18-蛮神の正体とは
ルーガン族の都市セーテ・ルーガはルーガン族の中で力と知恵が両方持った者が長となる。力や知識のみでは決して長にはなれない。
しかし、力だけ持った者が長に勝ったことは今まで一度たりともなく実質的に一番強い者が長となる。
ルーガルー・ルール・ルーガンは長であり、ルーガンの名を継いだ者である。ルーガン族の中でも術の扱い、肉体的な強さが突出している。
◇
蛮神の脅威がなくなったとしても、人口が多い場所では狂信者による再召喚が即座に行われることもある。
都市部で召喚儀式が行われないように防衛機構が働いていうるはずだった。白い巨大なモニュメントであるセーブポイントがその役割を担っているのだ。この都市にもセーブポイントが設置されていたが狂信者が行った召喚儀式はその防衛機構をすり抜けるものだったのだ。
ルーガルー・ルール・ルーガンは、蛮神が召喚された後もセーブポイントは正常に作動していたのだと言う。そして何よりも火の加護を受けた我々の種族が火傷という状態になるのはありえないとツェリスカとタヴォールに説明する。
「蛮神が産み出す火は原初の火と言われる根底魔法の一種だ、加護もさすがにそこまで及ばないからな…」
「原初の火だと…」
「魂まで届く火だ、身体を蝕むものだからな」
淡々とツェリスカは答える。彼女たちの時代では当たり前とされる事なのだ、むしろ知らない状態では戦場では生き残れない。そして対処方法も治癒方法も知っているので、どうするのかも熟知している。
豪華な絨毯が敷かれ、壁一面も綺麗な模様が入った布が掛けられている円形型の部屋に三人はいた。ルーガン族が特別な相手や大事な話を行うための部屋でもあり、人種である巨人族…厳密には人造種ではあるがルーガン族以外に入ったのは初めてである。
そして、三人の真ん中には豪華な食事が置かれていた。有り大抵に彼女たちは歓迎されていた、前回蛮神を討伐した勇者たちよりも。
「しかし、浄化の術を伝授もして頂いて、誠に感謝する」
深々と頭を下げるルーガルー・ルール・ルーガン、この都市を治める者が人種に頭を下げている姿は他のルーガン族が見たら驚くだろう。
二人はそれがなんでもない事のように食事を頬張りながら首を傾げる。
「あの術を知らないと命を断ってやらないと救われないからな…同胞に、例え洗脳された状態でも手をかけるのは誰だって嫌なものだ」
ツェリスカは日常的に、さも当たり前のように言う。タヴォールも大きく頷きながら次の食べ物に手を伸ばし、口に入れる。
ルーガルー・ルール・ルーガンは、この二人の落ち着きっぷりと言葉にする内容がギャップがあり、話している内容が重いがまるで昼下がりに酒場で話すような雰囲気に只者ではないと感じていた。
「今後のここの防衛にエネルギーの問題がなければ浄化の術を常時発動させておけば、対策になるがエネルギーは足りているのか?」
「エネルギーは足りているが、そんな事が出来るのか!?」
ツェリスカの言うエネルギーは資源の事を指していた。しかしルーガルー・ルール・ルーガンが思うエネルギーとは大地の結晶たるセーブポイントが産み出す恩恵の事だった。
「むっ?」
「人種ではそれが常識なのか?」
そこでツェリスカは思い出す。ここは自分たちの居た世界とは違う事を…
「いや我々の常識だ、もしかしたら出来ないかもしれないが見てみよう」
「見てくれるのか!ありがたい!!!」
タヴォールは二人の話をそっちのけで食事にありついていた。言うまでもなく、彼女が蛮神を討伐したのだが、脳筋である彼女はあまりこういう話に参加しない。身体を動かしていた方が気楽だからだ。それでも術や蛮神などの知識は最低限持っており、バカではない。
「んまっんまっ」
もぐもぐと肉や香草がふんだんに使われた穀物などを頬張りながら一心に食べている。
「ところで前回蛮神が召喚された際は勇者たちが討伐し、ことなきを得たということか」
「うむ、召喚された場所が成人の儀式を行う場所だった。その為、ここまで被害とは出なかったのだ…それに…」
「それになんだ?」
ルーガルー・ルール・ルーガンは口をへの字にさせ、中心に眉を寄せていた。困っている悩んでいるという表情だとツェリスカは判断をした。虎のような頭を持つ亞人族であるため、いまいち表情がわからなかったツェリスカは話をしていくうちに相手が緊張していたのを知る。そのため、こちらからより突っ込んで聞いた方が早いと思ったのだ。
「あのような人種のような、巨人ではなかったのだ…巨人の口から出ていたものだったのだ。そのお主たちが人種の巨人族に失礼に当たるかもしれぬが許してくれ」
「いや、気にするな。確かにあの人種の赤ん坊を巨大化させたアレは表現が困るだろう。しかし、まさか最初に召喚された際と見た目が違うとなると召喚者が誰だったのかが気になるな」
ツェリスカとルーガルー・ルール・ルーガンが話をしている中、タヴォールは食べるのに必死だった。ツェリスカは彼女が食べる事に夢中であることを特に咎める気持ちもなかったが、気にはなってはいた。だが、彼女は特に食べたいという思いはこみ上げてはこなかった。
「あ、ツェリ姉さん!あの蛮神さ、会話出来たんだよ。今までの奴と違って―」
「なんでそういうことは先に報告しない?」
こみかみを抑えながらツェリスカはため息をついた。
「いやぁ、気分が高まっていたというか…あの後いろいろあったし、タイミングがさ、ね?」
タヴォールが必死に手をあたふたさせながら言い訳するが手に持ってるこんがり焼けた肉が台無しの拍車をかけていた。
「ツェリスカ殿、あの蛮神は我らの先祖でもあるヴァンツァー・パルサーにそっくりだった」
「最近戦死した者か?」
「いや、はるか昔にこの安住の地を見つける時の者だ。まだ、メハルジアという場所が無かった時だった」
ツェリスカはルーガン族がいったい何年生きているのかよくわからなかったがかなり前の事で最近ではないことがわかった。寿命で死ぬ、という感覚がツェリスカとタヴォールにはなく、生きとし生きる者は全て誰かに殺される世界に居たからだ。
「過去に死んだ者の遺品なり遺骨なりを用いた術かもしれないな」
ツェリスカは魔導書を取り出して開き、指を走らせながらその記述が書かれている場所を指す。そして、とんとんと文字の上に指をタップすると、文字に光が宿り、目の前に立体円形型の魔法陣が展開される。
その魔法陣から映像が流れ、術式の仕組みが映し出される。
「こ、これは?!」
ルーガルー・ルール・ルーガンは目を見開き、宙に展開されている術とそこに映し出される召喚の仕組みを知り唖然とした。
「死霊と召喚、そして、生贄の術を三位魔法陣にし、このように術を発動させたのだろう。中央の台座に遺品なり遺骨があればおそらく、召喚者もしくは誰かを生贄にした瞬間に召喚されるものだろう」
「な、なんと…」
「これと同じようなものがあの蛮神が出てきた地下から見つかったら当たりだが、違う場合は見当がつかないな…」
ツェリスカは自分の仮説が正しいかどうか気になり、術式を見て確かめようと思い立った。
「現場を見に行こう、タヴォール、いつまで食ってる?いくぞ。ルーガルー・ルール・ルーガン、案内を頼む」
パタンと魔道書を閉じて腰のバインダーにしまう。席を立つ際にタヴォールが食べていたよく焼けた肉を掴み口の中に押し込み、咀嚼する。
「いつっ」
辛さが聞いており、初めて食べる香辛料がふんだんに使われたこんがり焼けた肉はツェリスカにとって痛みだった。




