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Tomoki Viewer 03

「いいっ? 分かったっ!?」

「はいはい、分かった分かった……」

「ホントに分かってる? アレはマンガの参考に観ていただけで、決してイヤラシイ目で観てた訳じゃないのよっ!」

「だから分かったつーの……」

「それに、あの動画に出演()ていた娘の着てた制服。アレはライバル校の制服の参考になると思うのよ。それと――」


 あのあと、石化でもしたかのように完全に固まって、全く動かなくなってしまった千歳。


 ちんちくりんは、そんな千歳の後ろで動画を再生し続けていたPCへ近付き、

『いいのか、だめなのか、どっちだよ……』

 などと呟きながらプレイヤーを停止させ、おもむろに千歳の耳に口を寄せた。


 そして、何やらヒソヒソと耳打ちをしてから『じゃあ、ちょっくら茶ぁでも淹れて来るッス』と言い残し、リビングから消えると同時に始まったのが、今なお続いている千歳の釈明会見である。


 で、この言い訳くさい釈明会見は、茶を淹れて終わったちんちくりんが戻って来てからも延々と続いているのだ。


「つーか、いい年こいて、たかがAV観てるトコ見られたくれぇで、何をそんなにムキんなってんだ、アイツは……?」

「バカだなぁ。あれがホントの清純派というヤツだろ」


 千歳のご高説を聞き流しながら、ため息混じりな小声に、同じく小声で返してくるちんちくりん。


 清純派ねぇ……


 清楚な白いフレアスカートのワンピースに、水色のショート丈カーディガンというファッションは、見た目だけなら確かに清純派っぼい。


 しかし、来客にも気付かないほど集中し、AVを食い入る様に観入ってる元ヤン女など、オレの中の清純派という認識からは大きく外れている。


 まだ終わりそうの無い釈明会見にうんざりしながら、オレは目の前に置かれた紅茶へと口を着けた。


 こ、これは……


 雑味など全く感じない澄んだ味と、それを引き立てる香り。普段飲んでいるティーパックとは、全く別物の風味と味だ。


「オマエ……見かけによらず、紅茶淹れるのうめぇな」

「見かけによらずは、余計だ――まぁ、紅茶は疲れた千歳さんに美味(うま)い茶を飲んでほしくて、バイト先の店長にイチから教わったからな」


 どんだけ千歳が好き何だよ? オマエは……


「つーか、こんなアダルティでグラマラスなメイドさんが茶ぁ淹れてやってんだ。金払ってくれてもいいんだぞ」

「オマエは、そこの本棚に広辞苑があるから『アダルティ』と『グラマラス』の意味を調べて来い。んで、意味を理解したらそっちの全身鏡(カガミ)に全身を映して現実と向き合ってこい、ロリっ娘」

「誰がロリっ娘だ、コラ! コッチは今すぐここで、さっきの続きを始めてもいいんだぞ」


 さっきの続きって……

 あんだけ蹴りまくって、一発も当たるどころか掠りもしなかったのに、まだ懲りんのか……?


「やめとけ。オマエの蹴りなんて読者サービス――それも極めて特殊な性癖を持った、大きなお友達への読者サービスにしかならん」

「上等だ……ちぃーとばかし、オモテ出ろや……」


 お断りだ。合法ロリっ娘のお遊戯に付き合ってやれるほど、ヒマじゃない。


「ちょっと二人ともっ、ちゃんと聞いてるのっ!? 日本列島は、国産みの神である伊邪那美命が産み落としたって言うじゃない? なら、北方四島や尖閣諸島、それに竹島を産んだのが伊邪那美命だって証明出来れば、日本の領土問題は一気に解決出来ると私は思うわけよ」


 オレが話しを聞き流している間に、千歳の釈明会見はいつの間にかAVの話から日本列島の天地創造、更には領土問題にまで広がっていた……


 てゆうか、どうやったらAVの話からそんな話になったんだ? こうなると、途中の話を聞き流していた事が、少々悔やまれるな……


 とはいえ、いつまでもこんな与太話に付き合ってられる程、時間に余裕が有る訳ではない。


「おい、千歳っ? オマエの言い分は分かったから、そろそろ話を戻そうや」

「えっ? 話を戻すって……だ、だから私は別にHなシーンが観たかった訳じゃなくて――」

「そっちじゃねぇよっ! 仕事っ! 原稿の話だよっ!!」


 どんだけAVの話がしたいんだよ、コイツは……


「えっ? げ、原稿……? ああっ! 原稿ね、原稿っ! うんっ、原稿の話をしましょうっ!!」


 コイツは……

 原稿の事が、完全に頭から抜け落ちてやがったな……


 オレはため息をつきながら茶封筒を取り出し、中にあったネームをテーブルの上に置いた。


「歩美さんから、原稿を変更する許可は貰った。ネームも(おおむ)ねOKだが、一部修正の指示がある」

「修正……? それってどこよ?」


 眉を寄せて、ネームをテーブルに広げて行く千歳。

 そして、すぐに赤えんぴつで書かれた『あおり』の文字を見つけ、ため息をついた。


「ほら、見なさい……やっぱり、ここは煽りでしょうが?」


 非難半分、呆れ半分の目を向ける千歳から逃げるように、オレは視線を逸した。


「だいたい、何でアンタは、ここを俯瞰にこだわってたワケ……?」


 別にこだわっていた訳じゃないが、何でって言われれば……


「苦手なんだよ……」

「はぁ? なんですって……?」

「だから、煽りの構図が苦手なんだよっ!!」


 オレの口から出た答えに、一瞬だけ目をキョトンとさせる千歳。


 そして――


「ぷっ……ふふっ、あははははぁ~っ! 同人界では売れっ子だった豊田まこと様が、煽りを描けないなんてっ! ははははははぁ~!」


 千歳は心底おかしそうに、オレを指差しながら腹を抱えて笑い出した。


「描けねぇとは言ってねぇだろっ! 苦手だって言ったんだっ!」

「そんなの、どっちだって同じよ。だいたい四年もマンガ描いて来て、煽りの構図も描けないなんて……くくくくくっ」


 オレの欠点を見つけたのが、よほど嬉しいのか。ツボにでも入ったかのように笑い続ける千歳。


 この女ぁ……後でゼッテー、シメてやる!


「つーかよ、北村……煽りの何が苦手なんだ? アタシもガッコーで人物画のデッサンとかヤラされるけどよぉ、特に煽りがムズカシいとは思わんぞ」


 お前みたいなチビ介と違って、オレは人を見下ろす事はあっても見上げる事なんてほとんどねーんだよ。


「くくくっ……と、とは言ってもぉ、歩美さんから煽りの指示が出てる訳だし。苦手だから描かないって訳にはイカないわよね」


 そのとおりだよっ!

 正直、他のアングルならともかく煽りの構図だと、一発でオマエが描いたモノじゃないとバレるぞ。


「よろしい、私が一肌脱いであげましょう」


 嬉しそうに立ち上がると、文字通りカーディガンを脱ぎ捨てる千歳。


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