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三匹の鬼 19

3色目        『三匹の鬼 19』


俺はあの日・・・何かを見たんだ・・・。




「あら、やっとお帰りになったの?」


公覆の病室へ向かう最中、タイミング悪くその人に出会ってしまう。


「あ・・・婦長さん・・・」


「3日も意識が戻らなかったのに、起きたらすぐどこかへ居なくなる


なんて・・・


おかしな身体をお持ちなのね。君ヶ主さん」


「す・・・すいません!どうしても行かなければいけない場所がありまして」


私は何度も頭を下げて早く、開放して貰おうとしていた。だけどこの婦長、


話を始めると本当に長くて・・・結局その場から離れるまで10分も時間を


ロスしてしまった。


はぁ・・・最悪・・・最悪だよ!公覆。








文台が・・・文さんがまた入院してしまい・・・


そのお見舞いに行ったある日・・・


何かを・・・そう・・・文台や俺が通ってる高校の制服を着た生徒を・・・


見たことの無い顔をしたその人間を見て・・・










「では、治癒するまではしっかり病室にいること」


「はい。本当にすいませんでした」


最後の締めとして深々とお辞儀をして、何とか婦長から切り抜けて公覆の居る


病室へと向かい歩き出す。すると、なぜかまた婦長に呼び止められた。


「あら?君ヶ主さん、病室は逆よ?」


・・・もう・・・しつこい人だなぁ・・・。


「あ・・・あの、私・・・知り合いに挨拶してそれから戻りますので」


「知り合いって?どなたか入院しているの」


なんでそんなことをあなたに言わなきゃいけないのよ!!もう、


個人情報駄々漏れじゃないの。


「ちょっと・・・あははは」


こうなったら走って振り切ろう。私はそう思い走ろうとしたところで婦長は声を上げる。


「あぁ!弟塚さんね。そういえば前もあなたのお見舞いによく来ていたものね」


「・・・」


なんでそこまで把握しているのよ!!もう・・・退院したらこんな病院、二度と受診しに


なんか来ないんだから!











何となく・・・そう、本当に何となくその人の跡を追って見て・・・それで・・・






・・・それで・・・?





それで・・・・・・見た・・・んだ・・・







・・・何を・・・?







・・・何って・・・えっと・・・それは確か・・・






・・・確か・・・?









・・・・・・・・・とても気色が悪い・・・・・・・・・・・・・・・・・










「・・・」


はぁ。もう、だめだ・・・。


私は弟塚家の倉庫から持ち出したナイフを胸に仕舞い込みながら、


なぜか婦長と並んで公覆がいる部屋に向かって歩いていた。


・・・だめだ、作戦失敗。今日公覆を殺すのはタイミングが合わないから


明日・・・いや、深夜にでも病室へ忍び込んで仕留めるか?


それともこの際、このウザい婦長を・・・、被害を広めても仕方がないか。


「・・・はぁ・・・」


私は一体、何がしたいんだろう。この手で公覆を殺して・・・


それで全てが解決する訳では無い。


寵愛さん家族の気持ちが晴れることも、弟君たちの公覆への疑念も払拭される


ことは出来ないだろう。


それに私の妹たちだって、もしかしたら私が公覆を殺したのを知ったら、もう私に


笑いかけてくれなくなるかもしれない。


結局、何をしたって許されることは無いんだ。


これ以上、何をしても誰かの心が救われることは絶対に無い。


だけど・・・だけどそれでも私はせめて最後のけじめとして、恋人であり妻である


私が彼の命を奪ってせめてもの詫びをしなければ。


そして願わくば、それをきっかけに皆でまた新しい一歩を踏み出して貰いたい。


犯人の死亡と、その妻の自害によってこの事件を終息に導く。


それが私に出来る最後の贖罪だ。だからこうして、ナイフまで持ってきたって


いうのに・・・


何で・・・何で着いて来るのよ、婦長!


「弟塚さん、どうかしらねー」


「え?」


「あまり状態が安定していないし、心配だわ・・・」


「・・・」



婦長の言葉に私の心は少しだけ動揺してしまう。


これから自分の手で殺そうとしている相手だというのに、それでもまだ私は


公覆のことを心配していた。


意識は戻るのか、また私に笑いかけてくれるのだろうか。


そんな・・・おかしなことを考えてしまって・・・。


私は、どこまでも愚かなのだろう。贖罪だ、事件の終息だ、そんな風に偉そうなこと


ばかり言いながら結局心の奥底では、今でも彼のことを愛し、このまま二人で


生きて行きたいと願っている。


この町での殺人なんて大した罪じゃないのだから、平然と生きて行けばいいんだ。


心のどこかで自分はそう思ってしまっていた。


・・・本当・・・馬鹿は死ぬまで治らないね、公覆。




病室の前、足を止めて扉越しに彼のことを想う。



私を助けてくれた、愛していると言ってくれた、愛する貴方。



今はまだ殺さないけど、すぐに私が殺してあげるから。



だから私達、幸せになりましょうね。





―二人揃って死んでから・・・。





ガラッ







扉を開けると、彼はベッドの上で静かに眠っていた。



だけどそれは薬の所為では無くて、




腹部を裂かれて心臓だけ取り出されてしまった所為で。






「・・・・・・公・・・・・・覆・・・・・・」





立ち尽くす私の後ろからひょっこりと顔を出し、それを確認すると婦長は


軽い口調で呟いた。








「あら、弟塚さん、死んじゃったのね」

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