55-違法なる力
チート行為、不滅者であってもそれは行うことはしない。行為そのものが世界の均衡や他の不滅者に迷惑をかけてしまうからだ。また不滅者の中で何らかのチート行為に該当することを発見した場合は即座に独自のネットワークで情報が共有され討伐対象になる。
チート行為に厳密な枠組みは存在しないが、その世界にとってすでに異物である不滅者という存在が紛れ込んでいることがチート行為に該当すると唱えるものもいる。その中で制限解除という行為は不滅者なら誰もが出来る手軽なチート行為である。
若い不滅者ほど窮地に陥った時に制限解除することが多く、その結果討伐対象になり同じ不滅者に世界から退場させられる。
◇
巨大空クジラの表面はゴツゴツしており、岩のような鱗で覆われていた。辺りには生物が存在していた痕跡や気配などは存在せず、殺風景な岩場のような荒野だった。ツェリスカたちが巨大空クジラに上陸したにもかかわらず、さっきまで巨大空クジラから伸びてきた触手の攻撃が嘘のように静まり返っていた。
気がつけば巨大空クジラはさっきまでいた浮遊島が点在している場所から移動をしており、周りの景色が雲の流れや遠くに見える浮遊島から動いていた。しかし、不思議と風は感じず、巨大空クジラの尾ひれに近い部分にいるにもかかわらず振動を感じられなかった。
「結界が張られている…いや、違うなにこれ?」
ザクロ・リリウムはキョロキョロとあたりを見渡しながらその特殊な眼で解析をしようにも、理解出来ずにいた。彼女はタヴォールが持つ天球儀っぽい見た目の魔道具なら何が起きているのかわかるだろうとタヴォールをじーっと見て答えを待った。
視線に気がついたタヴォールは、ツェリスカからいつも頼まれているのに慣れなのかすでに調べていたことをザクロ・リリウムに答えた。
「この巨大空クジラは同じ場所に戦闘時と航行時が両方存在させる術式を展開してる、今は航行時の方に自分たちがいる。ザレクとマゴクが上陸した時は戦闘時の状態だったから迎撃してくる存在が多数いたんだろう。同じ次元に2つの状態を維持し、いつでも巨大空クジラの意思で一瞬でここら一帯が戦闘区域に切り替わる。つまりいつでも不意打ちが行えるってことだな…」
「触手に食われてないけれど、すでに敵の腹の中みたいな状態じゃないっ」
「理解が早いな…」
タヴォールはザクロ・リリウムの理解の早さに驚いていた。ン・パワゴもわかってるのか見ると特に表情に変化がなかった。
「まあ、敵意を持つやつがいつ現れるかわからん状態ってことやろ」
「ま、まあ…そういうことだな」
「それでタヴォール、索敵はほぼ意味がないのはわかった。最短ルートは?」
ツェリスカの短い命令によって、タヴォールは即座に周りを警戒しながら巨大空クジラの核となる部分を探し当てた。
「さすがに上陸…というか触れている状態なら核の場所もはっきりとわかる…それにしてもこれは…ツェリ姉さん、この巨大空クジラは思った以上に厄介だよ」
蛮神にも種類があり、核となる部分が存在する。巨大空クジラのような浮遊島のようなサイズだとしても核は必ずどこかにあり、そこを破壊すれば基本的に蛮神は消滅する。タヴォールが索敵したことで巨大空クジラの核がどの部分に存在するのか露わになった。
ツェリスカは核の場所さえわかれば、核そのものに干渉し、次元の歪そのものを正常の状態に戻すことが可能だと考えていた。
(タヴォールもいるし、いざとなったらザレクとマゴクも使えば制御出来るだろう…)
ツェリスカは結構いい加減に考えていたが、今までの生きてきた経験上なんとかなると直感が告げていたこともあって行動していた。タヴォールも似たような考えを持っており、それに付き従ってきていた。
ザクロ・リリウムとン・パワゴにとっては、よくわからないけれど何とかなるものなのかという認識だった。次元崩壊が起きても不滅者なので死ぬことはないからだ。彼らは最寄りのセーブポイントへ瞬時に戻るだけなのだ。
「厄介なのは最初からだろ…それでこのクジラの背の部分へ向かっていけば何かあるんだな?」
ツェリスカは山岳がそびえ立つような巨大空クジラの背を険しい目を向けていた。
「うん、まっすぐ向かった先に都市らしきものがある。外からじゃ見えないようになっていたけれど、そこに行けば何かわかると思う」
都市という単語を聞いたザクロ・リリウムとン・パワゴはタヴォールの方を凝視し、さらなる説明を求めていた。そもそもそこまで広域に情報を集められる天球儀っぽいものに二人は秘匿回線を使って叫んでいた。
(なぁ、おかしない?あの天球儀っぽい魔道具あきらかにチートやろ)
(うん、二人が持っている魔道具は突出しすぎた性能を持ってる…その割にデメリットというか代償もないし)
「ん?ああ…岩場のような形じゃなく建造物のようなものが規則正しくあって、ほらこんな感じだ。まるで都市だろう?」
天球儀で巨大空クジラの立体画像が鮮明に映し出されると建造物がある場所がズームアップされる。
「この建造物の配置、特に術式に関連するようなものはなさそうだな…妙だな」
ツェリスカはタヴォールが映し出した立体画像を見ながら眉をひそめた。
「ツェリ姉さんもやっぱりそう思うよね。私もこれだけ巨大な生体兵器みたいなものを運用するとなると基本無駄がないようにするから、ああいった建造物にも…」
タヴォールとツェリスカは二人して、建造物の謎について話し込んでいる中でザクロ・リリウムとン・パワゴは二人の会話を聞きながら秘匿回線で話を続けていた。
(立体マッピング機能、しかもまだ到達していない区域を鮮明に表示させている)
(明らかにチート行為に該当するな、でもこの二人…オレらと同じプレイヤーじゃないだろ)
(彼女たちの…造られた場所に行けばわかるのかもしれない。何千、いや何万年前の世界から飛ばされたきたのかわからないけれど、興味をそそるわ)
(まあ、オレも面白いからええけど…本気のタヴォールと戦ってみたいしな)
◇
とりあえず、ツェリスカたちは周りを警戒をしつつも建造物がある場所へ向かった。特に何か襲われることもなく、建造物がある巨大空クジラの背に向かっているのだが、距離的に遠いのもあり一日そこらで着くようなものではなかった。
「ね、ねぇ…次元崩壊する前に到着できるよね?ね?」
ザクロ・リリウムは懸念していた、巨大空クジラは下手な浮遊島よりも大きいため、一日あれば周れるような島のサイズではないため、とりあえず目指している場所に向かって入るものの打つ手を発見する前に次元崩壊が始まってしまうのではないかと…
「時間的には問題ないとは思うが、早く到着するには越したことはないが…」
巨大空クジラの背にある建造物に向かうまでの道のりが突起した岩がうろこ状に生えていることもあり、まっすぐ進むにしても登り降りやら足元を何かと注意しながら進むため、思うように進めていなかった。ツェリスカ、タヴォールは身体的に大きいのであまり苦もなく、進めていたし、ン・パワゴも身体能力が高いのもありすいすいと進めていた。
しかし、ザクロ・リリウムは小人種であり、体力的にも厳しく結構バテバテであった。途中何度か休憩をはさみながら進み、場合によってはツェリスカがおんぶして進んでいたりした。
「ツェリ姉さん、ちょっと報告なんだけど…」
タヴォールが天球儀を取り出し、さっきと同じように立体画像を展開し、巨大空クジラのいくつかのポイントにマーカーをつけていた。その傍ら、ポーション割りを取り出しごくごくとザクロ・リリウムは飲みながら心の中でチート道具と思っていた。
「情報収集と進めていくうちに巨大空クジラにいくつか規則正しく力場が存在してるのを発見できたんだ」
ツェリスカは何かに気がつき、確証を得るためにタヴォールに確認をした。
「内側、関節部分ではなく外側のこの岩場のような場所に、ということか?」
「うん、おそらく…これだけ巨大空クジラが大きいから転送装置の可能性があると思われる」
ザクロ・リリウムは二人の会話を聞いていて、転送装置の存在について移動する距離が減る嬉しさと天球儀を使って転送装置の有無を確認はできないのかと疑問に感じていた。
(ねぇ、なんで転送装置があるかあの天球儀でわからないのかしら…)
(そこまで壊れ性能じゃないんだろ)
(何か…制限されているような感じがして、モヤモヤするのよ)
(こいつらのルーツがわかれば、何かわかるかもな…)
ザクロ・リリウムとン・パワゴ、二人は秘匿回線で話す頻度が増えていた。互いに感じる疑念が何なのか好奇心と不安に話すことで整理しようとしていたのだった。




