人の家に遊びに来ていたらしい。

小学校は違ったが、家はそれほど離れていないらしい。


美月は蓮と駄菓子を食べながら、楽しそうに話している隼人と璃子を少しだけ離れた場所で見ていた。



――――結局その後、隼人と璃子は付き合った。



「良かったですねえ」

「そうだな。ま、俺のおかげかなあ?」

「そういえば、何とかしといてやる、と言っていましたね」

「隼人に璃子ちゃんが好きなら早く告れば? って言っただけだけどな」

「は!? そ、そんな直球で!?」

「ああ、うん」

「あり得ませんわ……。信じられません……。

よくそんなんで隼人くんは璃子ちゃんに告白する気になりましたね」

「何だよ? 男ってのはそんなもんなんだって。

でも、おそらくはその内告るつもりではいたんじゃないか?

俺がそれの後押しをしたんだろ」

「まあ、結局上手くいったのでいいですけれど!」



隼人と璃子がこっちにくると、美月は、駄菓子屋にあるテーブル席にクーラーボックスからケーキを取り出して置いた。

「お祝いです! アイスケーキを作ってきました!」

「おお!」

「やったあ」


「大きめに作ってきたので、蓮くんも食べられるでしょう」

「ああ、ありがとう。見た目は綺麗だな」

「見た目はってどういうことですか?」

「美月は滅茶苦茶料理上手いから大丈夫だよ! 時々うちの夕食も作ってくれるし」

「そうなのですよ?」

美月はそう言いながら、小さなナイフで切り分けた。


隼人と璃子はアイスケーキを口にすると、溶けるような顔をする。

「おいしーい!」

「美味しくて、冷たい! この暑さの中、ありがたいなあ」

「うんうん」


「無駄に女子力高いんだなあ」

蓮もそう言いながらも、口にするのだった。

そして2人と同じように頬を緩ませる。

「うまっ」

「フフンッ」


「そういえば美月、『花夢少女』の新刊買った?」

「ええ、もちろんですよ!」

「それじゃあ美月、『ハンターX』の新刊買ったか?」

「もちろん!!」

「貸してくれない?」

「はい、いいですよ! 隼人くんも」

「ありがとう!」

「サンキュー」


「滅茶苦茶オタクじゃん、そこは想像通りなんだなあ」

蓮がそう言うと、美月は首をかしげる。

「オタクっぽいでしょうか?」

「うん、かなり」

三つ編みにメガネというのはやはり少しオタクっぽいのである。

「なるほど」

「それは怒らないのか」

「まあ、実際オタクですしねえ。

むしろ、オタクであることに誇りをもっていますし!!」

「へ、へえ」

蓮は軽く引くのだった。



それから美月は駄菓子屋のお婆ちゃんの所に向かった。


そんな後ろ姿を何気なく蓮は見ていた。

蝉の声が大きく鳴り響いている。

「セミ、うるせえな」

思わずといったように蓮は呟いた。


「――お婆ちゃんには冷やし茶碗蒸しを作ってきたんだって」

璃子が美月を見てそう説明すると、蓮は感心するように言う。

「へえ、偉いじゃん。ここで食べさせてもらってるからな」

「時々夕食も作ってきてあげてるみたいだよ」

「フーン、優しい」

「私の家でも時々夕食作ってくれるって言ったじゃん?

美月の料理は何でも美味しいんだよねえ。ハズレがないの」

「そうなんだ、すげえ」


「……ごめんだけど、美月はやめときなよ?」

「はあ?」

璃子に続いて隼人も言う。

「ああ、璃子との仲を後押ししてくれたのに、応援してやれなくて悪いが……」

「おい、あり得ないだろ! あんなオタクでちんちくりん。

何をどうやって勘違いしたのか知らないけど、あり得ないからな!!

絶対に違うからな!」

「えぇ」

「なんだ」

蓮が完全否定すると、隼人と璃子はつまらなそうにするのだった。

「ハア、冗談かよ」

蓮は深いため息をついた。

「じゃあ、蓮くんは好きな人いるの?」

「ああ、いないけど」


そんな話をしている時に美月が戻ってくる。

「何を話しているのですか?」

「恋バナ、かなあ?」

「なるほど」

「そういえば、美月は好きな人いるの?」


「そんなのいな――――」


美月は即座に否定を言いかけた。



その瞬間、うるさいほどの蝉の声が頭に響き渡ったようだった。


頭によぎる。

いつも優しい微笑みを向けてくれる――――

囁き声で、こそこそと話をして――――

限りなく、静かな…………

――――――

――――

――

「いませんよ?」


それはほんの僅かな動揺であった。

璃子はそれを感じたのか、どうなのか、これ以上聞くことはなかった。


「そっか」

「そうなのです」


否定したのは、無意識であった。


ふと、思いを寄せる。

(今、何をしているのでしょうか……?)


どこからか、涼やかな風が過ぎていったような感じがした。

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