表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/33

三匹の鬼 10-10

3色目        『三匹の鬼 10―10』


これからとてもご都合主義なお話をしよう。




あの日、妹を一番初めに見つけたのは彼だった。


私達家族が夜通し探しても見つけられなかった大切な妹の遺体を彼は


あっさりと見つけてしまう。


朝。


いつもの通学路を歩いていたところ道端に倒れている全裸の妹を見つけた彼は、


急いで警察へ連絡をしようとした。


だが、あるものを見つけた彼は携帯電話を一度ポケットへ入れてから、


そっと遺体に近付く。近付いて、目に入ったそれをゆっくりと引き抜いていくと


ポケットティッシュに包み、無くさないようにランドセルの中へ仕舞い込んだ。



20分後、通報を受けて警察が遺体を回収しに来る。



そして私たちのところへ事務的に妹の遺体が見つかったので取りに来てほしいと


連絡が入った。


現場には凶器も手掛かりも無く、この町の警察自体が現場検証も遺体解剖も


しないので結局、犯人の手掛かりも掴めないまま妹の身体は骨となり、


小さな白い壺の中に納められてしまい犯人が誰なのか分からないまま


月日が流れ・・・、


そしてあの雨の日の朝、数年ぶりに彼に会う。



最初、本当にそれが彼なのか私には分からなかった。


全身痩せこけてしまい、中学生とは思えないほど老けてしまった髪の毛と


生気の無い表情。


言い方は悪いが薄汚いつなぎ姿の彼と名乗る男は大雨の中、傘も差さずにうちの前に


立っていた。


とりあえず家の中へ招きいれようと思い玄関先まで連れてきたが、彼は家の中に


入ることを頑なに拒んだ。



『公路が居た家を汚すわけにはいかないから』と、ぼそりと呟くと彼はポケットの


中から一枚の紙を取り出して私に渡してきた。


その用紙だけは大切そうにビニール袋に入れられており、綺麗なまま保存されている。


袋から出して、用紙に目を通す。どうやら何かの鑑定書のようだった。


「これは?」


私の問いに彼はゆっくりと口を開きながら答える。


「公路・・・殺した・・・犯人・・・」


「・・・え?」


「毛・・・拾って・・・一致した・・・」


「毛?」


「・・・公路の・・・股間に・・・て・・・いた・・・毛・・・」


「・・・・・・」


「ずっと・・・・・・ずっと・・・・・・探して・・・・・・見つ・・・け・・・」


最後の言葉を言い終える前に、彼はその場に倒れ込んでしまう。急いで救急車を


呼んだけど、間に合うことは無かった。


過度の疲労が蓄積していたことによる過労死。医者はそう言っていたけど、それでも


彼はまだ中学生だというのに、どうしてそんな歳の子が過労死なんて


しなければいけないのか。


その時の私は分からなかったが、その理由を教えてくれたのはお葬式当日に出会った、


彼の年の離れたこの町から出て行ったお兄さんだった。



「鑑識課・・・?」


「そう」


彼のお兄さんが警察に勤めているという話は公路から何となく聞いていたが、


まさか鑑識の仕事をしている人だとは。正直、私は驚いていた。


「俺たちの父親もね、昔この町で殺されたんだ」


「・・・」


「道端でナイフが刺さった状態で見つかってね。だけどこの町の警察は何も調べては


くれないだろう?


だから結局、犯人も逮捕されないまま親父の死はただの殺人ということで処理されて


しまった。俺はそれがどうしても許せなくてね、それ以来この町には不信感しか


抱けずにいた」


「だから家を出て遠い町へ?」


「あぁ。こんな町は早く見切らなければいけないって思っていたから。


そして生活が落ち着いて金銭面でも余裕が出てきたら、母さんや弟をこの町から


連れ出して向こうで家族三人で暮らして行こうって・・・思ってたんだけどね・・・」


「・・・ごめんなさい・・・」


「え?」


「あなたの弟さんを殺したのは・・・きっと私たち家族なんです。私達家族が持ってる


財産全てを使い切ってでも全力で妹を殺した殺人犯を探し出そうとすればよかったんです。


それなのに・・・うちの母が妹の遺体をこれ以上見続けることは出来ないって、


発見された日の夜には火葬してしまって・・・、唯一の手掛かりを全部・・・


燃やし・・・ちゃっ・・・てっ・・・!!!」


あの頃の日々を思い出すだけで私の胸は苦しくなり、自然と涙が溢れ出てきてしまう。


横にいる彼の方が、今一番泣きたいはずなのに・・・。


「そんなことない。君が弟のことで責任を感じることは何もないんだ」


「で・・・でも・・・」


「いいんだ、いいんだよ」


そう言って、彼は一度席を外す。その間も私は人様の家だというのに、


メソメソと泣き続けていた。



十分位たった頃、部屋に戻って来た彼が持ってきたのは大量の大学ノートとアルバムの


ようなもの。


「・・・これは?」


「弟の功績だ」


優しく微笑みながら彼は一冊の大学ノートを私に手渡す。


ハンカチで目元を軽く押してから、渡された大学ノートを開いてみる。


「・・・なっ・・・」


開かれたノートの中身。そこには男性と呼ぶにしてはまだ若い男の子たちの写真が


何枚も張られその下には写真の人の名前と思しきものと、学校名がびっしり几帳面に


書かれている。


そして写真の横には何か糸のようなものが一本、または数本セロハンテープで


留められていた。


しかしよく見れば、それは糸ではないことがわかる。


糸よりも重く艶があり、それぞれ黒や茶色など色の違う物。


「・・・これ・・・髪の毛ですか?」


顔を上げて顔を見ると、彼は深く頷いた。


「そう。これは全部、弟が一人で集めた男子生徒の髪の毛だ」


「なんでそんなものを・・・・・・」


集めていた理由は・・・見当がつかない訳では無い。


「・・・公路ちゃんの遺体にね、付いていたそうだよ」


「付いていた?」


「あぁ。髪の毛が・・・股間付近に」


「・・・・・・」


「弟はこの町の警察が何も調べないことを知っていた。だから犯人に繋がる情報を


警察が来る前に回収しておいた」


「自分で犯人を捜すため・・・に?」


「・・・親父が死んだときのことがあるから。警察は何も調べないことをアイツも


よく知っていたから」


「だから一人でこんな膨大な髪の毛を集めたんですか?この町の住人が犯人かどうか


分からないのに」


「それでも一人で捜したんだ。いじめられていた自分に手を差し伸べてくれた


たった一人の友人のために、今度は自分が彼女へその時の恩返しをするために、


幼い自分の人生を投げ捨てた・・・」


いじめられていたという話は初耳だった。だけど確かに最初から彼と公路は仲が良かった


訳では無い。


ある日突然、公路は彼を家へ連れてきた。二人とも服を汚していて、顔にも痣みたいのが


あったから理由を問いただしたけど二人は答えようとせず、さっさと部屋に


行ってしまったから・・・特に問いただすこともしなかったけど、そういうことだった


のか。


「・・・紀霊君・・・」


それから私は彼が今日まで歩んできた道のりを聞く。


学校を中退して、遺体回収処理業者でバイトとして働きながらそこで作ったお金を使い


各学校の写真付きの名簿と学生服を買い取り、この町にある学校全てに侵入しては


男子生徒の髪の毛を回収した。


この町では外部の人間が勝手に校舎に潜り込もうとも皆気にはしないし注意もしないが、


放置をしないという訳では無い。気に障ると袋叩きにあったこともあるし、


お金を要求されたこともある。


それでも彼は文句も言わず叩かれ続け、必要とあれば金を渡して学校内で髪の毛の


採取に勤しんだ。


取った髪の毛は彼のお兄さんの元へ毎日持って行き、犯人のものと一致するかどうか


調べて貰いながらも必ず深夜になってでも一度は家に帰り、母親に挨拶をしてから短い


就寝時間を取る。


そして早朝から仕事へ行き、合間を縫っては髪の毛の採取、電車で移動してお兄さんの


ところへ行って、そして最後に必ず自宅へ戻り、早朝にまた出かける。


そんなことを今日まで続けてきた幼い彼の身体は、すでに限界を超えていた。


「アイツは俺の家で倒れたんです。髪の毛が犯人のものと一致すると


この用紙を渡した瞬間、糸が切れたみたいにその場でぶっ倒れて、急いで救急車を


呼びました。


だけど救急車が来る数分前、俺が職場からの電話を取っていたちょっとの間に弟は


家から姿を消していて・・・」


「・・・うちに来た。これを私に渡すために」


お兄さんは力無く頷き、そのまま声を押し殺して涙を流し続けた。



会場を後にしようとした時、祭壇の前で座る彼のお母さんの姿が目に入る。


顔は少しやつれていて肩を落としていたけれど、それでも彼の写真を見る瞳には


しっかりと光が宿っていた。


私の2番目の母とは違い、しっかりと現実を受け止めているその姿を見て少しだけ


安心してから私はその場を後にして、紀霊くんが持ってきてくれた大切な用紙と


第10期メンバー・NO29に


探し出させた証拠品を持って、忌まわしき男がいる君ヶ主家に向かい歩き出す・・・。





というのが、過去回想。


そして現在、私は歩いていた。


携帯電話の着信音がいい加減にうるさいので出てみれば、


やはりというべき人物が随分と元気そうな声で喋り出す。


『おい、この噴水頭野郎。テメー、なに人の男にいらんことをペチャクチャ喋って


出て行ってるのよ。私に挨拶が無いってどういうこと』


あーあ、今日は学校モードか・・・。面倒くさいな


「うるさいわよ、巻き糞髪女。一人で部屋に閉じこもってる根暗な女に掛ける別れの


言葉は無いから無視して出て行ったのよ。


あーいやだ、いやだ。湿気で髪がベトついちゃうわー」


『あんた家を出てどこへ行くのよ。せめて連絡先位は教えなさいよ』


「いや」


『なんですって!ふざけんなよ、オメー!!!それが親友に対する態度かよ!!』


「親友ねー・・・」


『なっ・・・なによ、違うって言いたいの?!』


「まさか」


『むう・・・』


言葉では言わないが、私は本当にこの子に助けられた。


私が自暴自棄になって『この町の男を全員殺せばいずれ犯人も殺せるんじゃないか』


なんて、


気の遠くなりそうな計画を思いつき似非町内アイドルを応援してくれる人を募集して、


金を払う代わりに私の命令は何でも聞くという同意書を書かせて、


同意の上での殺人を実行しようとした時。この町の女でありながら私は数少ない武術を


習っていない女だったため、誰かに殺して貰わないと実行できないことに気が付き


当初利用しようと目論んでいた讐居瑠葉 奉先を呼び寄せるために彼女の親友である


外路 公台を囮にしようと思い手伝って貰えないかと相談を持ち掛け、


その作戦に失敗して悔しがっていた私に『自分が殺してあげようか?』などと


物騒なことを笑顔で提案をして、


でもそれはさすがに出来ないと渋る私に『大丈夫、大丈夫。


私、自分の大切な人や物が奪われるのは大っ嫌いだけど、他人の物を奪うことに


関しては『大好きだから』などとほざいて、


『あ、それに実は私の初めての男・・・ていうか彼氏がそういうのが好きな


人でー・・・。えへへへへ』などとノロケ、


『あ、でもこのことは子考には秘密にしておくから。二人だけの設定にしない?』と


聞いてもいないのに彼氏の名前を語り、そして何だかんだで私の作戦に


便乗してくれた彼女・・・。


君ヶ主 孟徳はいつも私を助けてくれて、私のたった一人の親友だった。


でもお互いプライドが高いせいか、どうしても人前では仲良くなれず公然では


いつも罵り合ったりしてしまい他の人が見れば『絶対親友じゃないだろう?』と


言われそうな私達だけど、それでもやっぱり私は彼女のことを誰よりも


大切に思っていて、


今回のことで孟徳を追い詰めてしまったことだけは後悔をしている。


でも・・・もうそれも終わりだ。


「落ち着いたら、必ず連絡するから」


『本当?本当に本当なの?!』


「・・・うん。落ち着いたなら・・・必ず」


『・・・分かった・・・』


「じゃあ、もう電車が来るから」


『・・・』


「バイバイ、孟徳」


『・・・・・・本初』


「ん・・・?」


『・・・また・・・ね』


「・・・」


『連絡、待ってるから』


「・・・・・・うん」





さよならだ、孟徳。


「っ・・・」


電話を切り、手のひらで涙を拭いながら私は目の前に立つ人間の方を見る。


「ふぁーーーーーーーーっ・・・あ。あー、眠―い!お話は終わった?」


大きな欠伸をしながら目の前に立つ少女はこちらを見た。


隣に立っている少年はそんな彼女の姿をとても愛おしそうに見ている。


「えぇ」


「あっそ。じゃあ、もういいよね」


そう言って、少女は手に持っていた鉄パイプをこちらへ向けて微笑んだ。


「私を利用しようとしたこと、許されるんて思っちゃいねーよな?」


「・・・そうね。しっかり報いを受けないとね」


「まあでも玄徳のお姉さんの友達らしいし?一応殺さない程度で済ましてあげる


つもりだけど・・・。間違って殺しちゃったら、ごめんね」



最初からそのつもりなんだろうが。


「それは困ったわね。私、武術の心得は無いものだから。


すぐに死んでしまうかも・・・」


言葉を言い終える前に彼女は私に向かって襲いかかってきた。


無論、それに対抗する術を私は知らないから成されるがまま、


鉄パイプで何度も身体を叩きつけられる。








ねえ公路、あなたは私のこともちゃんと迎えに来てくれる?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ