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女社長、転生したら3年で潰れる貧乏領地の令嬢だった 〜現代知識で立て直す異世界経営〜  作者: 冬馬


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隠れた領地を支えていた人

領内の食事を一括管理することをお父様に提案した次の日に、

大まかな話をバンズに伝えた。


これまで領内の食を支えてきてくれたし、

これからは、食堂と一緒に一層領内の食を支えてほしかったからだ。


「ねぇバンズ、領内で料理が上手な人は誰かしら?」

「そうだな⋯⋯」


真剣に考えながらも、窯からパンを出す手は止まっていなかった。


こんな問いをされても普通は困るだろうなと、

口にしてから後悔してしまった。


「そりゃ、牧場近くのマァムだな」

「そうですね」


バンズの答えにアレクも賛同した。


「2人ともその人の料理を食べたことがあるの?」

「領のやつならみんな食べてるんじゃないのか」


領内にそんな人がいることをはじめて知って、

領にはまだまだ隠れた逸材がいることを嬉しく思った。


「旦那さんが猟師で、よく独身の人たちとかに、

狩った獲物を使った料理を分けてくれているんです」


アレクが話した彼女の振る舞いに、感銘を受けた。


猟での獲物は、領主邸に3割納めるだけでよく、

後は全て狩った人のものというのがここでのルールなのに、

それを分け与えるなんてそうそう出来ることではないからだ。


「大げさかもしれんけど、ここの食の半分は俺で、

もう半分はマァムが賄っていると思う」


バンズが言うからこそ重みがある言葉に、

この世界に来て半年近く経つのに、彼女に会っていなかったことを後悔している。


「牧場の近くに居るのね」

「家の前に、毛皮を干しているから行けばすぐわかる」

「ありがとう」


居ても立ってもいられず、足早にマァムの元へと向かった。



「ここで間違いなさそうね」


確かに家の前に、イノシシらしき皮が1匹丸々ぶら下がっている。


煙突から煙が出ているのを見ると、

マァムは家にいるようだ。


ドアを軽くノックして、


「すみません、リズと申します。

マァムさんはいらっしゃいますか」


ドア越しに声を掛けると、中でバタバタとした物音とがして、

音が静まった後に、ドアがゆっくりと開いた。


「領主様の娘様の?」

「はい、そのリズです」


開いたドアの先には、不安そうな顔をした、

30歳すぎの私よりも背の低い女性が立っていた。


「うちのものがなにか問題でも起こしてしまいましたでしょうか?」


不安にしていたのは、領主様の娘が家に来ることなんてそうそうないからだった。


「いえなにか問い詰めたり来たわけではありません、

マァムさんにお願いをしたく来ただけです」


私の言葉に、不安そうな顔は少し緩んだが、

まだ、肩に力が入っているようだ。


「私にですか?」

「はい、話に聞きましたが、マァムさんは食事をみなに振る舞っているそうですね」

「⋯⋯はい」

「なぜ、そういったことをされているのですか?」


私の問いに、後ろにいるアシュを見たり、

目がせわしなく動き回っていた。


多分聞き方を失敗してしまった。


両手を上げてあげながら、


「別に責めているわけではありません。

自分たちだけで食べていいのに、回りの人に振る舞っているのが気になってしまって」


マァムが一度視線を落とし後に、

私の方を見直して答えた。


「ここでは食事はとても重要です⋯⋯。

私たちだけがいいなんて言っていられません」


肩の力を一気に抜いたようで、肩を下げて続けた。


「⋯⋯パンもりんごも、領のみんなが作ってくれているから食べられるので、

それに少しでも恩返しが出来ればと思ってしていました」


この言葉を聞いて私は思わずマァムの手を握ってしまった。


「なんて素晴らしい人なんですか!」


突然なことに、マァムは顔を赤くしてうつむいてしまった。


「パン屋のバンズが言っていました。

領の食の半分は、あなたが支えていると」

「そ、そんな⋯⋯」

「そんなあなたにお願いがあります」


握っていた手を離し、1歩下がってから、


「あなたに領地の食事を作っていただきたいのです」

「え!?わ、私にですか?」

「はい!」


話が長くなると察したのか、マァムが家の中へと招き入れてくれた。


中に入ると、外からでも微かに香っていた、

なにかしらの美味しい匂いが鼻を刺激してきた。


「もしかして、調理中でしたか?」

「肉の下ごしらえをしてるだけなので大丈夫です」


二人掛けの対面テーブルに案内されて、椅子に座った。


「お付きの方もこちらの椅子に」

「いえ、私はお嬢様の後ろでかまいません」


アシュの答えに、しぶしぶマァムが対面に座り、

先程の話の続きを始める。


「今は各々でパン屋でパンを買い、スープなどを作っていますが、

それを一箇所にまとめて調理すれば、薪を節約できるとは思いませんか?」

「えぇ、言っている意味はわかります」

「節約した分を使って、食事を少しでも豊かにしたいのです」

「それを私に任せるってことですか?」

「そうです。ただ薪を節約して肉とかを増やすだけでなく、

美味しい食事を振る舞いたいのです」


ただ肉や料理の数を増やすだけじゃダメ。

美味しくて、また食べたいと思ってもらえないのならやる意味がない。


「でも、なぜわたしなんですか?」

「バンズもアレクも、ここに来るまでに何人かに聞きましたが、

マァムさんの料理は美味しいと皆言っていました」

「そっそんな⋯⋯大げさですよ」


びっくりた反応を見せたが、

最後は小さく微笑んだように口元が緩んでいた。


「材料費は私たちが出しますし、調理場を新しく建てる予定です。

みんなの分を調理するのであれば、香辛料なども買うことが出来ると思います」

「買い出しはどうしたらいいのでしょうか?」

「シードルを配達しているものに頼んでもいいですし、

可能であれば、配達について行ってもらってご自身でされても問題ありません」


小さく頷きながら、マァムがおもむろに席を立ち台所へと向かった。


どうしたのかとアシュの方を振り向き、二人して顔を見合わせた。


再度マァムに目をやると、部屋を満たしていた香りの元の鍋から

スープらしき物を皿に注ぎ、私たちの元に戻ってきた。


「こちらを味見して頂けますでしょうか」


差し出されたスープからは、食欲をそそる匂いが香り立っていた。


「それでは、いただきたいます」


スプーンを手に取り具材を確認すると、

肉にジャガイモと多分パンを一口サイズに切った物が入っている。


まずは、スープの味を確かめるために、

具材を載せずにすくい上げて口へと運んだ。


「!!!」


コショウや塩とは違う別の風味に、綺麗に肉の脂身の味が混じり合っている。


次に肉とスープをスプーンに載せて口に含んだ。


噛むと肉から肉汁とスープが溢れ出し、肉の美味しさを引き立てている。


「食べたことがない味付けですね」

「森で採れる薬味を使って味付けをしています」

「薬味の知識もお有りなんですね」

「香辛料は⋯⋯あの高いですから」


少し申し訳なそうに答えてきたことに、

こっちが逆に申し訳なく感じてしまう。


「アシュも食べてみて」


私はアシュに、お皿とスープを差し出したが、


「お嬢様が召し上がったものを私が食べるなんて⋯⋯」

「私が口を付けたのはまずいよね」


あまりの美味しさに、ついアシュにも味わってほしくてしてしまったことだ。


「お嬢様が問題ないのであれば⋯⋯」

「え!私は気にしないわよ」


そう言うと、アシュは皿とスプーンを手に取り、

なぜか手を震わせながらスプーンを口へと運んだ。


「塩コショウとは違う味付けですが、美味しいです」


アシュの反応は素直だった。


「えぇ、本当に美味しかったわ。

香辛料の代わりに薬味で代用しているのも素晴らしいわ」

「ありがとうございます」

「お礼を言うのはこちらの方よ」


その後は、大まかな話をした。


1日1000イェンでの賃金とすること。

マァム以外にもお手伝いとして2人雇うこと。

献立はマァムに全て任せること。


「大体はこんな感じでいいかしら」

「はい」

「急に押しかけて、無理なお願いをしてごめんなさいね」

「いえ⋯⋯私食べるのも作るのも好きなので、

それで、リズ様の役に立てるのがうれしいです」


私よりも小さい身体からやる気がみなぎっているのがわかる。


「私のためじゃなく、領地のみんなのために頑張ってほしいわ」

「はい!みんなのお腹を掴んでみせます」


マァムと軽く握手をして、家を出た。


屋敷への道すがら、アシュが少し不機嫌みたいだった。


「アシュ、なんかあったの?」

「私も薬味の知識があれば」


ボソッと小さく囁いた言葉はしっかりと私の耳に届いた。


屋敷の食事は全てアシュが賄っている。


確かにマァムと比べると味気ないかもしれない、

でもそれは、お父様が食費を切り詰めている原因でもある。


「アシュの食事を私が残したことある?」

「⋯⋯ありません」

「私に付いてきながら、屋敷のこともしているアシュは素晴らしいわ!」


アシュに抱きつき、感謝していることを表した。


「マァムに薬味を教えてもらえるように、アシュに時間を作るわ」

「それだと、お嬢様のお側にいられません」


抱きしめた手の力を少し強めて、


「お父様たちにも美味しい食事を食べてほしいの」

「そうですね」

「私にとって、アシュは家族以上の存在だから機嫌直して」


この言葉にアシュは顔を真っ赤にして、

頭から煙を出してしまった。


アシュから離れて、軽く駆け出した。


「おっお嬢様!」

「早くこないと置いていくわよ」


無意識に出たさっきの言葉は嘘じゃない。


この世界に来て、一番一緒にいるのはアシュで、

なぜかわからないけど、アシュが後ろにいるから頑張れる気がする。



最後までお読みいただきありがとうございます。

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