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幻妖の縁〜双刻鬼伝〜  作者: 緋澄
肆章 堺藤
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地下牢から出た青年は上機嫌に仲間が集まる広間に向かって歩き出す。

内心仲間と集まるのは正直面倒くさい。あの牢で、紅葉(くよう)と二人っきりで遊ぶ方が楽しい。絶望した表情のなんとも言えない高揚感。紅葉の事なら何でも知ってる。自分の意志に忠実な分、喪失すると周りが見えなくなるところは変わらない。だけど少しは頭を冷やす時間を与えてあげなくちゃ。じゃないと嫌われちゃうし。そうしてまた甘やかして、苦しめてあげるんだ。

青年は小さく笑みを零して右手についた血を舐めとった。







他の仲間が集まる広間に踏み入ると、視線が青年に集まる。


郷里(さとり)、あいつは?」


仲間の一人が問う。今この場にいるのはほぼ同年代ばかりだ。着物を各々に動きやすいよう改良した者が多い。色も様々で目がチカチカする。郷里と呼ばれた青年はチラリと仲間を一瞥して口を開く。


「起きてる。自分を人間だと思ってるみたいだけど」


そう答えれば傑作だというように笑い出す者や興味深かそうにする者。そして珍しく端で静かに座っている波月の口角が上がるのが見えた。


「人間であることは否定…したんだな」


また違う仲間の一人が郷里の右手に微かに残っている真っ赤な血を見て伺う。郷里が生返事で返すと、仲間内で口々に騒ぎだした。


「あの場合は転成したことになるのか?」


「華桐さんには…」


「昔と変わってるか確認してみるか?」


「やめてくれる?」


盛り上がる空気に冷たい静止の言葉が落とされる。静まりかえるなか郷里の言葉に不満そうに一人が口を開いた。


「なんでだよ?それに…お前に命令される(いわ)れはな…」


「…決まってるだろ。紅葉は俺の友達(もの)だ。永遠にさ、あの牢に閉じ込めて…三百年前のように誰かが逃がしたりなんかされたらたまんないし」


相手の言葉を遮ってくすくす笑いながら話す郷里は突然笑みを消し全員を睨めつける。

信頼心の欠片もない郷里の言葉と視線に空気が一瞬で悪くなる。何処からか、それは友達とは言わねーだろ、と呟くのが聞こえた。


「ははっ。友達だよ。紅葉の笑顔も、楽しそうな顔も、泣き顔も、痛みに歪む顔も苦しむ声も憎悪の瞳も全部大好きだ」


自身の身体を抱きしめて笑う郷里の瞳に狂気の色が宿る。周りは危険なモノを見るような目で見つめ、無理矢理波月を引きずって郷里を残し広間から出て行った。


「そうだ。それでいいんだよ。今まで通り、俺だけの紅葉でいればいいんだ…ふふっははははははははは!」


狂った笑みを零す郷里を広間の外でただ一人、七葉は悲しそうに俯いて聞いていた。

ぽつりと、静かに、誰にも聞こえないような声で呟く。


「逃げて…紅葉くん…」


その悲痛な思いは誰にでもなく暗い闇に溶けて消えた。




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