23-心配する思い
ツェリスカとタヴォールが持つ銃は、魔法銃、火薬式の銃、圧縮ガス式の銃とは違うタイプのものである。
ツェリスカの銃、ベヨネットハンドガンの見た目はククリ刀に酷似しており、普通の片手剣として使える。また変形時には大剣のように大きくなる。また弾に関しては物理的に一定時間残る為、魔法弾と違う性質を持っている銃である。また銃口が四角型になっている。
タヴォールの銃、アサルトライフルブルパップ式はツェリスカが持つ銃と同じタイプではあるが連射性に優れている。銃口は菱型になっており、ツェリスカが持つ銃よりも大型で近接武器はついていない
二人が持つ銃は使用者と周囲の力によって弾が生成される。また、生成は自動でされ、その度にストックされていく。ハンドガンとアサルトライフルのタイプによってストック数と燃費が異なる。
◇
「これが銃だと?」
銃士ギルドではツェリスカとタヴォールの銃について形こそは銃に酷似しているものの、銃口が四角いのと菱型であるため、魔法銃の類かと思われたが他の者が魔力を通しても反応がしなかった。
術士のギルドマスターであるヴォルディンが整えられた髭を触りながら疑問に思っていた。魔力を通しても反応しないため、術士のギルドマスターなら何か知ってると思い呼ばれたのだが、実際に彼が触っても何も反応しなかったのだ。
「リリウム氏、これの撃ち方はわかるか?」
「私、それから弾が発射されたところ見たことないんだけど?」
「「えっ?!」」
「ねぇ、あなた達これから弾が発射されるところ見たの?」
ザクロ・リリウムが苛立ちながら、銃士たちを聞く…ツェリスカとタヴォールに関しては誰もいない飛空艇の看板から狙撃していたので下からでは彼女たちの姿は見られていないのだ。奇妙な音はしても魔法弾のように弾が視認されたわけでもなかった。
「い、いえ…」
「だったらなんでこれが銃って話になったの?」
ザクロ・リリウムが銃士たちを詰め寄ることによって、二人が持つ銃に似た何かは片手剣と鈍器という形で落ち着いた。ツェリスカとタヴォールもこれが「銃」だと言わない方がいいと判断し、黙っていたのだ。
「ほんっとにバカじゃないの?常識知らないとわかってはいたけれど…」
ザクロ・リリウムの家、メイルブラドォから離れた場所にある冒険者居住区に来ていた。彼女は腰に手を当てながら眉間にしわを寄せて怒っていた。
「ザクロこわっ」
「はっあぁぁん?」
ザクロ・リリウムはため息をつきながらもツェリスカとタヴォールに説明をした。銃についての事と最近起きた出来事について―
「ここ最近、勇者一行がこっちに来てね。ヴォーガ族との争いを沈めたのよ…人種に比べて技術力はあるけれど争いをあまり好まない種族でね。領土侵犯していることについてメイルブラドォに使者が来たり大変だったのよ」
海洋都市メイルブラドォがある六角形に近いシアントア大陸の北部にある火山がある場所に住まう種族がいる。彼らの領土と海洋都市メイルブラドォの国とは領土の取り決めがあり、お互い侵略行為を行わない取り決めをしていたのだ。
しかし、海洋都市メイルブラドォは空賊が増えてきた事により、ガンパウダーを採掘するために採掘場所を拡大し、それが領土侵犯に繋がったということだった。
そして、彼らが再三に渡りやめるように使者を送ったのだが、自国防衛のためと止む得ないとのことで聞き入れないまま進んだ。
ヴォーガ族は内燃機関技術が発達しており、他の国とは違う技術力を持っていた。人種よりも小さく、器用さと優れた嗅覚があったが争いが苦手であった。しかし、領土侵犯されそれについても蔑ろにされたことにより武力行使に出たということだった。
「まあ、それで蛮神が召喚されたらしくって、勇者一行が来て討伐して仲を取り持つようにしたのだけど…空賊の数は減らなくてね」
「「蛮神だと?!」」
ツェリスカとタヴォールが蛮神という言葉に驚き、声を上げる。無論、大きな声に驚きびくっとザクロ・リリウムは震える。
「いや、蛮神って言っても俺の調査だと、何か違うらしんだよね」
先程から一緒にいるン・パワゴが発言する。ツェリスカとタヴォールとの面識がなく、お互い自己紹介もしてなかった。
「えーっと…ザクロくん、こちらは?」
ザクロ・リリウムは紹介し忘れた事を思い出し、彼女を紹介する。
「このクソ金髪女はン・パワゴっていうの、不時着した飛空艇を助けに飛空艇で向かった所、撃墜された哀れな金獅子族の獣人よ」
「あぁぁん?」
「はぁぁん?なんか間違ってる?」
二人は険悪な雰囲気になるが瞬時に冷め、話が進む。ツェリスカとタヴォールもたじろいだが二人のやり取りが日常的なものだと感じた。
ツェリスカは思った、ザクロ・リリウムは笑顔であれば可愛いのだが、「はぁぁん?」と不機嫌になった時は小人種ならではの可愛さではなく、怖さが際立っており普段とのギャップがあった。いわゆるギャップ萌えというのにツェリスカは感じていた。
「今回、召喚されたと思われる蛮神は全身が鋼で出来ている狼だったそうだ。だが、彼らが昔召喚した蛮神は岩のような身体をした狼だったんだ。もしかしたら召喚したのではなく、彼らが蛮神に模した何かを造った可能性があるんだ」
ン・パワゴは真面目に語った。
「はたして俺の拳が通用するのか…試してみたくなったのもあって来たのもある。それに―」
拳を手に打ち付けながら、自分よりも一回り大きいタヴォールを見て、にやりと笑う。
「ザクロが言っていたんだが、お前強いんだって?」
「やるんなら外でやってね、あと庭を壊さないでね、やるなら浜辺行ってね」
ザクロ・リリウムはめんどくさそうに言い、手をひらひらしてあっちいけという仕草をン・パワゴにする。
タヴォールは困ったような顔をし、ツェリスカの方に向くが彼女は頷くだけで我関せずだった。
「ちょっと模擬戦しようぜ」
ン・パワゴとタヴォールは浜辺へとスパーリングをしに行ったのだった。
「さて、うるさいバカがいなくなった事で話をすすめるね」
ザクロ・リリウムはため息を付きながらツェリスカに話す。
「話しておきたい事があるの…ルーガン族の都市で蛮神が召喚され、同時期にこの大陸の北部でもヴァーガ族の蛮神と思われる何かが召喚された。お願い、あまり危険な所にいかないで」
ザクロ・リリウムは心配していた。
ツェリスカはまさか自分が心配されるとは思いもよらなかった。戦場では誰かから心配されるということはなく、常に生き残る為にどうするか考え、死線とともにいたからだ。
「ここはあなたがいた時代とは違う、昔はどうだったかわからいけど・・・個人に出来ることは限られていることを忘れないで」
「あ、ああ…心配させてすまない。だが…ルーガン族の蛮神事件で感じたんだ―ってザクロくんはどこでその情報を知ったんだ?」
ツェリスカはこの世界の連絡、情報伝達手段を知らなかった。また新聞といったものもあったが、人種との交流をあまりしてなかったルーガン族の都市内で起きた事件だ。
「ど、独自の情報網よ」
明らかにウソっぽい言い方だったが話したくない事の一つや二つくらいあるとわかっていたツェリスカはそれ以上は追求しなかった。
「私は今回の蛮神事件で背後に不滅者がいるのが感じられた。勇者一行が立ち寄った後に起きた事件…今回もそうとも限らないが調べたい」
「…私も行くわ」
「えっ」
「私も行くって言ってんの!」
ドッゴン!!!
突如、外から大きな音が聞こえ、ザクロ・リリウムとツェリスカが外に出ると浜辺の方で他の冒険者などが向かっているのが見えた。
「なんとなく想像がつくわ」
「ああ、私もだ」
ン・パワゴとタヴォールのスパーリングは地形を変えていた。




