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幻妖の縁〜双刻鬼伝〜  作者: 緋澄
肆章 堺藤
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堺藤に捕まって三日が経った。一日二回は牢に来る郷里が今日は珍しくまだ来ていない。

確実に相手が弱るところを突いてくる郷里に会わずに済むなら良しと思うべきだろう。

相変わらず腕に絡みつく蔓のせいで一切動けない。

どうにかして逃げる算段を考えるが腕が外れない限りどんな良策も実現不可能。溜息を吐いて天井を仰ぐ。月丘の鬼と子供達は無事だろうか。

毎度そう思うが、口にすれば郷里の機嫌を損ねるのは経験済みだ。二度目の溜息が漏れた。


「こんにちは」


おっとりした声音が聞こえ入り口を見ると、七葉が前回と同じく中くらいの包みを持って入って来た。暫く見ていなかったから新鮮な気がした。


「久しぶり。今日はあいつは?」


「郷里君?今日は元老達に呼ばれて皆いないの」


私みたいな弱い鬼は呼ばれもしないんだけどね、と七葉は苦笑を溢す。

堺藤はその者の人格や内面ではなく力のみで価値を決めている。価値の無い者には存在自体認められない。酷い社会だと紅矢は思う。どう考えたって七葉は人が出来てる。いや、人じゃないけど。郷里の方は気が狂っているとしか言いようがない。人と鬼の普通や常識は違うということか。ふとそこで何か忘れていることに気づいた。


「今日は黄雷沢山持って…」


「紅矢」


「え?」


問い返す七葉に優しく微笑む。


「この間名乗ってなかったからな。"紅葉"じゃないって言ったから呼ばないよう気遣ってくれたんだろ?」


「えっあ…その……紅矢、君」


赤い顔で呟く七葉は、私の事も七葉って呼んで欲しいな、と照れた様に笑った。つられて紅矢も小さく笑う。


「…甘ったるい空気のなか悪いんだがそれは二人きりの時にしてくれないか」


凛とした声が唐突に投げかけられて七葉の背後の入口を見やる。七葉はハッとして慌てて声がした方にごめんと謝る。

入って来たのは空色の髪に金の瞳の男にも女にも見える中性的な顔立ちの鬼。

その鬼を見た途端脳裏に三日前の狂ったように笑いながら水を操り十六夜達を痛めつけていた鬼と被った。

息を呑む紅矢を見下ろす金の瞳は不思議と澄んでいる。紅矢の前で膝を折り形のいい口を開く。


「波月がすまなかった。だか安心しろ。月丘の連中なら誰一人死んではいない」


波月というのがこの間の鬼なのかは分からなかったが告げられた言葉にホッとした。

それを見てくすりと七葉は笑みを零し、空色の鬼の背後に立って紹介する。


「同じ顔でもう一人いて、それが波月君。で、この子が妹の舞月(まいづき)。一応双子なんだよ」


舞ちゃんって呼んであげて、という七葉に呼んだら殺す、と舞月が言い放つ。


「それに七葉。その説明じゃ語弊がある。身体は一つ、魂が二つある双子だ」


「その方が解りにくいって」


言い合う七葉と舞月の話を聞く限り、要は二重人格のようなものかと頭の中で結論づける。同じ顔でも性格が真逆だと雰囲気も全然違うものだ。

ふと七葉と言い合っていた舞月と目が合う。

舞月は徐に目を逸らし一言。


「波月には気をつけろ」


そう言い残すと牢の出口に歩いていく。

七葉が食事に誘うが、用はそれだけだと足を止めることなく牢から出て行った。わざわざ月丘の事を知らせにここまで来たのかと思うと、一見冷たそうだが優しい性格なのだと思う。


「波月には、ってどういうことだ?」


しかし舞月の話し方は完結過ぎて疑問しか生まれない。どういうことかと七葉を見ると困ったように眉をハの字にさせて説明してくれた。


「紅葉君のことは前に言ったよね」


「俺にそっくりだって奴だろ?」


「うん。それで昔にね、波月君と紅葉君が一騎打ちをしたんだけど、波月君の負けで…。多分そのことかと…」


「…俺と勝負、って意味あるか?」


いくらなんでも勝敗決まってると思うんだが…、とはいわないが、七葉も困った様に笑みを零した。

にしても月丘の件で波月の代わりに舞月が謝る、なんてまるで彼奴ら全員その波月とかいう鬼が一人で相手したみたいではないか。はたと、そういえば七葉が呼ばれなかった理由は聞いたが二人は何故ここにいるのだろうか。弱い、ということは今の推測だとまずないだろうに。

紅矢の思考を読み取ったかのように七葉は答える。


「舞ちゃんというよりは、波月君が性格にちょっと難があってね。不機嫌になると殺しちゃうから元老達は二人を呼ばないの」


まるで野生の獣のようだがすんなりと納得出来た。ただなんとなく、あの双子に殺されるなんて事はないような気がした。

月丘の事を教えてくれた仏頂面の舞月の顔が思い浮かぶ。


「そういえば、わざわざ教えに来てくれたこと礼言えなかったな」


「また舞ちゃんの時に連れてくるよ」


そう言う七葉はとても楽しそうに笑っていた。

Ⅳ・登場人物


郷里 (さとり)

左目の下に傷跡がある。

堺藤の鬼。能力は獣変化。幼馴染の紅葉がいなくなってからは荒れ気味。


七葉 (ななくさ)

堺藤の鬼。全体的に色素も影も薄い。周りと外れていた紅葉を心配したりと、紅葉に対し好意があった部分もある。


兄:波月・妹:舞月 (はづき・まいづき)

堺藤の鬼。二重人格者であり、周りからは波舞月(はまづき)と呼ばれている。妹は寡黙で冷静な性格だが、兄は遊び半分で殺すことが多く、狂気的な性格。お互い水を操るが兄の方が力は強い。昔紅葉と決闘をし引き分けた。


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