†特殊捜査員†
それを境に、少年のまとう雰囲気が一気に変わる。
「確かにいただいたよ 麻薬密売組織『dolphin´s』のみなさん♪ 」
「…っ!?なんで おまえ……っ、なぜそれを…!!」
ザワ……!!
その場の空気が緊迫しざわめくのを肌で感じ、目の前の男性も含め周りにいた、いかにもヤクザ風の男たちも警戒の目を向ける。
「おっと… それは話す必要ないと思うけどね」
「なに…⁉」
「リュウさんっ…‼」
奥の方から顔を青くしながら、そのリュウと呼ばれた人の部下らしき若者が駆け寄り、少年と男の会話が一時中断される。
「どうした新人。お前らには 見張りを言いつけておいただろ‼」
「だからですよ‼まずいですって…‼パトカーが…こちらに向かってきてます」
「ちっ ただのパトロールかもしれないだろ。何台だ?」
小さく舌打ちするものの、組のお頭的位置づいているのリュウは冷静に指示を出す。
あわてて近くにいた若者とは別の者が窓に駆け寄り、現状を確認するため
少し騒がしくなってきた下を見下ろす。
「一、二…、三…‼まだ来ます‼リュウさんこれは…」
「ああ…!! パトロールなんかじゃねぇ‼明らかに…‼」
バタンッ…‼
パトカーが止まり、ドアが開け閉めする音が聞こえてほんの数分もしないうちに暗い夜の街に無機質なスピーカーの音声に乗せて力強そうな声が響く。
「おまえらは、もう包囲されている。おとなしく出てこい…!!」
その声は、確かにこの廃墟ビルの下から聞こえている。
つまり、包囲されているのはこのビル。
完全に逃げ場を失い、ちょっとしたパニックに陥る中リュウが最後の手段に出る。
「こうなったら仕方ねぇ‼そいつらを人質にしろ」
リュウの命令にその場の全員が総出で、二人に向かって襲い掛かる。
しかし慣れたような身のこなしで軽々とかわす。
「やだね♪ いくぜっ葉月 」
姉の葉月の手を引いて窓へと全力疾走する柚杞。
「待って ゆず‼もしかして ここから飛び降りる気じゃ…‼」
「お 勘がいいな♪あったり☆ しっかりつかまってろよ!!」
「え…え…!?」
窓枠に思いっきり踏み込んだ足をバネにぐっと力を込める。
踏み出した勢いで、栗色の柚杞の髪が夜風になびく。
……ストンッ!
爽快な音を立てて、無事に二人が地面へ降り立つ。
「もうー…びっくりするじゃないのー!!」
「ははっ これくらいよゆーだって☆」
「そうじゃなくて!!いろいろと心の準備がー…」
「そなの? そりゃあ悪かった」
ちょっと涙目になりながら葉月が柚杞につっかかる。
が、柚杞はたいして悪びれる様子もなく、それどころかからかうようなふざけた口調でしれっと答える。
「相変わらず 命知らずだな お前は」
突然の声の主に二人は後ろを振り返る。
すると、ちょっと呆れたような目で、ピンとアイロンのかかった白いシャツに黒いネクタイをきっちりと閉めた、スーツ姿の男性が立っている。
その姿に思わず、といった感じでその名が口をつく。
「あ 櫻井」
「さん、だろ。櫻井さん。 で、どうだった?」
「ああ ビンゴ」
すでに慣れたのか柚杞の失礼な態度に軽く訂正をかけるだけで話を進める。
柚杞がポケットから先ほどの透明な袋を取り出して、櫻井の前にピッと得意げに差し出す。
「…よし 証拠も上がったな …総員突入‼」
「ま、待てよおぉぉっっ‼」
櫻井の掛け声と同時といっていいいほどのタイミングで、相手側の一人の若者が叫ぶ。
その大声に思わず突入しかけた警官たちが足を止める。
「お、おまえら警察だろ⁇証拠もなくて俺らを捕まえようってのか⁉
そんなの不当逮捕もいいとこだぜ」
ふんっと鼻を鳴らして、余裕の笑みを作って見せる男。
しかし、対する柚杞はむしろ楽しそうな顔にすら見える。
「残念だけど、証拠ならあるよ。
あんたたちがくれた、この上ない決定的証拠がね」
「なっ…!?お前ら…‼」
柚杞に突き付けられた動かぬ証拠につい、言葉が詰まる男。
しかし、そう簡単には引き下がらない。
「そ、そんなのでまかせかもしんねぇだろ!!警察ももう終わりだな。こんな通りがかりの中学生なんかに騙されてよ!
ガキのいうことなんて真に受けて…っ」
「それに関してはだな…」
「いいよ 櫻井さん。自己紹介くらいするって 」
雲の切れ間からさす月明かりが、
柚杞の胸元に揺れるシルバーのリングを光らせる。
「……!?
そのリングっ…‼」
「ああ これ?おじさん目、いいんだね 」
細いチェーンの通ったリングをつまんで柚杞が笑う。
「そ 俺たちが西鈴警察署所属、特殊捜査員の葉月と柚杞です☆
よろしくってー…、いったってもう俺たちの役目はもうお終いだし、
会うこともないだろうけどね」
「くっ……くそーーーー‼」
男の悔しげな悲鳴が暗く街を包む闇夜に広くこだまする。
突入した警官たちに次々に連行されていくdolphin’sのメンバーたち。
しばらくの間、柚杞たちはその様子をただぼんやりと眺めていた。
西鈴警察署の特別寮から警察署本部へと続く長い廊下。
二人よりひとまわりもふたまわりも背の高い大人たちが、忙しそうに行きかうその廊下を、俺たちはのんびりと歩いていた。
「葉月、柚杞。」
「ふぁい?」
制服姿ながらも、いまだに眠気が抜けずあくびを繰り返す。
「おはようございます、櫻井さん」
「おはよう、葉月。昨日はご苦労だったな、ふたりとも。」
「ほんとっすよ もう眠くて眠くてしょうがないったらー…んー」
言いながらまた自然とこぼれるあくびをこらえきれず、背伸びをする。
「はは 学生は大変だ。今から学校か?」
「はい もうすぐテストもありますし頻繁に休むと何かと疑われたりするから休めませんので…」
「そうだな 目立つような行動はくれぐれも控えてほしい
なぁ??柚杞」
二人に言いながらも櫻井の視線は、集中的に一人に向く。
「ってー…俺ですか‼」
「当たり前だ お前以外に誰がいるっていうんだ?それとー…」
ひときわ声を小さくして櫻井の目が警察そのもののそれへと変わる。
「近頃、少年らの間で妙な噂が立っているらしい。なんでも特別な力を悪用せんとたくらむ奴らがいるとな。」
「特別な…力…ですか?」
「ああ どんな能力なのかは知らないがな
とにかく 情報に気を付けてくれ…以上だ」
「了解」
「わかりました」
「しっかしなんだろうな 特別な力って」
頭の後ろで腕を組みながら、隣にいる葉月にきいてみる。
「うーん、特別な力かぁ…。
遠くにある物を触れずに動かす力とかかなぁ」
「それ なんの犯罪に役立つの? 役に立ってもしょうもないことにしか思えないんだけど…」
「え⁇うーん それじゃあ…念力とか?
テレパシー使って仲間とこうビビーッと連絡取っちゃったり…」
「え? そんなもんか?」
「え⁇ ちがう? じゃ 時間を止めてー…とか
そういうのかな?」
多少納得できないところもあるが、やっと出たまとも(?)な意見に、うなづく。
「まぁ そんなんだろうけど
にしても、エスパーなんてそうそういないはずなのにそう簡単に犯罪なんて起こせるもんかな」
「んー…よくわかんないけど あたしたちは情報収集するのが仕事なんだからとりあえず情報を集めなくっちゃ…」
「それもそうだな 」
そんなことを互いに呟きながら、僕らは教室へと向かった。
――ガラ……。
教室の扉を開けると、それに気づいた俺たちの友人が駆け寄ってくる。
教室に入った時から俺たちは、特集捜査員ではなくごく普通の学生へと変わる。
「お 柚杞。はよ」
「おう 歩」
「葉月ー。おはよー」
「なっちゃん おはよう」
浦木 歩。
俺と一番初めに仲良くなったこのクラスメイトだ。
そして葉月に声をかけてきたなっちゃんこと城山 捺。
確か歩の所属する野球部のキャプテンの妹ー…?だったかな。
そもそも部活動せいではない俺たちにとっては特に関わりがないからその辺の関係はよく覚えてはいないけど。
「あんたたちほんと仲よしよねぇ 一緒に登校したり帰ったり…
ほんとに付き合ってないの⁇」
「まぁね 歩たちほどじゃないけどさ」
「「なに その言い回し こんなん全然好きじゃないし」」
俺の挑発に乗せられた二人が、これまた仲良くハモりながら反論する。
俺らふたりが双子であることは、生徒を含め先生も知らない。
だから何も知らない歩達からしたら仲のいい男女、と見えるだろう。
しかし、歩たちは違う。
俺たちみたいな双子なんかじゃないのに何かといつも二人一緒にいる。
これは なんだかんだいっても仲良しだと思う。




