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Tomoki Viewer 04

「由姫、ベッドの下の引き出しに、予備のスケッチブック(スケブ)があるから、ちょっと取って来て」

「ウッスッ!」

「そんで、アンタはここに正座っ」

「はあ?」

「いいから、早く座るっ!」


 何なんだ、いったい……

 オレは訝しげに顔を顰めながらも、渋々と千歳の指示した場所――机の少し後ろへと移動して正座した。


「でっ? 何をする気だよ?」

「決まってんでしょ? 煽りの構図で人物デッサンよ」

「デッサン……?」

「そう! 苦手なら練習あるのみっ! そして――」


 千歳は背もたれを回しながら椅子を引くと、その上に乗って立ち上がった。


「この私が直々に講師兼モデルになってあげるから、ありがたく思いなさいっ!」


 事も有ろうに椅子の上から片足を机に乗せ、腕を組みながら嬉しそうにオレを見下ろす千歳。

 まあ、確かに練習は必要だし、仮にも千歳はマリンの看板漫画家だ。直々に教えて貰えるのはありがたい。


「うわっ! なんか土下座する智紀を見下ろしてるみたいで、メッチャ気分がいいんですけど♪」


 土下座じゃなく正座だ。日本語は正しく使えっ!

 てか、そもそも正座する意味あるのか? 別にあぐらでもいいだろう……?


 いや、それ以前に……


「なあ、千歳……? とりあえず、デッサンの前に言っておきたい事があるんだが、怒らないで聞いてもらえるか?」

「なぁに? 今の私は大変に気分がいいから、何を聞いても怒らないわよ。好きに囀(さえず)ってみなさい」


 有頂天になって、椅子の上でふんぞり返る千歳。


 まあ、怒らないと言うなら、ハッキリ言ってやろう。


「確かにこの構図は煽りだが――ついでに、すまむら辺りで、三枚千円で買ったような安っぽいパンツも丸見えに、って! アブねっ!?」


 セリフの途中で椅子の上にから降って来た、スカートを抑えながらの飛び蹴りを何とかギリギリで躱すオレ。


「テメッ、コラッ! 怒らねぇって言ったろっ!?」

「うるさい、バカッ! 変態っ! 覗き魔っ!!」

「誰が覗き魔だっ!? テメーが勝手に見せたんだろうがっ!?」

「だからって、購入店が特定出来るほどガン見する事ないでしょうがっ!?」


 いや、それほどガン見をしていた訳ではないのだが……やはり、すまむらのセット売りか。


「オイ、コラッ北村……千歳さんバカにすっと、アタシが黙ってねーぞ……」


 高給取りのクセに貧乏性なウチの看板作家様にため息をつきかけた所で、寝室からスケブを持ったちんちくりんが戻って来た。

 その、良く出来たデザインのメイド服とは対象的に、モロヤン顔でガンを飛ばして来る、ちんちくりん。


「確かに千歳さんの下着は八割がすまむらで買ったモンだし、そのほとんどが上下揃ってねぇ……だがなっ! 千歳さんのパンツは三枚千円なんて安物じゃなくて、五枚で千五百円だっ!!」


 背景に『ババァーンッ!!』と効果音が入りそうな勢いで、そう断言するちんちくりん。


 ただ、それだと一枚あたりが更に安くなってるぞ、オイ。オマエはもう一度、小学校で割り算からやり直して来い。


「ちょっと由姫……今すぐその口を閉じないと、全裸(マッパ)に剥いて、ベランダからバンジージャンプさせるわよ……」

「ひいぃぃ!?」


 自身のモロヤン顔を遥かに凌ぐ、モロヤン顔にヤンデレ顔をプラスした千歳に睨まれ、ちんちくりんは顔面蒼白で竦み上がった。


「バンジージャンプといえばアンタ……高校の時、三禁破って男と付き合ってたそうじゃない……?」

「えっ? いや、それはその……」


 千歳は白いワンピースと長い髪を揺らし、ちんちくりんの方へゆらゆらと近付いていく。

 その、まるで井戸から這い出て来た貞子さんの様な姿に、ちんちくりんは怯えきった表情で、その場へとヘタリ込んだ。


「ねえ、由姫……三禁を破ったら、柳田橋の上から鬼怒川に全裸でヒモなしバンジーとゆうルールは覚えているわよね……?」

「や……い、いや……そ、そそそそ、それは……あの……お、お互い、引退した訳ですし、その件は時効とゆー事に……」

「へぇ……引退したら、鬼怒姫の絆は終わりだと言いたいの?」

「め、滅相もないッス……」


 壁際まで追い詰められ、完全に逃げ場を失ったちんちくりん。顔中に滝の様な汗を流しながら、オレの方へとアイコンタクトを送って来る。


 ――おいコラッ、北村っ! のんきに茶ぁなんか飲んでないで、助けろっ!

 ――ワリーな。他のチームの内情には口出ししないのが、ヤンキー(オレたち)の不文律だ。

 ――ざけんなっ! 元はと言えば、オマエが千歳さんにバラしたのが原因だろっ! 責任取れっ!!

 ――知るか。そもそも、あんだけイチャこいといて、バレてなかった方がおかしいんだよ。


 オレは、アイコンタクト終了とばかりに紅茶のカップに口を着けながら、そっと視線を逸した。


 ああ~、茶が美味い。


「バンジージャンプは、そんなにイヤ……?」

「は、はい……なにぶん高所恐怖症なもので……」

「そう……じゃあ、私の代わりに、アナタがモデルになりなさい。今回は特別にそれで許してあげるわ」

「えっ……?」


 千歳の出してきた条件。

 ヒモなしバンジーに比べれば破格の条件に喜んで飛び付くかと思いきや、ちんちくりんは眉を顰めて複雑な表情を浮かべた。


「いや、でも……ア、アタシもスカートッスし……てゆーか、むしろアタシの方がスカート短いッスし……」


 あんだけパンツ丸出しで、人の事を蹴りまくっといてナニ言ってんだか……


 まあ、オレには極めて特殊な性癖なんぞないから、たとえ合法だろうとロリの下着など見ても何とも思わんが――そんでも、ヤッパ恵太にワリーからな。それはオレも遠慮したい。


「それは大丈夫よ――とりあえず、コッチ来なさい」


 まるで、売られて行く仔牛の様な目をしたちんちくりんの襟首を掴み、寝室へと引き摺って行く千歳。


 何をしてくるのか知らんが、骨は拾わず捨ててくから安心して散ってくれ。


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