11-天球儀の標(しるべ)
メハルジア王国に置ける小人族、小人種について、ツェリスカは小人族を小人種と呼ぶが世界では「小人族」の名称で通っている。どちらの呼び名もそう大差ないため、どちらも利用されている。
メハルジア王国では小人族が主に主権を握っている、ザクロ・リリウムが「小人種と言ってもいろいろあるのよ」とツェリスカに言ったには理由がある。この王国はいくつかの小国だったのだ。一つの大きな国として統一されたのも暗殺や策略があってからこそだった。
そして何よりもその容姿がもたらす恩恵は大きく、メハルジア王国の闇は深く根強く続いていた。表の繁栄が光り輝いている程、影は濃ゆく闇は深く、「かわいいは正義」がもたらす一方的なものだった。
◇
タヴォールは天球儀を展開させ、円状のリングがクルクルと回らせながら占いをしていた。うっすらと光を帯びている天球儀本体に、その周りに丸みがありしっかりとした光が浮遊する。
宿屋の一室は明かりがあるものの、室内は薄暗かったが天球儀が魅せる淡い光によって室内は幻想的に万華鏡の中のようになっていた。
「綺麗…」
ザクロ・リリウムはうっとりとしていた。天球儀周辺はきらびやかになっており、まるで宇宙の中にいるような感じだったからだ。
「むむむー」
タヴォールは唸っていた。
「どうだ?何かわかったか?」
「DDはこの世界には来てるんだけど…どこにいるかわからない。でも生きてはいる…うーん」
「手がかりは無しか…地道に探すしかないな」
「次は私の戦斧テラシオグラツォの場所は…」
クルクルと回っていた円形のリングが止まり、光の粒は戦斧テラシオグラツォがあるとされる場所を形成していった。
「これどこだ?」
タヴォールはこの世界のことをあまり知らない。
「ここから南東の亞人族の縄張りがある所ね…うーん、ここってちょっと前に蛮神が召喚されたって噂になった所じゃない」
「「蛮神だと!?」」
「わっ!!!ちょっと驚かないでよ!!!」
「蛮神とはどういうことだ?」
ツェリスカはザクロ・リリウムに問う。彼女たちにとって蛮神という存在は不滅者が使役する召喚物だ。思考や意思などの存在はするが、人の魂を喰らうモンスターだ。
「ツェリスカと出会う前、人族と亞人族とでいざこざが結構絶えなくて、血なまぐさい事に発展したの…その時に亞人族の何人かが見せしめに殺されたのよ。それで怒った亞人族は自分たちが信仰している神に祈り、その願いに応じられ召喚されたのよ」
勇者が現れて、亞人族の暴挙を止めて、彼らとの関係を修復していった。今では国との貿易などもメハルジア王国と行ってはいる。亞人族の中にも派閥もあり種族の違いがあるが、見た目の違いから一括りにされている。
亞人族もまた、人族に対してもそう大差ないように感じられている。そのため、互いに歩み寄っていく者ももちろんいる。二つの種族は互いに言葉はある程度通じ合えたのだ。しかし、都市国家といえる程の結束力や文明力を表立っているわけではなかった為、人族の多くは蛮族として見ているものは少なくはない。
「召喚された蛮神は勇者によって倒され、二つの関係は歩み寄っていったのよ。今は違いに関係をいい方向に向かうために勇者たちがいろいろしたって聞いたけれど、あれから何も噂なんて聞かないかな…」
勇者によって蛮神は倒された事をツェリスカとタヴォールが聞き、ひとまず安心した表情になった。召喚された状態が続けば続くほど、魂を喰らわれより強力になっていく性質を持っているからだ。
しかし、彼女たちが考えている蛮神と現代に置ける蛮神は大きく性質が変わってくるが彼女たちは知る由もない事であった。
「とりあえず、南東に向かい調べよう。もしかしたら…私の剣のように問題を引き起こしているかもしれないしな…」
ツェリスカはバヨネットハンドガン状態になり、鞘に入ってる剣を見ながら言う。
「ツェリ姉さんの剣、何かあったの?」
その後、今までの経緯をタヴォールに説明し、タヴォールの顔が青ざめていっていた。ザクロ・リリウムも放置されてどのくらい経っているのかを考えるとツェリスカの時よりも深刻な事態になってるのではないかと考えるようになっていた。
「私はこの国のギルドと親密というわけじゃないから、国が調べてもらいたいような依頼はすでに他の冒険者に出ているかもしれないわね…でもそうだとしたらその戦斧なんちゃらっていうのは誰かが持って帰ってきて噂になる。噂になってないということは…」
「まだ問題は解決されてないか、問題に上がってないかのどちらかか…」
「もしかして、ヤバイ?」
「急いで調べに行った方が良さそうだな」
二人は事態を重く見ている中、ザクロ・リリウムはあまり乗る気ではなかった。流石に二人も自分たちの面倒事に彼女を巻き込むわけにはいけないことをわかっていた。
「ザクロくん、ここまでありがとう。いろいろ助かったよ」
「ん、別にいいのよ。私も着いては行きたいのだけど、今回はやめておくわ…あの地域は小人族と私の術と相性が悪いのよ。炎熱の地とも呼ばれてて、私の召喚や術が半減どころか相手に力を与えてしまう事があるのよ…ほんと、ごめん」
彼女は申し訳無さそうに魔導本、炎の原書 第4巻を触りながらため息をついた。そしてボソリと彼女はつぶいていた―
「新たな魔導本を探しておいた方がいいかもしれないわね…」
ザクロ・リリウムは炎系の術に特化していた、瞬間火力重視であり灼熱の炎の前ではどんな相手も倒してきた。そして、それに困るようなことは無かったからだ。しかし、炎の祝福された場所において威力は増すが祝福を受けている者にも効かなく、場合によっては力を与えてしまうのだった。
無論、与えられる以前に高火力の一撃で跡形もなく溶かしてしまえばいいのだが、連発出来るものでもない。また召喚したイデルマージそのものを相手に吸収されてしまう事もある。
「タヴォール、今の位置と戦斧テラシオグラツォの場所を星の位置から計算し、目標地点を記録しろ」
「ツェリ姉さん、大丈夫。もうしてある…位置的には私が拾われた場所の北東付近。ここに来るまでのマッピングはしてあるから、迷うことはないはないわ」
天球儀は事細かにタヴォールが歩んだ経路が光の粒子で3D化した地図に変わる。高低差や立ち寄った村や集落なども事細かに表示されたことにザクロ・リリウムは驚きを隠せなく、すごいという声が漏れ出していた。
「あっ!そうだ、行く前にタヴォールさんのギルドカード作らないと!」
「ギルドカード?」
「IDタグのようなものだ、それがあるとこの世界では便利だ」
「問題はどのギルドに入るか…よねぇ」
ザクロ・リリウムは悩んでいた。メハルジア王国には占いギルドなんてものは存在しないからだ。術士ギルドはあるが、タヴォールの術は見たところ攻撃用には見られなかったからだ。
「ザクロくん、ここには格闘ギルドはあるか?」
「えっ、あるけれど…」
「なら、タヴォールをそこに登録させよう」
こうして彼女は格闘ギルドへ登録させられた。なお、タヴォールが登録しに行った際にそこに所属しているギルドメンバーの人たちは顔をそらしたり、気まずい空気が漂った。そして、ギルドマスターとはなぜかすでに知り合いだった。
「大丈夫だ、同意の上だ」
タヴォールは爽やかな笑顔と共に言った後にツェリスカは渾身の一撃をタヴォールのみぞおちに向けて放たれた。その見事な一撃はサンドバッグを叩いている巨人族の男の拳よりも響き、タヴォールの足が地から離れ、空中に一瞬浮いた。
そしてそれを食らっても耐えていたタヴォールは試験をせずになぜか正式にギルドカードが付与された。




