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スマホのAIに質問したら異世界に転送された。クエストクリアまで帰れないらしい  作者: おっさんず


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第16話「現実の、続き」

朝、目が覚めた。



天井が木でできている。


宿の部屋だ。


異世界にいる。



スマホを確認した。


バッテリー100%。


QUEST #003「██████」、33%。



変化なし。



蓮は起き上がって、窓を開けた。


町の朝の音が入ってくる。


荷車の音。誰かが話している声。遠くで鶏に似た鳥が鳴いている。



現実じゃない。


当たり前だ。でも毎朝、一瞬だけ確認してしまう。



―――――――――――――――――



朝食はギルドの一階で食べた。



リエナはすでにテーブルについていた。


黙ってパンを食べている。



「おはようございます」



「ああ」



蓮も向かいに座った。


パンとスープが出てきた。スープは温かい。塩気が強いが、悪くない。



「QUEST、昨日から動いてないです」



「そうか」



「何をすれば進むか、まだわからなくて」



「焦っても変わらない」



リエナが言った。


感情のない声だった。でも否定ではない。



蓮はスープを一口飲んだ。



人を助けると動く、という仮説はある。


でも何人助ければいいのか。どんな助け方が条件なのか——まだわからない。



Ariaに聞きたい、という反射が来た。


打ち消した。



―――――――――――――――――



午前中はギルドで過ごした。



掲示板を眺めた。


文字は読めない。でも絵が描いてある依頼を探せばいい、ということはわかった。



昨日と同じ要領で、一枚見つけた。


リエナに読んでもらった。



「町の北側の井戸が詰まっている。原因を調べて報告する、という依頼だ」



「戦闘はないですか」



「ない。ただし井戸の中に潜る必要があるかもしれない」



「潜れます」



リエナが少し蓮を見た。


何か言いかけて、やめた。



受付で依頼を受理してもらった。


登録証を見せると、受付の女性が台帳に何か書いた。



―――――――――――――――――



井戸は町の北側の路地にあった。



石造りの古い井戸だ。


縁に苔が生えている。


バケツを下ろしても、水が上がってこない。



蓮はスマホのライトをつけて、井戸の中を覗いた。



暗い。


でも、途中で何か光っている。



「何かが詰まってますね。光ってます」



「光っている?」



リエナが覗き込んだ。



「……石だ」



「石が詰まってるんですか」



「魔石だ。誰かが落としたか、あるいは——意図的に詰めたか」



魔石。


初めて聞く単語だった。



「魔石って何ですか」



「魔力を蓄える石だ。水に反応して膨張するものがある。それが詰まっているなら、取り除けば直る」



「取りに行けますか」



「深さによる」



ロープがあった。


井戸の縁に巻かれていた。


蓮はロープを引いて、強度を確認した。



「行きます」



「待て」



リエナが蓮の腕を掴んだ。



「魔石には触るな。素手で触ると魔力が流れ込む場合がある」



「どうすれば」



リエナが鞄から布を取り出した。


厚手の、革に近い素材だ。



「これで包んで取り出せ」



受け取った。



ロープを体に巻いて、井戸の中に降りた。



暗い。


スマホのライトを片手に持ちながら降りる。


壁が湿っている。冷たい。



光っている場所まで降りると——石があった。



親指の爪くらいの大きさ。青白く光っている。


水の流れを完全に塞いでいる。



布で包んで、慎重に引き抜いた。



ぐぽ、と音がした。



下から水が上がってくる音がした。



「取れました」



上に声をかけた。



「上がってこい」



ロープを掴んで、壁を蹴りながら登った。


縁まで来ると、リエナが腕を掴んで引き上げてくれた。



―――――――――――――――――



ギルドに戻って報告すると、受付の女性が台帳に記録した。


報酬は銀貨二枚だった。



「魔石は」



「証拠として提出した方がいい」



リエナが代わりに答えた。


布ごと受付に渡した。



部屋に戻って、蓮はスマホを開いた。



QUEST #003「██████」


 進捗:██████░░░░░░ 50%



動いた。



「また進みました」



リエナが画面を見た。



「今日は何をした」



「井戸を直した。詰まりを取り除いた」



「人を、助けたわけではない」



「でも動いた」



二人で少し考えた。



「……町の人が水を使えるようになった。間接的に、誰かの役に立った」



リエナが言った。



蓮はその言葉を頭の中に置いた。


人を助ける、ではなく——誰かの役に立つ、という条件かもしれない。



まだ仮説だ。


でも輪郭が、少し見えてきた。



―――――――――――――――――



夜、また宿の部屋で横になった。



QUEST #003、50%。



折り返した。



あと半分。



でも何をすればいいかは、まだわからない。



窓の外を見た。


星が多い。現実より、ずっと多い。



現実。



今頃、何日経っているだろう。


母は。友人の岸本は。



考えが広がりかけた。


——今は考えなくていい、と昨日も思った。


でも今日も考えている。



明日クリアできたら、帰れる。


帰ったら、まず母に電話する。


それだけ決めた。



目を閉じた。



―――――――――――――――――



翌朝。



スマホが振動した。



目が覚める前に、振動で気づいた。


手探りでスマホを取った。



画面を見た。



QUEST #003「██████」


 進捗:████████████ 100% CLEAR



蓮は起き上がった。



何もしていない。


寝ている間に、クリアになっていた。



——昨日の積み重ねが、条件を満たしたのか。



考える間もなく、視界が白くなった。



―――――――――――――――――



天井が白かった。



自分の部屋だ。



スマホが手の中にある。


時刻は午前六時五十二分。



通知が来ていた。



不在着信——母から、十四件。


LINEの未読——母から、岸本から、大学の友人グループから。



一番古い着信は、四日前だった。



四日。



異世界では二日ほどの感覚だった。


現実では四日が経過していた。



蓮はしばらく画面を見ていた。


それから、母の番号を押した。



呼び出し音が二回鳴った。



「蓮。蓮なの?」



声が来た。


いつもより高い声だった。



「うん。ちゃんといる」



「どこにいたの。学校にも来てないって連絡が来て、部屋に行ったら——」



「ごめん。ちょっと色々あって」



「色々って何。怪我してない?ご飯食べてる?」



「してない。食べてる」



少し間があった。



母の息が、電話越しに聞こえた。



「……帰ってこれる?」



「帰れる。ちゃんと帰れる」



「いつ」



「もう少ししたら」



また間があった。



「……わかった。待ってる」



それだけだった。


それだけで、十分だった。



電話を切った。



窓の外を見た。


現実の空は、いつもの青だった。



スマホを見た。


Ariaの画面を開いた。



通知はない。


クエストの記録も、やはり残っていない。



——次はいつ転送される。



何を聞いたら飛ぶのか。


もう聞かないようにすれば、転送されないのか。



でも——



QUEST #003は、まだ文字化けしたままだった。


クリアしたのに、名前が読めない。



それが少し、引っかかった。

久しぶりの現実パートでした。


「ちゃんといる」——蓮らしい一言だったと思います。


QUEST #003クリア。でも名前の文字化けは消えていない。これ、何を意味するんでしょう。


次話もよろしくお願いします。感想・評価いただけると励みになります!


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