食事の自由
商団を作ったからと言って、商団の方ばかりにかまけてはいられない。
商団よりも、領地をどうするかのほうが重要だ。
「リズの記憶だと、12月には雪が降り始めるのよね」
今は9月。
冬支度までの猶予が刻一刻と近づいている。
「アシュ、頼んでいたものを見せてもらえる」
「こちらです」
手渡された数枚の資料に目を落とす。
「全人口が152人、0歳から10歳が14人――」
今更だが、領民の年齢や性別に家族構成をアシュに調べてもらっていた。
全体像がわからないと、どのくらい冬の蓄えを準備するべきか把握できない。
「やっぱ、10代と20代の若い層が少ないわね」
「多くが、ここを出て行ってしまっています」
「20年後には、少子高齢化で働き手が居なくなってしまうわね」
「しょうし?こうれい?」
アシュが言葉の意味を理解できないまま話を続けた。
「水車で効率化をするのもいいけど、このままだと働き場所を奪ってしまうわ」
以前ギータが不安がっていたことだけど、
全部が全部効率化をするのは、まだ早いかもしれない。
この領地は特殊な社会構造で成り立っている。
元の世界で言うなら社会主義に近い。
この領地を維持するためのお父様の苦肉の策でもあったし、
これを否定するつもりはないが、これからを見据えていくと、
どうしてもそれが足かせになってしまう。
「とはいっても、無駄を省くうえでは効率的ではあるのよね」
うーと唸りながら、苦渋の選択を選ぶしかない現状に、
少しばかりの不安を覚えた。
「お父様のところへ行くわ」
悩んでてもしょうがなく、椅子を立った。
「お父様、お話があります」
「入りなさい」
扉を開ける手が一瞬止まった。
正体バレかけ事件以降、精神的な壁を作ってしまっている。
「今は⋯⋯それどころじゃない」
小さくつぶやき、自分自身を奮い立たせて扉を開ける。
「商団で問題でもあったかい?」
中に入ると、お父様はいつもと変わらず優しい声で問いかけてくれた。
それだけで、緊張がほぐれた。
「いえ、領地の仕組みを変えたいと思い相談に来ました」
「仕組みというと?」
「領民の食をまとめたいのです」
「食をまとめる?」
「はい、現在領民が各々で調理しているものを、
一箇所で調理して、それを配給するような形に変えたいのです」
「パン屋を発展させた感じか」
思っていた以上に、お父様の反応は良かった。
「これから冬を迎えますが、
毎日各家が料理のために薪を消費するのは効率がよくありません」
「冬に薪は大切だな」
「これを見て下さい」
さっきアシュから貰った領民の構成資料を見せた。
「働き盛りの3割が独り身です。
彼らは食事はパンとジャガイモで済ましているそうです」
「彼らの食を充実させたいということか?」
「それもありますが、今後領地に人たちを迎え入れるときに、
食事処がないヴェルデンでは難しいのです」
貧民だったジャンやユルたちは、喜んでくれていたが、
お金を出せば酒や好きな料理を食べられる他の領地と比べた際に、
どうしてもヴェルデンは見劣りしてしまう。
「薪の節約分などを考慮すれば、毎食肉を出すことが出来ます」
「案としては悪くないが、1食いくらにするつもりだ?」
「1食250イェンで、10歳以下は無料で考えています」
「出来るのか?」
「そのために、これまで稼いできたのです」
「一度始めると、中途半端なところではやめられなくなるぞ」
「わかっています」
お父様の顔が綻んだ。
「なら、やってみなさい」
「はい!」
書斎を後にして、今回の選択が正解だったのか、
部屋に戻るまで何度も葛藤した。
無駄を省くと言えば聞こえはいいが、
ある意味では食事の自由を奪った可能性は否めない。
不安そうな顔をしていると、
「お嬢様、きっと今は食べられるありがたみのほうが重要です」
アシュの不意の一言にハッとした。
「それが自由を代償にするとしても?」
「まだ、自由を語れるほど豊かではありません」
少しだけ、胸のつっかえが軽くなった気がした。
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