表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/179

イケメンと大和撫子

 廊下に出て購買部を目指していたところ、目の前に――イケメン。


 ――水木生徒会長。


 そして、その隣には黒髪ロングの女性。いかにも“大和撫子”って感じの落ち着いた雰囲気だ。


 ――あれが、パートナーの方かな?


 どちらも凛としていて、隙がない。ただ歩いているだけなのに、周囲の空気が違う。


 ――やっぱり、格が違うというか……オーラってやつか?


 儂とアキラが無意識に足を止めると、向こうもこちらに気づいた。


 ――目が合った。


 儂は一瞬、息が詰まる。


 ――なんだ、このプレッシャー。


 けど、ここで固まっているわけにはいかない。


「はじめまして。先輩方。新入生の岩村です」


 自然と背筋が伸びる。アキラもすぐに続いた。


「初めまして。水沢です」


 水木先輩は穏やかな笑みを浮かべて軽く頷いた。


「水木だ。君たちのことは聞いているよ」


 ――聞いている?


 そうだ、軍曹が言っていたっけ。適性の話で、グラフも比較されていた。つまり、もう儂たちは生徒会長にまで知られている。


「こちらは僕のパートナーの高橋リンだ」


 水木先輩が隣の女性を紹介する。


「高橋です。よろしくお願いします」


 リン先輩は柔らかく微笑みながら落ち着いた声で言った。黒髪がさらりと揺れて、仕草ひとつとっても品がある。


「よろしくお願いします!」


 儂もアキラも、ほぼ同時に頭を下げる。


 ――美人だな。いや、生徒会長もそうだし、並んで歩いてるだけで絵になりすぎだろ。


 そんなことを考えていたら、水木先輩がふっと笑った。


「ちょうどよかった。君たちのところに行こうとしていたんだ。同じ特機型だろ?そのことで少し注意も兼ねて、相談相手になれればと思っていてね。よかったら、今から一緒に弁当でもどうかな?」


 ――性格までイケメンかよ。


 儂、内心で頭を下げたくなる。ごめんなさい、アキラが昨日「女泣かせ」だの言ってました。儂も少し思ったけど、口には出してないのでセーフだと思いたい。


「ありがとうございます!ただ、今日は弁当がなくて、今から購買で買おうと思ってまして……」


 アキラが少し申し訳なさそうに言う。その瞬間、隣の高橋先輩がピシャリと口を挟んだ。


「止めておきなさい」


 ――怖っ。


 思わず背筋が伸びる。


「昼食がなければ、端末から注文しなさい。その方がトラブルにならずに済むわ」


 落ち着いた声だが、有無を言わせぬ断定口調。


「……トラブル?」


 儂が思わず聞き返すと、水木先輩が静かに頷いた。


「君たちは特機型だ。私たちの時もそうだったけど、どうしても他の生徒から見れば“特別扱い”されていると思われる。購買部や食堂は、そういう不満を持っている者が集まりやすい場所だ。君たちを見つければ、何か言ってくるかもしれない」


「そういうことです……か」


 ――ここでもヘイト役ってやつか。食堂もダメ、購買もダメ……ちょっと怖いな。


「でも、それって……ずっと避けろってことですか?」


 アキラが少し困った顔で尋ねる。


「そういうわけではないわ。ただ、慣れるまでは無駄に敵を作る必要はないでしょう?」


 高橋先輩が淡々と答える。


「まずは、地盤を作りなさい。実力を示せば自然とそういう視線も変わってくるものよ。いい例が、このポンコツよ」


 ん? 今、ものすごく酷いことを言った気がするんだが?


「リンはいつも厳しいな。僕はそんなことないと思ってるんだけどね」


 水木先輩が困ったように笑う。


「いや、実際ポンコツでしょ?いい、こいつは運動能力はすごいんだけど、勉強はできないダメな奴なのよ」


 ――容赦ねぇ。


 儂とアキラ、揃って目を丸くする。


「そんなに言うことないだろ……」


 水木先輩は苦笑しつつも、どこか慣れた様子だ。まるで日常茶飯事って感じ。


「実際そうじゃない。子どものころから私が教えてあげて、やっと赤点を回避してるだけでしょ」


 高橋先輩が淡々と言い放つ。


 ――幼馴染か。


 儂は、ふとアキラの横顔を見る。


 ――あぁ、なんか分かるわ。多分、こういう関係になる未来もあり得たんだろうな。


 水木先輩は「はは……まぁね」と肩をすくめる。


「でも、僕はリンがいたからここまで来れたわけだしね」


「そういうところは素直ね」


 高橋先輩が少しだけ柔らかく笑った。


 ――なるほど、これが“信頼し合ってるパートナー”か。


 儂は、なんとなく胸が温かくなるのを感じながら、同時に心のどこかで焦りも感じていた。


 ――儂とアキラも、ああいう風になれるんだろうか。


 万能型を目指すって決めた。でも、それを支えるのはパートナーであるアキラだ。水木先輩たちの関係は、そんな未来の理想形にも思えた。


 儂もアキラも、自然と少し背筋が伸びる。


「まぁ、そういうことで、君たちの教室に行こう。その間に端末で注文しておいた方がいいよ」


 水木先輩が優しい顔で語りかけてくる。


 ――いい人だな。


 こんな人が特機型としてヘイトを浴びる立場に立ちながら、それでも皆に信頼されて満票で生徒会長とは。


 儂、九十過ぎの爺だけど、完敗だよ。生前でも、あんな器の大きい人間には到底なれなかった。


「はい、ありがとうございます!」


 アキラが笑顔で答え、儂も頷く。端末を操作しながら、ふとちらっと水木先輩を見る。


 ――器って、こういう人のためにある言葉なんだろうな。


 そんなことを考えつつ注文を終えた儂たちは、四人で並んで特機型専用の教室に向かった。足取りが少し軽くなっているのを感じる。


「先輩たちの弁当って毎日なんですか?」


 アキラが何気なく尋ねる。


 ――それ、今聞くか? どうでもいいと思うが?


 そう思いつつも、儂は黙って耳を傾ける。


「そうだね。リンが毎日作ってくれるんだ。ありがたいよ」


 水木先輩が照れくさそうに笑う。


「昔からの癖よ。それに、一人分も二人分も変わらないしね」


 高橋先輩も、どこか誇らしげに言う。


 ――リア充でした!


 儂、心の中で絶叫。憧れのセリフだよ!『一人分も二人分も変わらないから』って、人生で一度は言ってみたいし言われたい!


 水木先輩の、ちょっと嬉しそうな顔。高橋先輩の、世話焼きが板についている落ち着き。


 ――完璧じゃねぇか。儂、九十過ぎの人生でもそんな場面なかったぞ!


 チラッとアキラを見る。


 ――頼む、儂にも毎日作ってくれ。


 心の声が届くはずもなく、アキラは素直に感心していた。


「凄いですね。私、料理したことないんですよ。両親が料亭で働いてるので手を出すと逆に怒られちゃって」


 ――儂の夢、終了。


 その瞬間、希望が砕け散る音がした。――そりゃそうだ。料亭で働くプロたちの料理が毎日出てくる環境なら、家庭料理とは別次元だろう。


「そうなんだ。それはそれで、羨ましい環境だね」


 水木先輩が柔らかく言う。


「まぁ……食べる専門になっちゃってます」


 アキラが苦笑い。


「でも、いずれ覚えたらいいんじゃない?誰かのために作るのって、意外と楽しいわよ」


 高橋先輩がさらりと言う。


 ――誰かのために。


 儂、勝手にアキラがエプロン姿で台所に立ってる図を想像してしまう。


 ――いい。それ、いいぞ。


「……まぁ、機会があれば」


 アキラが言葉を濁しながら照れくさそうに笑う。


 ――今、儂にも希望が見えた気がした。


 そんなことを考えているうちに教室に到着。昼飯タイム――ただの休憩時間のはずなのに、なんだか妙に濃い時間になりそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ