第二十四話 明日香と竜二
「ってっっやめろ！」
「なんだー竜二興奮しちゃった？」
俺は少し顔を赤らめたが、すぐに切り替え、腕を振り払う。
「してねぇーわ。それより俺は行くからな」
俺は階段を下り、宿屋を出て、街を散策することにした。
「ってか何でお前はついてくるんだよ」
さっきからずっと俺の後をついてくる。
「だってー竜二と一緒にいたいし、二人きりになれる時間もないから。ダメかな？」
「ついて来てる時点でくる気満々じゃねぇーか！まぁ、勝手にすれば」
「うん！ありがとう！私嬉しい！」
明日香は満面の笑みで返事し、俺はこいつを見ていると調子が狂うと心の中で呟いた。
すると、向かいから歩いてくる三人グループの男性に声をかけられた。
こんな時間だというのに街に出歩いてるってどうなんだか。
「ねぇー、そこのお姉ちゃんー。俺たちと遊ばない？」
緊張しているのか興奮しているのかわからないが20代ぐらいの見た目をしている若い男性の顔は火照っている。
ナンパというものを直で見たことはなく俺は驚くが、明日香はそんなそぶりを見せずに向かっていく。
「え、無理ー。私大好きな人がいるから、貴方達消えてくれない？」
明日香は俺の腕と自分の腕を絡ませる。
「そんな冴えない奴といてもつまんないでしょ？俺たちが楽しいこと教えてあげるから来な？」
「だから無理だって言ってるじゃない！死にたいの？え、もしかして、私に殺して欲しいから来たの？」
「何を言っているのかわからないが。無理って言うなら俺たちも考えがある」
「面白いじゃない、考えとやらを教えてちょうだい」
「ふふ、今更懇願しても遅いからな！お前たち！あの女を捕まえろ！」
その男が言うと、両橋にいた男達が明日香を襲おうと走り出す。
「なんだ、つまんないの。私が貴方達に負けるわけないじゃん。そんなに死にたいなら殺してあげる」
明日香は男に向かって、右手を掲げると、そこから黒色の魔方陣が作られる。
「私の名に命じる。悪魔様のご好意を喰らえ！ダーク・キャファニックフレア‼︎」
明日香が唱えることによって作られた闇の玉が一瞬で、男達に目掛けて向かい、そして、空間を抉り取った。
一瞬の出来事で何が何やらと困惑していたが、男達がいないことから何処かへ行ってしまったのか、又は死んでしまったのかを推測する。
「お前、一体何をしたんだよ！」
「えーと、そうね。殺したよ。空間ごと綺麗に」
「や、やりすぎだよ！殺すなんてしなくても追い払うことだって出来たはずだ！」
「私が抵抗しなかったら、竜二は助けてくれた？」
「それとこれとは関係ない！関係ないけど、俺はお前を助けられない...」
「なら、竜二は何も言えないよ。私はこうするしか対処する手段が分からないから」
「ぐっっ、だけど！それでも！殺すことはやめてくれ...お願い...お願いだからやめて...くれ」
「いいよ。だけど条件があるなー」
「何だ？」
「私と主従関係を結んで欲しいの」
「は？無理だ。俺がなんでも言うこと聞くって言うことだろ？それはできない」
「だったらやーめた。それができないなら。私は人を殺すよ。それが私の生き甲斐になってしまったから、竜二が私の物になってくれるのなら話は別だけど」
「だったら次明日香が人を殺そうとした時、俺は全力でお前を止めるから」
「それが出来るなら、やってみなよ」
「あぁ、殺してでもだ」
そうこう話しているうちに階段を上り、灯台の天辺まで来ていた。
太陽が地平線から半分ほど出るところだった。
もう少しで日の出になりそうなので俺と明日香は座って待つことにした。
灯台からは眺めがよく、海風がなびいてとても気持ちいい。
灯台は約80メートル程あり、そのまま身を投げ出すと即死は免れないだろう。
足を踊らせ、恐怖感を味わう。やっぱりこの高さは怖い。
「なぁ、お前はなんで理沙を殺したんだ？」
俺が海の果てを眺めていると、ふと俺の口から言葉がこぼれ落ちていた。
「だって、竜二が理沙って子を好きだったから」
「そうか...」
「急にどうしたの？私への恨みはもう消えたの？」
「いいや、消えてないけど、こうして俺と明日香が同じ景色を見ていていいのか、理沙は許してくれるのか分からなくなるんだ。だけど今横にいる明日香への気持ちは消えてない」
「好きって言う？」
「バカ言うな。お前を好きになるってことは一生無いぜ」
「そう。なら私に竜二がぞっこんしてくれるように頑張る！」
「俺はお前を利用したら殺す」
「だったら今、私を利用する？」
明日香は谷間を強調して、上目遣いをしてくる。
灯台の上って言うのに恥じらいもないのか。
「しねぇーよ、それより、日の出だ」
「綺麗」
オレンジ色に光り輝く太陽は美しく、空もオレンジ色に染まっていく。
「異世界の日の出って現実とあまり変わらないのな」
「日の出って初めて見るけど、とても神秘的で美しい。私、好き」
「俺もだ。なんか心があったかくなって...え？な、なんで、涙が...っっ...」
なんで涙が出るのか分からないが、何故か心が浄化されていく感じがしてとてもあったかくて穏やかになる。
「ってかなんで明日香までも...お前は泣いていい権利なんか...なんか...ない。俺もだけど...」
そうだ、俺は何をしていたんだろうか。涙が流れたび、俺は当時のことを思い出していく。当初、俺はこいつへ復讐するために頑張っていたのではないか。その宿敵が今、真横に座っているんだぞ。
俺は甘えていたのだ、自分が可愛いばかりに。
理沙や俺を殺した復讐、今ここで果たさなければいけない。
あの時、明日香を刺せなかった、多分今同じことをしても何も変わらないけど、今この瞬間、明日香を押すくらいは出来ると思う。落ちたら死ぬのは間違いない、それに明日香は今泣いていて俺を意識していない、絶好のチャンスに間違いない。
意を決して、俺は明日香の背中を両手で押そうとしたが、
「竜二、どうかした？」
明日香は涙を拭き俺の方を向いてきた、だけどもう抑えることはできず、俺は明日香の驚いた顔を押し切り、灯台から突き落とした。
「えっっ？」
短い言葉を残し、落ちていく明日香を俺は最後まで眺めていた。だが、最後、地面に当たる寸前、明日香は悠々と着地をした。ものすごいスピードで落ちたにもかかわらず、最後の最後でスピードが弱まっていったのだ。
「な、なんでだよ...」
俺は自分の力の無さを悔やむのだった。
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「竜二ー、酷いじゃない！私を突き落とすなんて」
俺は灯台から降り、そのまま宿屋に帰ろうかと思った時、背後から明日香の声がかかった。
「お前を殺そうとしたんだ、悪いかよ」
「いや、別に悪くわないよ。でも少し竜二を見直した。今までは臆病な竜二だと思っていたんだけど、少しは成長したんだね。私もっと竜二を好きになったよ」
「そうかよ。なら俺は先に帰るわ」
「待ってよー。一緒に帰ろうー」
明日香が俺の後を追い、隣に並んでくる。
「勝手にしろ」
俺はそう言い、黒いローブのポケットに手を突っ込んだ。
やはり明日香は強い。だからダークテールリフレクションを発動して、俺はあいつを殺す。幸いなことにシャークとの一戦時にこの力が発動し、シャークを殺そうと実行することができた。あの時の俺は何故か強気になれた気がする。それまでは利用し尽くしてやろう。そう新たな想いを心に決め、鋭い顔つきでエリシアやアリシャが待つ部屋に戻っていった。
