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Aランククエスト

新しくパーティに加入したセリーナと共に、俺たちは初めてのAランク依頼に挑むことになった。


「よろしくね、セリーナ。あなたが来てくれて本当に助かるわ」

リディアが笑顔でセリーナに声をかける。


「こちらこそ。あなたたちがどれほどの力を持っているのか、楽しみにしているわ」

セリーナは冷静な表情でそう答えたが、その目はどこか鋭く、俺たちを見極めているようだった。


ギルドに向かった俺たちは、受付嬢のセリカさんから二つのAランク依頼のリストを渡された。


「いよいよAランクね……どれにする?」

リディアがリストを見つめる中、俺の目に飛び込んできたのは『ヴァリシア古城の調査と魔物の封印』という依頼だった。


まあ、リディアはBランクだけどな。それを言うと怒るからやめておこう。


俺は一つの依頼が目に止まった。

「これだな!面白そうじゃないか?」

俺がそう言うと、セリーナが書類を読みながら首をかしげた。


「古城の廃墟にアンデッドモンスター……危険だけど、挑む価値はありそうね。ただし、長丁場になる可能性が高いわ。準備は怠らないこと」


「問題ないさ!俺のスキルがあれば楽勝だろ!」


「悠斗……あなたの楽勝ほど信用できないものはないわよ」

リディアが溜息をつきながら突っ込む。


こうして俺たちは、Aランク依頼『ヴァリシア古城の調査』に挑むことを決めた。 


今回のクエストの詳細は――


ヴァリシア古城の調査と魔物の封印、そして行方不明者の救出。


イルスフィア王国の南西20キロに位置するヴァリシア古城。そこは、かつて繁栄を誇った都市だったと伝えられている。


しかし、数百年前、突如として魔王による侵攻を受け、壊滅。その後、廃墟と化した。調査隊を派遣しても全員が消息を絶ち、いまだ真相は闇の中だ。


そんな曰くつきの場所に俺たちは向かうことになった。


△▼


ヴァリシア古城に向かうまでの道のりは平坦で途中ゴブリンなどの群れに遭遇したものの、そこまで苦労する事はなかった。


しかし、城が近づくにつれ空気がだんだんと重くなる感覚があった。


俺たちは城の見える場所まで到着すると、思わず足を止めた。視界の先には、長い年月で崩れかけた巨大な城下町が広がっている。


「これがヴァリシア古城……」


廃墟とはいえ、かつて繁栄していたであろうその街並みは城を頂点に迷宮のように形成されており、圧倒的な存在感を放っていた。


簡単に侵入できそうな瓦礫の隙間や朽ち果てた城壁が見えるが、それ以上に、この場所には目に見えない不気味な圧力が漂っている。


「……なんというか、普通の廃墟とは違う感じがするわね」


セリーナが微かに眉をひそめて呟く。冷静沈着な彼女ですら、違和感を覚えるほどの場所らしい。


「まあまあ、ビビってたら進めないぞ! 一気に突き進むだけだ!」


俺が軽い口調で言うと、リディアは呆れたようにため息をつく。


「悠斗、本当に大丈夫? 今回はゴブリンみたいに簡単に倒せる相手じゃないのよ?」


「余裕余裕。俺のマニーショットで片っ端から片付けてやるさ」


「金貨を無駄遣いしてばかりじゃ、あとで泣くのはあんたよ……」


 迷宮のように入り組んだ城下町の入り口で、俺たちは足を止めた。廃墟となった街は静まり返り、遠くから不気味な音が響いている。


「ここが噂のヴァリシア古城の城下町か……雰囲気ヤバいな」

俺が辺りを見回しながら呟くと、セリーナが鋭い目つきで前方を見据えた。


「気をつけて。ここに出るアンデッドモンスターはBランク冒険者でも苦戦するほどの力を持っているわ」


「へえ、そんな強いやつが出るのか。そりゃあ楽しみだな!」


「悠斗、頼むから少しは慎重になってよ」

リディアが呆れたように肩をすくめる。


だが、俺には「2択スキル」がある。このスキルさえあれば迷うこともないし、最適なルートで進むことができる。


「平気平気! 俺についてくれば問題なしだって」


俺は軽快に先頭を切って進み出す。


セリーナがそれを制そうとする。

「ここは迷宮になってるのよ。考えも無しに進んだら…」


リディアがセリーナに伝える。

「セリーナ大丈夫よ。悠斗に付いていけば迷わないわ」


「それって…どういう…?」


「細かい事は気にするな! 行くぞ!」


歩き始めて間もなく、遠くからアンデッドの呻き声が聞こえてきた。そして姿を現したのは、腐った体を持つ大柄なゾンビが3体だ。


「お出ましか! さあ、俺の出番だな!」

俺は腰に手を伸ばし、自慢の銃を抜いた。


「マニーショット!」


俺が引き金を引いた瞬間、銃口から金貨が光を纏いながら飛び出す。光の弾丸は一直線にゾンビの額を貫き、一瞬で蒸発させた。


「え……一撃で?」


セリーナが目を見開いて立ち尽くしている。その間に俺は次のゾンビにも金貨を連射。二体目、三体目のゾンビもまた、一瞬で跡形もなく消し飛んだ。


「おいおい、余裕だな! 次行くぞ!」


俺が次の道へ進もうとする中、セリーナはその場に立ち止まって呟いた。


「これが……S級冒険者の力なのね。あんなモンスター、普通ならBランク冒険者でも苦戦するのに……それを一撃で……」


彼女は振り返り、驚きと困惑の入り混じった目で俺を見た。


「悠斗、そのスキル、確かに規格外ね。S級冒険者という判定も納得だわ。でも……」


セリーナが言葉を切った瞬間、新たなアンデッドが現れた。またしても俺の出番だ。


「お任せあれ! マニーショット!」


金貨の弾丸がモンスターを次々と殲滅していく。ゾンビ、スケルトン、幽霊――どんな相手でも一撃だ。


だが、俺が次々と引き金を引くたびに、セリーナの表情は曇っていった。


「悠斗、あなた……その銃、撃つたびに金貨を消費するのよね?」


「ああ、そうだぜ。まあ、まだまだ金貨はあるから心配するな!」


「まだある……?」

セリーナが疑わしそうに眉を上げる。


一方で、リディアが苛立ったように俺の腕を掴んだ。


「悠斗! あんた、今ので何枚使ったか自覚してるの?!」


「えっと……数えてないけど、そんなに使ったか?」


「数えてない!? 悠斗、もう金貨200枚以上使ってるじゃないの! これからが本番なのに、どうするのよ!」


「ははは、大丈夫だって! あと100枚くらい残ってるし」


こうして俺たちは城下町を抜け、古城の入り口が見えてきた。その時だった。


次の敵が現れ、俺は再び銃を構えた。


「よし、マニーショットで――あれ?」


ポケットに手を入れると、そこには金貨がない。


ポケットの中にあるのは、500円玉硬貨2枚と、お守りとして持っている5円玉硬貨だけだ。


「ちょっと待てよ……金貨が……ない?」


「ええええええええええええ!?」

リディアが悲鳴のような声を上げる。


「悠斗……どういうこと?」

セリーナが低い声で問い詰める。


「いや、全部使っちゃったみたいだ……あっという間だったな!」


「悠斗! このクエストでもらえる報酬はいいとこ100枚よ! あんた、報酬以上に金貨を無駄遣いしてどうするつもりなのよ!」


リディアの怒りに、俺は苦笑いを浮かべるしかない。


「いや、だってアンデッドが強かったしさ……仕方ないだろ?」


「悠斗、あなたはもう後ろにいなさい」

セリーナが冷たい視線を向けてくる。俺は思わず背筋を伸ばした。


金貨を使い果たした俺を尻目に、セリーナとリディアは敵を次々と倒していった。


セリーナの精密で無駄のない魔法と、リディアの煌環剣エレメンタルスフィアの力が見事に噛み合い、俺たちはなんとか古城の入り口まで辿り着いた。


俺はポケットの500円玉を握りしめたまま、ただ二人の背中を追いかけるだけだった。


「やっと着いたか……!」

俺が息を切らしながら腰に手を当てると、セリーナが振り返った。その表情は、完全に冷静だが、どこか呆れた色が混じっている。


「悠斗。少し話があるわ」


セリーナの声にドキリとする。


これは、怒られるやつだ。直感で分かる。


「いい? 今までの低ランクの依頼とは違い、高ランクの依頼は長丁場なの。悠斗みたいに何も考えずスキルを使うと、最後には積むのよ」


「え、でもさ、俺、あれだぞ? ゴブリン討伐だってマニーショットで無双してきたし、今回も――」


「それが無駄だって言ってるのよ!」


セリーナの声が少し鋭くなった。俺は言葉を飲み込む。


「悠斗、あなたゴブリン退治にもその規格外のスキルをぶっ放してたの? 確かにスキルそのものは驚異的な威力。でも、いくら何でも無駄が多すぎるわ。少しは考えなさい」


「む、無駄が……」


「セリーナの言う通りよ!」

リディアが全力で同意してくる。


「悠斗、あんた本当に何も考えてないじゃない! 金貨使い果たしてどうするつもりなの? 入り口に着く前に積んでるじゃない!」


リディアが指を突きつけてくる。その言葉に俺はぐうの音も出なかった。


俺は一人っ子だから分からなかったが、セリーナみたいな姉がいたらこんな感じなんだろう。


大変だな弟家業おとうとかぎょう…。


姉はまだまだ許してくれないらしい。

「これからが本番なのよ。ここでまた何も考えずスキルを使いまくってたら、全滅するわよ!」


セリーナの冷静な指摘に、リディアも頷きながら同意している。俺は、これ以上何も言えず、ただ頭を掻くだけだった。


「これからは、あなたが装備している、その腰のダガーで貢献してもらうしかないわ」


セリーナはとても厳しい目を俺に向ける。


「俺、このダガー実戦で使った事ないんですけど…」


明らかに呆れた声でセリーナは続ける。

「だとしても、やってもらうわ」


しかし、俺には二人に言っていない切り札がまだある!!


俺はポケットの中の五百円玉と五円玉を握りしめた。

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