第3話 しばしの休息
南署・副署長、秋葉勝教は帰路に就こうとしていたが居酒屋さなだの料理が頭の中でちらつき
『ちょっと一杯やって帰ろう』と
居酒屋に向かって歩き出した。
秋葉は道端に咲く紫陽花などを眺めながら歩き
つかの間の平和な時間を楽しんでいた。
彼は元々この時代の人間ではなかった。
鎌倉時代・北条家の武将であり侍だった。
件のタイムトラベルで、この時代にやってきた800人中の一人だ。
『人生、何があるか、わからないものだな・・・』
今の彼は普段から防弾着にスタンガン付きの拳銃を携帯している。
明日の心配もそこそこに歩いていたが先ほどから誰かが後をつけてきている・・・
夕闇の街は人影もまばらだった。
「だれだっ!」
振り向いた秋葉は後ろの人物に向かい罵声を浴びせると
建物の陰から一人の男が姿を現した。
「私だ、かつのり殿、種田一之進だ」
「えっ!・・・おぉっ!一之進殿ではないか、いつ戻った」
「あはは驚かせるつもりはなかったんだが、先ほどロンドンから戻った」
「おぉ、そうであったか、知らなんだ・・・あ、つい時代言葉がでてしまうな、あははは」
「あはは、相変わらず元気そうで良かった」
種田が秋葉のスーツ姿を冷やかした
「うん、どこから見ても、もうすっかり現代人だな」
秋葉が答えた。
「おぬしこそ見違えたぞ、あはは」
種田はセーターにジーンズとカジュアルな服装だった。
「おぬしは、もうやめたらどうだ?あはははっ」
「おう、そうだな種田君、あはははっ」
二人は戦国時代を一緒に駆け抜けた盟友であった。
一杯やろうという事になり二人で居酒屋に入った。
女将ふじ美が出迎えた。
「秋葉様、いらっしゃいませ」
「女将、個室は空いてるかな」
「はい、何名様でしょう…」
「御覧の通り二名だ」
「はい、では御案内いたします、どうぞ……」
「相変わらず繁盛してますな」
「はい、おかげさまで、ありがとうございます」
過去の武勇話に盛り上がって
酒を注がれるまま呑み、気が付けば21時・・・
秋葉はいつの間にか少し眠っていた。
個室に女将がやって来た。
「秋葉様、ただいま店に電話がありまして、そろそろ起こしてやってくれと種田様から伝言がありました。
お疲れのようですので私の車で、送ります」
「ん・・・すまんな、連れはどうした?あいつめ先に帰ったか?」
「はあ・・・」
「一緒のあいつは先に・・・」と秋葉は言葉に詰まった、思い出したからだ。
女将が
「本日は、秋葉様お一人で来店されましたが・・・」
「あぁ・・そうだったな、すまなかった…」
女将に送ってもらい秋葉は宿舎に帰ったが自室でしばらく動く事が出来ないほどゾッとしていた。
秋葉は、すっかり思い出した。
『あいつ去年、死んだんだ』
種田は、きたいち興信所・ロンドン支所に配属となり
ジャンプルームの管理を、まかされていたのだが
去年の今頃イギリスの魔物に殺害され亡くなっていたのだった。
『なんだ今日、あいつの命日じゃないか、忘れていたよ・・・すまぬ、一之進・・・』
友の幽霊とは言え生きている人間とのように過ごした先ほどの時間・・・
アパートに帰宅した秋葉は真っ暗な自室で立ち尽くし、この体験を頭で整理しようと一人、涙ながらに必死に震えていた・・・
『あいつは生まれつき耳が不自由だった、俺、だから・・・だから北条病院に行けって・・・言ったんだけどなぁ・・・人一倍苦労して・・・人一倍努力して・・・侍になったんだ・・・
お前は俺と違って立派な、凄い人間だったぞ』
「そりゃあうれしいな勝教殿」
幽霊になった一之進は相手の心を読んで、真っ暗な部屋の中に居た。
「うわぁーっ!びっくりもぉー・・・脅かすな一之進っ!」
「あはは勝手に一杯やってたんだ、すまぬ」
「・・・・」
「あしたは我も御供させてもらうぞ」
「えーっ!・・・マジか?」
「マジじゃ」
「あはは何だよマジじゃって あははははっ!」
「はーっ はははっー!うわさに聞いておったが一年間の地獄勤めがおわってな、生まれ変わるか誰かの守護霊になるか選べと冥界の神に言われて、もう少し、おぬしと静華姫と恩人・一凛さまの傍に居る事にしたわ、守護霊じゃ」
「おーっ、その手があったのか…」
「おうよ、あったわ、アハハハハっ!」
「そうか、そうか…」秋葉は友との再会に涙しか出てこなかった…
一之進には、まだ企みがあった。
「勝教殿、実は少々相談がある」
「ほう、何だ」
「死んで色々調べやすくなってな、今回の作戦…」
南署副署長・秋葉勝教、寝不足、確定。




