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さかずき

博士はあれから、軍用の制服に着替え、ミツホの部屋のインターフォンを押した。

 着替えるときにはふたばの部屋を使った。一緒にいたふたばは、博士を横目に見るだけで、何も言わなかった。


「入れ」


 すぐに扉が開いて、私服に着替えたミツホが現れる。

 私服のミツホは、上を白とグレーのツートンに、下はトレインの時に来ていたものとあまり変わらない、ピンク色のスカート。足はストッキングで素肌を隠している。


「はい、入ります」


 あくまで冷静に振舞い、事務的に博士は部屋の中心にまで歩いていった。


「……そこ」


 ミツホが、自分が座ったのと反対側のベッドを指差す。

 博士は流れから、反対側のベッドに腰を降ろそうとして、


「なに座ろうとしてんだ馬鹿!」


 服の首根っこをミツホに掴まれて、別方向に倒れる。


「す、すいません」

「博士、なんか様子がおかしいぞ」

「昨日は寝不足なもので」

「それはあたしもだ、昨日は交代で半分も寝れなかった。おい」


 ミツホが真剣な顔をして博士の目を見る。紅い瞳は透き通っていて、博士はすべてを見透かされそうな不安を覚える。

 次に、ミツホの手が博士の頬に伸びて、


「いたっ、痛い!」


 博士の頬を、引っ張った。


「眠気は覚めたか?」


 そしてまたミツホは、つねった指でもう一度反対側のベッドを示した。


「だから、何なんだよミツホ」

「見ろ」


 博士は眉をひそめながら、ゆっくりと指差す先を見る。


「……ん?」


 すると、ちょっとした疑問が湧いた。


「確かミツホって、ひとり部屋じゃなかったっけ?」


 一子が博士に部屋を紹介するとき、一人部屋なのはふたばとミツホと言った。それを博士は覚えていた。


「ああ、あたしは今一人部屋だ」

「じゃあ、なんで向こうにも飾りや模様のついた小物があるんだ?」


 ミツホが座っている側のベッドには、ぬいぐるみやらの小奇麗な小物がある。つまり、二つのベッドに違う装飾が施されている。


「本当は、片付けないといけないんだけどな」


 ミツホが、珍しくしおらしい声で呟いた。

 そこで、博士は感づく。


「もしかして、あっちは葉子さんの?」

「あたりだ、遅ぇんだよ」


 ミツホが小さく笑った。気付いてくれたのが嬉しいのだろう。


「そうだよな、普通なら同じ部隊の人が同じ部屋だよな」

「そうでもない。ふたばさんや隊長は、まったく話さない奴とあえて相部屋にしてる。戦場では、いついなくなるかわからないから」

「ミツホは、そうやって割り切れないだろ」

「……うるさい」


 ミツホがあしらうも、嫌がってはいなかった。

 感情を主にして動くミツホが、理屈から知らない奴を相部屋に選んだりはしない。博士には、一緒の期間が少ないながらも、確信があった。


「ミツホが一人部屋って時点で、気づけたのかもな」


 ばつの悪そうに、博士が頬を掻く。


「博士、あんたには見て欲しかった。博士を助けた人がどんな奴だったのか、まったくわからなくてもいいから、少しでも知ってほしい」

「ミツホらしい理由だな」

「ああ、らしくて悪かったな」


 言って、ミツホは腕を組む。博士の反応を、待っているようだ。

 博士は少し考えて、また葉子がいたであろう部屋の装飾物を見つめる。

 女の子らしく、可愛らしい四葉のクローバーをかたどった模様のクッションとベッドがある。博士にとって、これだけでは葉子と言う人物像はつかめない。


「博士」


 でも、答えなければならない。そんな気持ちを、博士は抱いた。


「そうだな、正直言って、こんな程度で話していい物じゃないと思う。でもそういうことじゃないんだ。見せてくれて、よかったよ」


 博士は理屈で認めさせる内容をいうのではなく、感情で答えた。


「ミツホ、ありがとうな」


 振り返り、博士は葉子ではなく、ミツホにお礼を言った。


「な、なんであたしなんだよ」

「今は、ミツホが葉子さんと、俺のためにやったことだろ?」


 ミツホはその答えに、若干動揺してそっぽを向く。ミツホは博士に対して、明確な答えそのものを求めてはいなかった。

 ただ本当に、博士に知ってもらいたかっただけなのだ。


「ふん、そんなくだらないことばかりだから星二つなんだよ」

「すまん、こういうときばっかり、どうしても上手いことが思いつかない」

「もともとの冗談もくだらないだろうが。だから馬鹿野郎なんだよ」


 博士はそう言われて、困ったように笑う。それが拍子だったのか、場の空気がほぐれていった。


「でも、やっぱあれだったな」


 博士が、得意げに笑いながら声をかける。


「なんだ?」


 ミツホが、まんざらでもない笑いで答えた。


「女の子の部屋に呼ばれるってさ、一般的に考えればもっと期待のできる出来事が起きても不思議じゃ――」

「出て行け」


 その場の空気が固まるような、ミツホの冷たい声がした。

 博士の額にも、冷たい汗が滴る。


「いや、すまん冗談だ」

「葉子のいる場所でくだらないこと言う奴にあたしは手加減しない。三発殴られてから出て行け」

「そういえばそのベッドにあるぬいぐるみ可愛いな!」

「絶対に許さない」


 ミツホが立ち上がり、身構える。と、ここで部屋のインターフォンが鳴った。


「ほら、誰か呼んでるぞ、出ないと」

「どうでもいい」

「……わかった。そこまで言うなら俺も腹をくくる」

「殴られて出て行くのか?」

「殴られもしないし、出て行かない。ミツホをはったおして満足してから帰る」

「……は?」

「ここはミツホの部屋だろ、だったらミツホルールで俺のやりたいことをする」

「ふざけんな! あたしルールってなんだそれ!」


 ミツホが後ずさりながら身構えるも。博士がじりじりと距離をつめる。

 博士はミツホの扱い方をほぼ把握していた。理屈が通用しないなら、ぶつかるしかないのだ。後々のことは、ぶつかったあとで十分何とかなる。


「なに、考えれば簡単だ。ミツホに対応するならミツホになればいい」

「あ、あたしはあたしだ!」


 憤慨したミツホが拳を振り上げる。博士は掌を前にして、ミツホに掴みかかる。

 二人の攻撃が、交差しようとする直前、


「何で! 何で出てくれないのぶっ!」


 突然部屋に跳び入った一子が、二人の攻撃を同時に受け取った。

 びたーんと、いい音を立てて一子が床に倒れた。


「……隊長?」

「隊長!」


 博士は怪訝な顔をして立ち止まり、ミツホはすぐさま一子に駆け寄った。

 倒れた一子は紫のシャツに黒いジャケット、ジーンズと言うラフな服装をしていたが、博士はまず倒れていたその一子にただ驚くばかりだった


「ふぁあああ!」


 倒れていた一子が、力の抜けるような声で立ち上がった。

 博士はその一子らしからぬ言動と行動に、わけが解らなくなった。


「隊長……だよな?」

「そう、隊長」

「あれ、ふたば?」


 そして、開け放たれたドアからひょっこりと、前と変わらぬ軍服に身を包んだふたばが現れる。

 一子がふらふらとミツホのベッドに駆け寄るところを横目に、ふたばに視線を向ける。説明を求められたふたばは、いつも通り淡々と口を開く。


「隊長は、酔っている」

「酔っている? 酒でも飲んだのか?」

「未成年。だから、酔うというプロセスに近い状況を与える水が、ここの基地には支給されている。最近開発されたせいか法律もグレー。未来の技術の勝利」

「酔える水とか……」


 ミツホの心配をよそに、身体に傷一つ無い一子がベッドを占領する。


「あたしだって! あたしだって! 自分が隊長に向いてないことくらい、全然解ってるのー!」

「隊長、あたしのベッドです!」

「馬鹿部下見つけた!」

「ば、馬鹿って、あたしはゲームの脳年齢テストで実年齢より五歳も若かったんだぞ! 馬鹿じゃない!」

「そんなことで得意気になるから駄目なのよ!」


 ふたばはそんなやり取りをどこ吹く風と、さり気無く部屋の中に進入する。

 博士は一子と距離を取ってから、ふたばに聞いた。


「酔うにしてみても、隊長さんがあんな素敵状態になるものかね」

「隊長が酔うのは、いつだってこの状態になろうとするからだ」

「隊長なんてやめてやるぅううううう!」


 部屋のドアが閉まると同時に、一子がとてつもない咆哮をする。

 ふたばは人差し指を耳に詰めながら、反対側の葉子のベッドに座った。


「博士、足が悪いのに立ちっぱなしはよくない」

「あ、ああ、そうだが、隣座って良いのか?」

「葉子がここにいれば、座ってほしいと言う」


 博士はミツホの反応を心配しながらも、ふたばに誘導されて隣に座る。

 ミツホは一子の対応で手いっぱいだったのか、博士が座ったことに気づいていない。


「博士。隊長……一子がリアリストなのは、知っている?」

「隊長が?」


 博士が疑問に思う。

 その答えに対して、ふたばは博士に合わせて言葉を選ぶ。


「隊長は、一見感情と理屈を見極めて、理想の結末を導ける、頼れる人間にも見える。だが隊長の本質は、もっとストイックだ」


 一子とミツホが取っ組み合いになる。もちろんミツホが負けて、押し倒される。


「感情的な面が強く。理想に導くのではなく、高すぎる理想を掲げて、現実でいくつか端折って、結末を作り上げる」

「端折る?」

「一定以上のラインを引いて、そこまでなら隊長は理想を求める。ただ、求めても望んだ結果が出ない可能性が強くなれば、切り捨てる」


 博士は思い出す。一子は無駄だと解っていても博士を育て、初めての戦場で固まっていた博士をギリギリまでサポートしていた。


「彼女は隊長であり、女性だ。自分勝手な理想を掲げて、部下を殺す責任は背負えない。だから隊長は切り捨てて、それが最善だったのだと、自分に言い聞かせる」

「うがぁあああ!」

「うりゃ、うりゃ」


 ミツホが殴りかかるところに、流れるような動作で一子が一本関節技を決める。


「でも隊長は感情的で、自分が弱いからと、ずっとその結末に後悔をする。だから自ら隊長を誇示し、心の奥では自分が隊長に向かないと常々考えている」

「……どうしてそこまでわかるんだ?」

「その後悔が限界を超えると、一子は酔いに逃げる。泣いたりすればいいけど、隊長にはそれができない。もうかれこれ、一年くらいは同じ舞台で戦ってきた、酔いにも付き合った」


 ふたばは、笑いもせず一子をただ見つめる。深く光の無い瞳の奥に、どんな思いを抱いたのか博士にはわからなかった。

 ふと、そこで博士が首をかしげた。


「でも、今回は誰も死んでないし、後悔するほどのことが?」

「隊長のルームメイトが死んだ」


 博士の肩が、びくりと震えた。


「隊長はたぶん、まったくその子とは話もしなかったはず。合理的な生き方をして、負担を軽くしたかったのかもしれない」


 酔った一子が、ミツホを倒してから、フラフラとおぼろげな視線を天井に向ける。


「でも、隊長は割り切れなかったと」


 博士が先に、ふたばの言葉をとった。

 ふたばは頷く。


「まったく話さないルームメイト、でも死んだときに相当なショックがあったのだと思う。そんなやっていることと考える感情のズレが、今日の限界理由」


 一子が潤んだ目で笑い、ふたばに標的を移した。

 ふたばはすぐさま腕を前に広げて、一子を押し返そうとする。


「なんで、この話を俺に?」

「今後のために、隊長を嫌いになってほしくないから。それに、隊長だって隊長じゃなければ酔ったりする必要は無いんだ」


 ふたばの手が震える。一子の怪力に身体が押され始めていた。それでも真摯な声で、博士に告げる。


「隊長はいつも。自分が隊長であるべきか悩んでいる。本当に指導者に向いているものは、自分のことを指導者たる人間とは思わない。それを自覚しない人間は、自分を慕う人間にしか指導が通らないからだ」


 歴史上の指導者は、自分に自信を持っていて、従わない敵国には攻撃をした。

 一子は、敵国であろうと和解を望み、本当の理想を悩み、結局は敵を攻撃する。

 行動に違いは無い。前者が遥かに楽なだけだ。


「本質的にミツホは熱く、一子は暖かく、博士は冷たい。不揃いな四人をまとめようと努力して、それが続けられるは一子だからだと、思う」


 ほぼベッドに横倒しになったふたばが、押し倒している一子本人を褒める。それはとても奇妙な形だったが、博士は別の意味で笑った。


「ふたばも冷たいけど、案外熱はあるんだな」

「失礼なことをいう。女は誰も、暖かくなければ」


 ふたばは、暖かみを感じ取れない口調で言った。


「隊長! あたしを忘れるんじゃねぇ!」


 ミツホが後ろから、一子を羽交い絞めにする。ふたばとミツホの二人からの力を跳ね返して、一子は更に押し通る。


「博士! ぼさっとしてないで手伝え!」

「え、あ?」

「隊長が酔っているときは、とことん暴れ付き合う。それがあたしらバサクルの掟みたいなもんだ」

「そんなの、決まってない」

「ふたばさんは余計なこと言ってんじゃ……言わないでくれ!」


 ミツホの叫びに、一子が一瞬怯んだ。ふたばはその隙を突いて、ベッドからすり抜ける。

 ミツホとふたばは、最初から嫌々ではなく、どうせならこの場を楽しみたいと言う感情から一子に付き合っていた。


「ぼっ!」


 一子が、ベッドシーツに頭から倒れる。

 そんな情景を博士は見て、少しだけ和んだあとに立ち上がった。


「わかった。手伝うよ」

「隊長なんてやめてやるわぁ!」


 一子が叫び、狙いは博士に定まった。


「とりあえず、酔った隊長も色気があって楽しそブボォ!」


 博士は格好つけて向き直ろうとして、一子の平手に身体が吹っ飛ぶ。


「どうしてくだらない言葉しかないの! くだらない言葉はよくあることなの! くだらない言葉すら持ってないの!」

「ま、まって!」

「早く立ち上がるんだよ博士!」


 ミツホはまだ、一子を羽交い絞めしたままだった。それでも自由に動く一子が強すぎた。


「隊長、ベッドの下に部下が隠れています」


 ふたばが機転を利かせて、一子をベッドに誘い込む。

 両手を離したミツホが、博士の隣で尻餅をつく。二人で目を合わせて、表情が柔らかくなる。


「ふたばさんがあれを話したってことは、少なくとも博士はうちの一員として認められたんだな」


 ミツホは一子に警戒しながら、部屋の入口で何かを見つけ出す。それは缶の飲み物がダンボールでつめられていた。アルコールの無い、酔いを誘発する例の水だった。

 躊躇無く、ミツホはその缶を一つ飲み干した。


「博士も飲め、日本で言う杯だ」

「なんでみんな、そんなに体育会系なんだよ」

「関係ない。酔った相手には酔って対応するのが一番だ」


 博士は差し出された缶にたじろく。酔ったことも無い博士には、そんな飲み物は恐怖の対象だった。

 だがそこで、いつの間にか背後にいたふたばが、目の前の缶を掠め取り、ミツホと同じように飲み干した。


「博士、ミツホがあなたを認めている、どうせなら、バサクルに入ってほしい」


 今度はふたばが、また新しい缶を差し出す。

 博士はその言葉に、一種の衝撃を受けた。

 仲間になってほしいという、意思表示。

 それは博士にとって初めて受け取る感情で、その中には利害もあるだろう。


「ばっ、あたしをダシにするな! ふたばさんだってそうだろうが! あたしは、こいつが仲間でも悪くないって程度だ」


 でも純粋に、博士はその言葉に感激した。目が潤み、それを隠すために缶を受け取った。


「初めて言われたよ、そんな告白」

「うるせえ!」

「隊長なんて、ちゃいちょうなんて!」


 ミツホが叫ぶと同時に、酔った一子が起き上がる。

 ふたばが身構えて、また博士にささやいた。


「隊長も、隊員の博士だからこそ、こう酔っていられる」

「よっしゃあ!」


 ミツホの目が据わる。酔いが回り、俄然気合が入ったのだろう。


「今日の戦いで、みんな博士の力を評価している」

「ふたばもか?」

「そう」

「俺は死にたくなかっただけなんだ。でもさ、ここで友達を作るのも、なんだか悪くないと思えるよ」


 博士も早速、手にした缶を一気に飲み干す。味はしなかったようだが、身体が火照り、視界がぼやけ始めたようだ。

 ただ死を待っていた博士に、初めて友達ができた。胸の爆弾、無実の罪、軍でのスパイ容疑、乗り越えなければいけない課題はまだまだたくさんあるけれど、博士にはまだ希望があった。

 だから、また明日も頑張れると、博士は願う。



 あれからしばらく、まだ日も落ちないうちに暴れまわったバサクルと博士は、ミツホの部屋で皆倒れていた。

 博士は酔いに頭を痛めて、体をうずくまっている。

 ミツホは床で寝ながら、気持ち良さそうに博士の頭を蹴り飛ばしている。

 一子は、一人ミツホのベッドを独占して、すやすやと寝息を立てている。

 そして、ふたばはミツホのベッドに寄りかかりながら、床に腰掛けていた。目は覚めている。


「隊長」


 ふたばは一子に反応を期待しないまま、独り言を呟いていた。


「隊長は一度、博士が星二つしかないのは、計算方法が間違っていると言っていた。それであってる。博士の評価は前線戦闘型のトレインと同じ評価を受けた」


 ふたばは寝ている博士を見つめ、その博士が蹴られているのをじっと見つめる。


「博士自身の攻撃で仕留めなかったチェストがほとんど。だからその分、止めを刺したバサクル全体の星が一つ上がっていた。そう考えるのが、妥当だと思う」


 ふたばも酔っているのか、博士とミツホを見て、本当にかすかな微笑を浮かべた。すぐもとの表情に戻って、話を続ける。


「でも、でもそれだと、おかしい。全体の星を一つ上げると言うことは、博士の星二つに三を足すなんて、簡単な計算じゃない。五から六に変わるということは、四から五を数回変えるよりずっと難しい。それを二回、博士はやったことになる」


 一子が寝返りを打って、布切れの音がした。ふたばの声に反応は無かった。


「それだけでも、博士は星六つの実力がある。それに加えて博士は、二回の戦闘のうち、一回を逃げた。時間平均の撃対数で評価する計算なら、博士は実質二倍の戦果を上げられる。しかも博士は、二回目の戦闘でトレインが半分も無い、ミツホのトレインで戦ったのに、これだけの戦果を上げた」


 ふたばが、一子から落ちた毛布をまた掛けなおしてやる。ミツホと博士にも、葉子のベッドから毛布をかけたが、いつの間にかミツホが、博士の分も奪って一人で毛布を使っていた。

 二人均等に掛けなおして、ふたばは一度、博士の寝顔を見つめた。


「博士、君は自分が思っているよりも、ずっと強い。もしかしたら、この場所にいる誰よりも、人を助ける力がある」


 ふたばは理屈で、博士の力を認めて評価した。博士は一子の弱さも見、ミツホの感情とも打ち解けた。


「その力で、皆を守って欲しい。私も歓迎する」


 博士の頭を撫でながら、ふたばは一人笑みをこぼす。


「今の君は、とても綺麗だ」


 呟きを最後に、この部屋に沈黙が戻った。


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