国を利用してやる
「商品の監査と保証を国でやっていただきたいのです」
「売りもんの監査と保証を国で!?」
へイザーが、うるさい反応を見せたが、
ギルバートは黙って、静かに考えている様子だった。
「別に、国中の商品全てってわけじゃないわ、
申し出があったものだけで構いません」
「その意図は?」
これまでと打って変わって、鋭い声色でギルバートが問い返してきた。
「ジャガイモは、数ヶ月前までは毒イモと忌み嫌われていました。
実際に、死者を出した農作物ですから」
この発言に、お父様は悲痛な表情を浮かべていた。
それでも、私は続けた。
「ですが、正しい処理を行うことで、今では領民のお腹を満たし、
領外から、わざわざ買いに来る人までいるものになりました」
「正しい知識がないと扱いきれないものを、
売るための保証がほしいってことですか?」
「売るためではなく、買うための保証です」
ギルバートの目が一瞬見開き、身体がこちらに乗り出してきた。
「私が良識のある人間だから良かったけど、
ヴェルデンイモをちゃんと処理せずに、売っていたらどうなりますか?」
「集団食中毒に⋯⋯でも、それだと信用が無くなって次はありません」
「それは、正常な人の考えです」
眉間にシワを寄せるギルバート。
「ただ、そうなると全部の商品をするべきだとなりますが」
「理想はそうですが、今の段階では差別化のためです」
「リズ、差別化というのは?」
ずっと黙っていたお父様が、我慢できずに聞いてくる。
「例えば同じパンがあったとして、片方はなにもなし、
もう片方に、国が監査・保証している印があったらどっちを買いますか?」
「印が付いている方だな」
ギルバートとへイザーも、小さく頷いていた。
「もし、印がないのが100イェンで、
ある方が、150イェンだとしたら?」
一呼吸置かれ、
「状況によるが、ある方を買うな」
へイザーが答えた。
「なんとなく言いたいことはわかりますが、
国がそれを行う利が見当たりません」
ギルバートの問いは至極真っ当だ。
そんなもん、売る側がしっかりやれば良いと言いたげそうな目をしている。
「申し出た商品の売上の2%を、毎年納めるとしたらどうですか?」
「!?」
眉を一瞬動かし、わかりやすい反応をした。
そりゃそうだ、さっきまで売上の数%の税でやり合ったばかりだから。
「シードルであれば、現状だと120万イェンですかね」
「そこまでする理由は?」
「新しいものというのは、簡単には受け入れられないものです。
なので、その障壁をなくすための投資です」
「シードルは順調に売れているように見えますが」
「ここら辺ではそうですが、今のまま北部や東部に持っていって、
同じように売れるかはわかりません」
多分売ることは出来る。
だけど、時間と人が掛かってしまう。
「国の威光を金で借りたいと?」
「そこは、お好きなように捉えてもらって構いません」
フフンと鼻を鳴らして、ギルバートが深く座り直した。
「悪くはないし、面白い話ですが――」
なにが引っかかっているんだ?
「申込みの数によっては、部署を新しく作らないといけないのと、
不正や問題が起きた場合、それは誰が責任を取るか」
ギルバートの抜け目のなさに、頭が下がる。
「申請時に、10万イェンを支払うのではどうですか?」
「なるほど、敷居を上げることでふるいにかけると、
だけど、低すぎませんか?」
途中からへイザーが全く話についてこれずに、
私とギルバートの顔を往復させるだけだ。
「高すぎると、単価が安い商品はやりませんと言っているものです」
「リズお嬢様が言う差別化なら、単価の低いものは切り捨てるべきでは?」
「物の善し悪しは、価格で決まるわけではありません」
「とは言っても、利用する価値を見出す人が居るかが問題です」
私だけの利用なら、形骸化するだけの仕組みだし、
そもそも、作られもしないだろう。
「まぁはじめはうちだけになるかも知れませんが、
1年もすれば、処理しきれない数が来ることになります」
自信に満ちた笑みを、ギルバートに返してやる。
「不正と問題の方はどう処理されます?」
「申込時に、所在等を明確化と、責任は申込み側としますが、
国側でも、徴収した全体の1割程度は保証のために積み立てておいてほしいです」
「なるほど、本当に面白い仕組みだ」
お父様とへイザーを蚊帳の外のまま、
私とギルバートで、話が盛り上がり続けた。
「いや~、税務調査に来たというのに、
面白い話が出来て、大変有意義な時間を過ごせました」
1時間近く話し合い、それなりの形にまとまったと思う。
「ある程度話が出来る文官様で、こちらも助かりました」
「商品の監査等に関しては、一度持ち帰って上と話し合って揉む必要があります。
もしかしたら、また話を聞きに来るかもしれません」
なぜか楽しげな様子だ。
「それでは、私たちはこれで失礼させていただきます」
2人を見送り、応接室にお父様と2人になった。
「リズ、商品の監査を国に任せるとはどういうことだ」
「ギルバートが言っていたように、国の威光をお金で借りるための、
ただの構造づくりです」
「それだけに、売上の2%を出すのか?」
「申し込んだ商品の2%なので、そこまで痛くありません。
それ以上に受けられる恩恵は計り知れません」
首を傾げ、納得が出来ていないようだ。
「ヴェルデン商団として、シードルに国のお墨付きがついたとします。
それによって、買い手はこう思います――」
お父様はゴクリと息を飲んだ。
「ヴェルデン商団は、国に認められた商団なんだと」
はじめは商団ではなくて、ヴェルデン領として考えていた。
しかも、税を5%以上提示されたときに、
代替案として提案するつもりだった。
「それだけで、ヴェルデンイモや今後売り出す商品も、
買い手は勝手に、国のお墨付きがついていると見ます」
この提案の本当の目的は、錯覚によるブランドの定着の加速化だ。
そして、これを理解出来た人だけが、
この制度の旨味を享受できる。
「年間、売上の2%なら広告費としては安いです」
「広告費?」
「いっ、いえなんでもありません」
やばい、この世界にはまだ広告という文化がなかった。
口が滑って、無駄に冷や汗をかきそうになってしまった。
「それでは、急に商団を作ってしまったので、
やらないといけないことが出来ましたから、戻ります」
「あぁ、負担を掛けるが頼む」
背中に掛けられた言葉は、どこか弱々しかった。
商団の運営なんて、セバスに聞いてわかるかしら?
「ぶっちゃけ、商人と商団の違いも理解できていないんだけどな」
ブツブツとつぶやくと、
「バーカス様にお聞きになられるというのはどうでしょうか?」
アシュがその答えを教えてくれた。
「そうね、その通りよアシュ!
餅は餅屋に聞くべきよね」
「もち?ですか?」
アシュが不思議な顔をしているけど、
気にしないで、部屋へと戻った。
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