エピローグ
病が篤くなり、国政を執ることができなくなったシャルル王が退位し、めでたく新王が誕生してから一ヶ月あまり経とうとしている。
ちょうど光女神の最後の月が終わり、闇女神の司る季節に変わる大祭が近いこともあり、国中は未だ沸き立っていた。
王都にあるその画廊は、店内のひときわ目立つところにその絵を飾るため、作業の真っ最中だった。
「曲がってるぞ! 違う違う右じゃなくて左だ! 傷なんか付けるなよ!」
画廊の主が神経質な声で指示を出す中、男達はゆっくりと絵を降ろしていく。
大きな絵だった。輝きを抑えた金の額にはめられ、描かれた世界がいっそう引き立って見える。
「うーん、やはり人物画はひときわいいものを描くな」
主は満足げに、少し離れたところから絵を眺めてしきりにうなずいていた。
描かれた世界の中、月が銀の光を投げかけている。
星はない。そこに存在するのは、黒衣を纏った人物だけ。顔は見えず、背を向けた姿で月光を一心に浴びている。おそらく青年だろうということがわかるだけだ。
数年前から、特に人物画のすばらしさで名をあげた画家の手による作品だった。貴族の肖像画も数多く手がけ、作品をこうして展示するのにも大変な苦労をしなければならない。
主があちこち奔走したその成果が、この絵なのだ。
「これは……誰なんだろうな」
いろいろと想像を巡らせようとして、やめる。あの画家の交友関係を知らないのでは、推測のしようもない。この絵が世間で有名になれば、いずれわかるだろう。
「そうそう。これをつけておかないとな」
流れるような飾り文字の書かれた白木の板を、彼は絵の下に取り付ける。絵に与えられた題と共に、画家の名が記されている。
――せめて、月に抱かれし眠りを ミシェール・ブラン――
了
五年くらい前に描いた作品です。(株)パブリッシングリンクのルキアというレーベルから出ている『奇跡の歌は南を目指す』の二年前の物語であり、この作品がなければ『奇跡~』は生まれませんでした。読み返してみたら未熟なところも多い……というかそればかりでしたが、フェオドールのようなキャラクターはもう二度と作り出せないだろうとも思います。ミシェールとフェオドールの関係性は、その後書いた作品にもかなり影響を与えています。
最後までおつきあいくださいまして、ありがとうございました。




