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三匹の鬼 15

3色目        『三匹の鬼 15』


私は自分の人生を境遇を恨んでいた。



「・・・え?」


弟君たちの言葉に私の手が止まる。


雲くんが


「ねえねえ、文ちゃん。この間、兄貴とどこまでしちゃったの?」


とか。


子考くんが


「馬鹿。そういうことは二人だけの秘密だから俺たちが聞いちゃ


いけねーんだよ!」


とか。


私に向かって楽しそうに聞いてきたから、だから私はどうしようか


分からなくて、でも付いてもいい嘘は有ると思ったから


「えへへへへ。二人にはナイショ」


そう言ってあげた。そしたら二人は顔を真っ赤にして何か言い合いをしていた。


「おいおいおい、公兄ちゃんってば、まさか・・・」


「待て待て待て、公覆兄さんにしてはちょっと手を出すのが早すぎないか?


本来、男女の付き合いというのは~」


「だー!!!兄貴はそういうところ頭固すぎだろ。だから孟徳さんに振り向いて


貰えねーんだよ」


「バッ・・・、それはどうでもいいだろ!」


なんだかとても楽しそう。


でも、私の心は全く晴れることが無く寧ろどんどん雲行きが怪しくなってきたから


もう一回、嘘をつく。



「ちょっと、トイレ借りるね」



居間を出た私は、こっそり二階にあるみんなのお部屋に向かう。


部屋の中には学習机が三つ、L字のように置かれていた。この机は亡きおじさまが


雲くんが生まれた時に三人へ贈ったプレゼントだって話を昔、公さんに聞いたっけ。


しかも三つとも同じメーカーの同じ柄の机でどれが誰のものか分らないからって、


おじさまたちには内緒で机の上にそれぞれの名前を彫刻刀で掘ったら、


後で凄く怒られた・・・とか、楽しそうに教えてくれたな。


「・・・」


部屋の中に入り「公」の字が掘られている机の前に行くと、指で掘られた部分をそっと


なぞる。


公さんの「公」、公覆の「公」。



私の大好きな人の名前。



「・・・公さん・・・」


ねぇ、公さん。私に何か隠しているの?



この間って、何。



弟君たちが言っていたようなこと、私まだ公さんとはしていないよ。



だって公さんが・・・。



「・・・ん?」


ふと下を向くと、一番上の引き出しが微かに開いている。


その中へ夕日が差し込むと、中でなにかが輝き出す。


「・・・」


それがとても気になって、私は無断で彼の引き出しを開けてしまう。


中に入っていたのは少し濁りがある金色の・・・・・・。





「あ」



それを見た瞬間、私は直観した。


これが何なのか、なぜこんなものがここに入れられているのかを。


それを理解したから私は引き出しを元の位置まで戻してそっと部屋を出ると駆け足で


階段を降りて行き、早々に家を出て行こうとした。


「あれ、文ちゃん帰っちゃうの?」


「公覆兄はもうすぐ帰って・・・」


「ごめんね。実は急に友達から連絡が入って。


その子の家に行かなきゃいけなくなっちゃったの」


三度目の嘘。それに気づいていない二人は私を疑うこともせず、納得してくれた。


「そっかー。文ちゃんの手料理食いたかったなー」


「わがまま言うなよ。文台さん、俺たちのことは気にせずお友達のところへ


行ってください」


「本当にごめんね・・・」


嘘ばっかりついて、ごめんなさい。胸の中で二人に謝りながら私は自分の家に帰った。


戻ってから1時間経った頃、公さんからメールが来ていたので戸惑いながら開くと、


そこには昔から変わらない優しい思いやりのある言葉が綴られていて、


それが逆に怖く思えた私は彼にメールを返すことも無く部屋の中で一人


これからどうすべきなのか思考を巡らせる。




一人の少女を乱暴して殺したそんな男でも、それでも彼は私にとって大切な人。



お父さんに捨てられて、見知らぬ腹違いの妹二人と突然ひとつ屋根の下で


暮らさなければならなくなったあの頃、私は一日でも早く死にたかった。


「玄徳ちゃんて普段からあんな感じなの?」


道場に登る途中、弟塚のおばさまにまた声を掛けられる。


玄ちゃんが毎朝、おじさまに朝食を貰いに行くようになってそのお迎えをしに来てから


ずっと、毎日毎朝おばさまは声を掛けてきた。それもいつも同じ内容を話すために。


「あ・・・そう・・・ですね」


私はこの人が苦手だった。


孟ちゃんと一緒に来るときは、孟ちゃんが撥ね退けてくれるのだけど一人で迎えに


来るときは撥ね退けることも出来ず、ただ言われるまま何も言い返すこともせず、


階段を登り続ける。


「お姉さんとしては大変ね」


「・・・はい・・・」


「知ってる?みんな声に出しては言わないけど、玄徳ちゃんのことね皆


気味悪がっているの。


当然よね、人間が人間の肉を食べるんだもの」


「・・・はぁ・・・」


「どうして死なないのかしら」


「・・・」


「ねえ、文台ちゃんだって心の中ではそう思ってるんじゃないの?あの子はなんで


同じ人間の肉を食べているのに、天から罰を受けないのかって」


「・・・そんな・・・そんなこと・・・」


「思ってるよね?」


「っ・・・・・・・」


おばさまがなんでここまで私たちに嫌がらせをするのか、


玄ちゃんのことを目の敵にしているのかなんて子供の頃の私達は知る由も無かった。


そんな毎日を送り、学校の中でも転入生だからといってクラスの子が気を掛けてくれる


こともないから、教室の中ではいつも一人ぼっち。


同い年の子に相談したくても話す相手がいないし、内気な性格だったから


積極的に声を掛けに行くことも出来ない。


孟ちゃんは師匠のことばっかり気になっていておばさまのことを重く考えては


いなかったし、玄ちゃん本人にこんなことを言ったら、きっとおじさんのことを想って


食事に行かなくなっちゃうかもしれない。それだけはダメ。


折角おじさまのおかげで食事を取るようになったのに、


また前みたいに何も食べないでいたら今度こそあの子は死んでしまうかもしれない・・・。


結局、誰にも相談ができず私の心の中にはどんどんストレスが蓄積されていきある日の朝、


極限まで溜まっていたストレスが一斉に溢れ出し私は教室の中で意識を失い床に倒れた。



「・・・・・・」


目が覚めても身体は一向に動かず、むしろこのまま寝たきりの状態になりたいとさえ願う。


そうすればあの階段を毎日登らなくてもいいし、嫌味を言われることも無いし、


誰かの心配をしなくてもいいのだから。


皆、私はベッドに放置されたままでいいから、好き勝手やりなよ。その代り、もう二度と


私はあなたたちのことを心配もしない、気に掛けない、何も思わない。


だからあなたたちも私のことはどうか放っておいて欲しいの。


飲まず、食べずを続ければいずれこの身体は停止する。私は死・・・



「大丈夫?」


「・・・・・・ぇ・・・」


声を掛けられた。


「・・・」


身体を起こさず、視線だけを声の主へ向けて見る。


そこに居たのは少し大人びた雰囲気の少年。どこかで見たことがあるような・・・。


「ぇ・・・っ・・・と・・・」


この子は誰だっけ?見たことがあるんだけど名前が思い出せない。


「あ、もしかして名前忘れられた?」


「・・・んっ・・・」



「そ・・・そう。そうなんだ。あ、あははははははは。俺、一応君と同じクラスの人間で


しかも結構君とは長い付き合いなんだけど・・・」


頬を赤くしながら髪を掻くその姿を見ても、やはり私は名前が出てこなかった。


「・・・・・・ごめ・・・っ・・・い」


「え?」


「ご・・・めんな・・・さ・・・い」


私やっぱり何も思い出せないの。だから彼に謝った、こんな私の様子を見に来てくれた、


とても親切な人なのに、私はあなたの名前がわかりませんって。


「あ、謝らないでよ!!文ちゃ・・・じゃなくて、君ヶ主さんが謝ることは何も


ないんだから!本当に、本当に謝る必要なんて0だから!だからとりあえず、


自己紹介だけしてもいいかな?」


「・・・んっ・・・」


小さく頷くと、今度は彼の表情が明るくなる。なにかうれしいことでもあったのだろうか。


「えー・・・あー・・・えー・・・、俺の名前は公覆。弟塚 公覆だ!」


「・・・」


名前を聞いた瞬間、嫌な顔が一瞬だけ横を通り過ぎてその後、先生やおじさまの顔が頭に


描かれる。


「君、あれだよね。俺の父さんが働いている道場に引っ越してからずっと通っているよね?」


質問に頷くと、公覆と名乗ったその子も頷いた。


「だよね。で、一応俺は君と同じクラスの人間で保健係。だから君の様子を見に来た」


「・・・?」


役目を果たしただけだ、とでも言いたいのだろうか。


「だから・・・だから決して、やましい気持ちを持ってここに来た訳では無いんだよ?」


「?」


えっと・・・この子は何が言いたいの?考えるとまたストレスが溜まるから寝ようかな。


うん、寝よう。


「・・・あの・・・」


「ん?なんだい」


「私・・・もう少しここで寝るから・・・」


「そ、そう・・・」


残念そうな声色でそう言うと、彼は私から離れて行き仕切りのカーテンを手で掴んだ所で


振り返り、私に話しかけた。


「君ヶ主さん」


「・・・・・・はい」


「また、様子を見に来るから」


「・・・はぁ・・・」


それだけ言って、今度こそ部屋を出て行く弟塚 公覆くん。


それを確認してから今度こそ私は瞳を閉じて眠りにつく。



その日以来、彼は何か私に話しかけてきた。


授業の後、給食のとき、掃除当番で一人掃除をしていたとき。


話題も無いのに話しかけてきて、でもお互い話すことは何もないから結局2人で


黙り込んじゃったりしてた。それでも私は少しだけ楽になれた気がする。


家族以外の誰かと、同い年の公覆くんと話をすることによって私の内気な性格は少しだけ


明るくなっている気がした。だけど、彼の顔を見るたびに彼のお母さん、おばさまの姿が


過り私は彼に心を許すことは無く、話をしていてもどこか距離を置いて接する。


そんな微妙な距離を保ちつつ、しかし確実に私と彼は近づいていく。





「これ」


「・・・私に?」


あるとき突然、公覆から渡されたのは青いカチューシャ。


「うん。文台に似合うなーって思ってさ、すぐに買っちゃったよ」


「ありがとう。あ・・・でも高かったでしょ?お金返さないと・・・」


「なっ、何言ってんだよ!こ・・・これは・・・これは文台への


プレゼントだから・・・。


金とか、本当、そういうのは要らないから」


「・・・公覆・・・」


「何も言わず受け取れよ。俺とお前は友達なんだからさ」


「・・・・・・っ」


友達、そう言われた瞬間に私の目からポロポロと涙が零れ落ちていた。


悲しくなんてないのに、うれしいよって言いたいのに、私は涙が止まらず


声を出すことすら出来ずにいた。


「うっ・・・くぅ・・・ううう・・・」


「おいおいおいおい泣くなよ、なんで泣いてんだよ。俺のこと嫌いなのかよ」


「っ・・・ち・・・ちがっ・・・」


声が擦れて上手く言えないのがもどかしくて、何度も首を横に振って否定をすると


気持ちが伝わったのか公覆くんは納得したみたいで、少し恥ずかしそうに呟く。


「き・・・嫌いじゃないなら、いいよ」


「ん・・・」


今度は首を縦にゆっくりと一回だけ動かす。「うん、ありがとう」そう、意味を込めて。


公覆くんはそれから何も言わず、ずっと私の頭を撫でてくれた。優しく、ゆっくりと、


撫でてくれて・・・うれしかったよ、公覆。





それから暫くして、公覆のおじさまとおばさまが亡くなる。


先生はおじさまのお兄さんだったけど「アイツへの恩は売り切ったから、子供たちの面倒は


見ない」そう言い切って、結果この町の大人全員から見放されてしまった公覆たち3兄弟は、


3人の子供だけであの家に住み続けなければいけなくなった。



何かしてあげようとしても、先生が絶対に手を出すなと強く言って来るから


おかずを作ってあげることもできず、それでも出来うることはしようと思い何度も


公覆たちの家に行っては世間話や学校での出来事などを話して、みんなで笑い合う。


少しでも気持ちが和らいでくれればいい、


そんな思いで二日に一回は弟塚の家に足繁く通っていたというのに、それなのに・・・


私は気付いてあげることは出来なかった。


おばさまとおじさまが亡くなったあの日から、




公覆の中で何かが崩れ始めていたことに・・・。

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