56-呼び水となる者
巨大空クジラは浮遊島以上のサイズの巨大蛮神がなぜ姿を維持運用出来ているのは、膨大なエネルギーを別次元から供給している。だが、予想に反した損害があった場合は周りからエネルギーを摂取する事がある。摂取方法は巨大な触手による捕食活動であり、生命エネルギーを捕食することによってエネルギーを蓄えることが出来る仕組みになっていた。
浮遊島そのものを取り込む事も場合によってはあり、高エネルギーが内包されている鉱石などは捕食対象となっていることがある。必要以上のエネルギーを外部から捕食することはなく、戦闘行為による被害があった時に捕食行動に移るなど法則性があり、毎日捕食活動などは行われることはなかった。
巨大空クジラに対して敵対行為を行わない限り、浮遊島などが点在する空域の生態系を特段乱すようなことはないが、移動空路が規則的ではないため竜族やその他巨大モンスターなどの生息区域へと踏み入れることがあり、多少なりとも戦闘が行われることがある。
◇
タヴォールが岩場だと計測したところは遠目からは岩場にしか見えないが、近寄ると光学迷彩が施されていたのだった。タヴォールは長い溜息をつきながら、天球儀をかざした。
かざした天球儀からうっすらと光が漏れ出すと、光学迷彩が解け岩場から祠へと変わった。
「ツェリ姉さん、セキュリティ反応無いよ…明らかに誘ってる」
「舐め腐ってるな…タヴォール本気出せ、最初の歓迎から何もないは温存してるのか、それとも絶対の自信なのか、不滅者がどうせ絡んでるだろう。徹底的にやるぞ」
ツェリスカは気に食わなかった。
触手に襲われながら巨大空クジラの背に来たのに、乗った途端何もしなくなった事に気に食わなかったのだ。そしてこともあろうか、転送装置があるとされる場所まで何も起きず、到達したら申し訳なさそうに光学迷彩のみ起動していた事に…
ツェリスカはベヨネットハンドガンを構えながら、祠の中に入っていった。数秒後にクリア!と叫んだ。それを聞いたタヴォールは祠の中に入っていき、ザクロ・リリウムとン・パワゴも続いて入っていった。
祠の中に入ると転送装置があり、それを即座に天球儀を使って地面から突起した真四角な柱に対して術式を編み上げ、接続したのだった。その後、天球儀を使ってハッキングするタヴォールだった。ツェリスカは周りを警戒し、二人は手慣れていたもので、ザクロ・リリウムとン・パワゴも二人の行動に何も言えずにいた。
天球儀から光の線が幾重にも漏れ出し、曲線を描きながら地面から突起した真四角な柱に伸び絡みついていた。
「ツェリ姉さん、あと90秒で完了するよ」
「敵影なし、引き続き警戒体制を維持。完了したら、中心部へ転送。」
ベヨネットハンドガンを構えながら、タヴォールまで命令を下していた。
ザクロ・リリウムとン・パワゴは二人の様子が次第に本来の戦場での姿になっていってることに戸惑いを感じていた。
(ここは彼女たちがいた世界に似た雰囲気でもあるのかな…)
(さぁ…な…生き生きとしていると言った方がいいのかなんていうか)
タヴォールには、姉であるツェリスカが抱えている闇、戦いだけの毎日が安息などなく精神をすり減らされる状況に「生きている実感」をもたらしてることに気がついていた。
(解き放ちたい…姉さんの呪縛を…闇を…)
程なく、祠にあった転送装置のプロテクトは解除され、彼女たちは巨大空クジラの中心部へと転送された。
◇
光に包まれ転送された先は、先程までいた場所とあまり変わらない場所であった。転送された瞬間囲まれている事もなく、静けさだけがそこにあった。それでもツェリスカは警戒を解かずに神経を張り巡らせていた。タヴォールは転送を行う前に、転送先に罠などがないか確認をしていたのでツェリスカが行っているのは悪魔でも今までの経験から来る確認だとわかっていた。
「タヴォール、ここから天球儀が示した場所までのナビゲートを出来るか?」
「問題なし、罠や待ち伏せなどもこちらから無効化可能…ん、ちょっとまって…これは…」
ザクロ・リリウムとン・パワゴはもうタヴォールが持つ天球儀のスペックについてとやかく言うのも無駄だと感じていた。もうこの二人がいれば全て解決するんだろうと思っていたからだ。
(なあ、ザクロ…これさぁイベント?イベントじゃね?)
ン・パワゴは表情を変えずに秘匿回線を使い、ザクロ・リリウムへと現状を語ろうとし話しかけた。
(ここはそういう世界じゃないでしょ…イベントとかは基本ない世界だよ。単純にツェリスカの周りに厄介なおかしなことが起きているように見えるだけだよ…きっと…多分…)
ザクロ・リリウムも言葉にしていてだんだんと自信がなくなっていっていた。彼女たちの行動はこの世界では常軌を逸している。彼女はロールプレイングゲームをしているような感覚になっていた。彼女の立場ではあってはならないような感覚だった為、それを必死に否定しようとしていた。
「ツェリ姉さん…ここウイルスに侵されてるみたい」
「ウイルスだと?つまりこの巨大な蛮神はウイルスにかかり、その影響で次元崩壊を引き起こそうとしてるということか?」
ツェリスカは不滅者が誰かが召喚した蛮神にウイルスを仕込み、次元崩壊を引き起こそうとしている、と心の中では思っていた。しかし、確たる証拠がないため、彼女はそれを言葉にはしようとは思ってはいなかった。何よりももしそうだったとしたら、ザレクとマゴクが察知して、何かしら情報をくれると思っていたからだ。
「しかもこのウイルス…私のこの天球儀のデータベースから称号すると私達がいた研究所にあったものだ…しかも対蛮神用のウイルスプログラム」
「くっ…じゃあ、今回の次元崩壊は…」
ツェリスカとタヴォールは苦虫を噛み砕いたような顔をしていた。
ザクロ・リリウムとン・パワゴは半眼になり、二人をじとーと見ていた。
(ねぇ、ン・パワゴ…)
(言うな、草はえる)
「ツェリ姉さん、何があってこの巨大蛮神にウイルスに侵されいるのか確認しよう…」
「あ、ああ…そうだな」
「ツェリ姉さん、大丈夫よ。私たちがいた時代とは違う…きっと大丈夫」
ツェリスカは最悪の事態、つまりは自分たちが造られた研究所そのものが不滅者に占拠され今回のことが引き起こされたのではないかと考えていた。タヴォールも最悪、そうなのかもしれないと思っていた。
ただ、不滅者が自分たちがいた時代からずっと研究所を使い続けているかもしれないとは考えてはいなかった。もしも、使っていたとしたら今いるこの時代はもっと混沌としていると二人は確信していた。ザレクとマゴクがそもそも黙ってはいないはずだからだ。
「まずは中枢区を目指し、どういう経緯で今の状況になっているのか確認しよう…」
ツェリスカが先程のような戦場にいるような緊迫したピリピリした状態ではなく、不安さがまとわりついていた。
「タヴォール…ナビゲートを」
「…了解」
「ツェリスカ、大丈夫よ…きっと大丈夫」
ザクロ・リリウムは彼女が過去に振り回され、結局のところ過去への踏ん切りや不滅者との確執は拭えないまま苦しみながら生き続けるのではないかと感じていた。
(もしかして、不滅者との関係断ち切るようなことがないと…繰り返される運命を持っているとか…?)
彼女の中で悶々とした思いと共にツェリスカがそういった縁を呼び込んでいると感じ始めていた。




