表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/33

三匹の鬼 17

3色目        『三匹の鬼 17』


「これ・・・」


引き籠り生活から抜け出した私とずっと家に居てくれた子考の二人でやっと


庭に落ちたガラス片や木の枝などの整理をしていたら、それは出てきた。


文台がいつも身に着けていた変な四角い物体がぶる下がっているネックレス。


どうしてこんなところに・・・。


「どうしましたか?我が主」


「うん、いや文台のネックレスが落ちていたから」


私は何となくそれを子考に渡す。するとそれを見た彼は声を上げて驚き、


そして口元に手を当てて一人何かを考え込んでいた。どうしたっていうの


かしら?


「・・・我が主・・・」


「何よ」


「姉君はこれ以外に何か持っていませんでしたか?」


「何を」


「えっと・・・そうですね。なにか幸運を呼び込むようなアイテムとか


お守りとか・・・」


「お守り?」


・・・お守り・・・。あぁ、そういえば。


「そういえば何かやたらとネットで注文していたわね。『幸福お招き堂』とか


『開運なんでも訪問屋』とか如何わしい送り先から何度か家に荷物も来たこと


あるし。でも昔からじゃないのよ、確かあれは・・・」


私が記憶を探っていると、子考は徐に呟く。


「うちの馬鹿兄貴が事件を起こした頃じゃないですか?」


「・・・」


事件が起きた頃・・・。彼女が学校をずっと休んでいたあの頃に・・・。


「・・・・・・そうえいば、そんな気もしないでも無いわ」


「やっぱり」


「どういうことよ、子考」


問いただすと、子考は少し戸惑いながらも私に自分が導いた仮説を話し始めた。


「このネックレスに付いた印鑑、これは町の神社で売っている物なんです」


「そうなの?初めて見たわよ、こんなの」


「俺も今初めて見ました。しかし、本当に売られているなんて・・・驚きです」


「ねえ子考、これは一体何?ただのチャームじゃないの?」


「噂によると、それは確実に願いが叶うお守であり、しかしその願いの代償に


買った本人を必ず不幸にすると言われている曰く付きのお守りです」


「買った本人が不幸になる?何それ、ちょっと酷いんじゃない」


なんでそんなものを文台は・・・。


「これも噂なんですが、このお守りの効力は自分以外の誰かのことを思い願った時に


初めて現れると聞いています」


「つまり文台がこれを買ったのは公覆さんのためだと?」


「憶測ですが」


「・・・」


「その効力は絶大で絶対に願いは叶うそうです。だけどそれを願った本人へは


代償として様々な不幸や災いが訪れる」


「代償・・・」


「例えば相手が何か犯罪を犯していれば、それに見合った罰を受けなければいけない。


もし相手の病気を治したいと願ったのなら、願った本人がその人の病気を肩代わり


しなければいけない。そういう意味での代償だとか」


「じゃあ人殺しの代償は」


「自らの命を絶ち、殺してしまった相手や家族へ詫びなければいけない」


「・・・」


「・・・」


その話を聞いて何となく疑問が一つだけ解けた。


文台がいつも怪我をしては入院を繰り返していた理由。あれはこれの効力なんだ、


だから毎回毎回おかしな流れで事故に遭遇しては生死を彷徨いながらも文台はしぶとく


生き延びていた。それは多分、このお守り以上の力を文台本人が・・・それか私たち


君ヶ主家の人間だけが生まれつき持ち合わせていたからなのかも。


「身代わりになっていたのね、文台は。公覆さんの代わりに・・・」


「幸運を呼び込むなどと言ったオカルト商品を買ったのも、多分そういう理由から


ではないかと」


「どんな罪を犯した人でも、好きな人には幸せになって貰いたかった。


だから文台はその代わりとして罰を受け続けながら、同時に彼に幸せが訪れるように


色々なアイテムを集めて願い続けた・・・」


「・・・憶測・・・ですがね」


成程、あの子らしいと言えばあの子らしいか。


内気であまり明るい性格じゃなかった文台を今の様に変えてくれたのは


公覆さんだから。


だからそれのお礼をこんな形でしか返せなかった文台。


・・・はぁ、性格が明るくなったとはいえ今も変わらず奥手か。


「でも結局、公覆さんにその罰は下ってしまった」


「えぇ・・・」


「・・・」


「・・・これも噂なんですが」


「まだあるの?」


「はは、これで最後です。・・・このお守りの効力を止める方法が一つだけあって、


それは願いをかけられた当人がお守りに触れること。そして同時に自分が犯した罪に


ついて悔い改めること。


そうすれば願いをかけた人への代償は無くなり、代わりに本来代償を受けるべきであった


本人へとそれが下る。と」


「・・・そう」



子考の話をぼんやり聞きながら私はそれをハンカチに包んでポケットの中へと忍ばせた。



庭の掃除を手早く済ませると、二人でそれを持って家から一番近い神社へと向かい歩き出す。


こんなオカルト染みたものはもう、要らない。


だって公覆さんはしっかりと自分の罪を認めて罰を受けたのだか・・・


それでいいじゃないか。


私達三姉妹や子考達三兄弟がこれ以上、苦しい思いをしなくちゃいけない理由は無いんだ。


そうだ、そうしよう。


そう考えれば・・・・・・きっとみんな、少しだけ幸せになれるわよね?






だからこれで事件に関わる全てのことはお終いってことでいいかな、本初。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ